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カミのみぞ知る

 生きていたってつまらない。世の中なんてくだらない。君はそうは思わないかい?
 少なくとも、私にとっては現実なんてその程度のもんだ。個性がどうの多様性がどうのと言ってみたところで、ヒトは自分が気に入らないものは排斥するし理解できないものには攻撃する。それでいて利用できそうなものはどこまでも利用する。ほら、考えるだけでおぞましい。

 どいつもこいつもそうだった。私がちょっと引っ込み思案で大人しいと、臆病で話すのも苦手と知ったとたん、損な役回りばっかり押し付けてきやがって。学校も職場も大して変わらない。ヒトのことなど気にもせず、自分だけ要領よく生きていると思っているやつはたくさんいる。根は悪人、でもそういう奴ほど八方美人で色んな奴に取り入っているから始末が悪い。仮に私がそういう悪人を糾弾したとしても、何故か悪いのは私ということになってしまうだろう。

 ストレスばかり溜まっていくしみったれた日常、私はそいつを少しでも解消するために、ささやかかつひそやかなる復讐を毎晩試みている。嫌いな奴の名前を書いた紙を使って簡単な人形を折り、それをハサミで切っていくのだ。バラバラになるまで切り刻むこともあれば、あえて数箇所に切り込みを入れるだけに留めることもある。さて、どっちが苦しいだろうね。
 幼い頃は折り紙や裏の白い折り込み広告を使っていたが、たまに和紙など使ってみると一気に雰囲気が増す。ことわっておくが、私は黒魔術だの陰陽術だのとは特に関りがない。あくまで雰囲気を楽しみながら自分のチープなプライドを守っているだけだし、この『復讐』が本当に惨事を引き起こしているかどうかも知りようがない。
 けれどもごくごく稀に私が刻んだ人形の部位と嫌いな奴が不調を訴える部位とが一致したりなどすれば、心の中で『ざまあみろ』と暗い喜びに打ち震えるのも事実だ。私が嫌な気持ちになっている時お前たちは満たされているのだから、お前たちの苦しみで私が満たされるのは至極当然だろうよ。

 ある時、小学校の同級生が死んだと、少ない友人の一人から連絡が入った。とびきり嫌いだった奴のうちの一人だ。正直生きてても死んでても興味も関心もないし、なるべく過去を思い出したくもない。
 が、暗い過去というやつはトラウマとして自分の意思に関係なく思い出してしまうものらしい。そういえば死んだその同級生は、つい最近も夢の中に出てきて私の眠りを盛大に妨げていきやがった奴だ。あまりに理不尽で悲しく腹が立ったから、久々にそいつを『切って』やった。ひと思いに首をスパッと。それから数日、そいつが死んだ。
 バイクで酷い交通事故を起こして、首切断の即死だったらしい。いやあ何とも奇妙な符合だねえ。知ったこっちゃないけど。

 人を呪わば穴二つ、なんて言うけど、私はそもそも呪いなんて信じちゃいない。だいたい、人間ひとつしかない穴の方が少ないんだ。墓穴がひとつふたつ増えたところで困ることはないだろう。
 真相はカミのみぞ知る、ってやつだ。

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