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短編小説集

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自作の短編小説を集めてあるよ。ジャンルフリー。
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#コメディ

メテ夫くん

降ってきたアイツ「杏子ちゃんと話ができますように、杏子ちゃんと話ができますように、杏子ちゃんと……!」  夜空を見上げるのも、願い事を口に出すのもずいぶん久しぶりな気がする。星に願いを、なんて言うだけなら簡単だが、見えなくなるまでに三回連続で唱えるとなるとなかなか難しい。 「最後の方が微妙だけど、まあ大丈夫だろ」  晴れていればナントカ座の流星群が見頃――そんなニュースが流れていた、ある日の夜。夕食を済ませたぼくは自転車を駆り、近所の高台までやってきていた。地方、それも山に近

サイノカワラ

 あの世とこの世を分かつ三途の川ほとり、死後の世界の一歩手前。ここ賽の河原では今日も、子供たちのすすり泣きく声が絶えず聞こえていた。  子供たちは功徳のため、親不孝の罪を償うためにと、血と汗を流しながら、石を運んでは積み、運んでは積みしている。しかしその石積みが適当な高さになってくると鬼がやってきて、適当な難癖をつけて石積みを打ち崩してしまうのだ。そうして子供たちはまた石を積み、また壊され、が延々と続く。  それが賽の河原の日常であり、何百年ものあいだ繰り返され続ける光景だっ

恐怖のヨーグルト

 便秘になってしまった。  有り体に言って、屈辱である。まさかこのオレが、こんな無様な症状に悩まされる事になるとは思いもよらなかった。  ひいき目に見て眉目秀麗文武両道、幼い頃より多くの名声をほしいままにし、一流の会社で一直線にエリートコースをひた走ってきたこのオレが、二十代の半ばにして――便秘!   社内で神か仏のように崇め奉られているこのオレがまさか便秘だなどと知られては、大幅なイメージダウンは避けられない。オレの持つ完全性はまさに天上から地の底まで落ちるといっても過言で

智慧の翳り、信仰のゆらぎ

 二〇二〇年代ももう末期となり、スマートフォンが一般に普及し始めてから二十年ほどが経ちました。今や、およそ八割もの人が個人でスマートフォンを所有している時代です。  パソコンやネットワークの知識がない人でも簡単かつ手軽にインターネットを利用できるようになると、インターネットを介して様々なサービスが提供されるようになり、多くの人々にとって、情報通信技術はより身近で便利なものとなりました。技術の進歩とともにサービスの質もどんどん向上し、ユーザーはその恩恵を享受していたのですが……

隣人はFOOL!

 運命に導かれるかの如く邂逅を果たす勇者と魔王。史上稀に見るスケールの小さな戦いが、今、始まる! プロローグ 世界は震撼した。  長く平和を甘受していた人々の前に、突如として『魔王』を名乗る存在がその禍々しき姿を現したのである。  魔王――地方によってはイケメンだったり美少女だったりしてすっかり風格の薄れつつあるそれだが、このとき現れたのはそのような類のものとは一線を画す、まさに魔王と呼ぶにふさわしい形貌を有していた。  黒色に近い肌と尖った耳を持ち、見たもの全てを射殺す様