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わたしは生クリーマー

生クリームに目がない。
とろっとなめらかな舌ざわりと、口いっぱいに広がるコク深いミルクの風味。幼少期、お菓子を作る母にまとわりついては、手渡されたボウルに残ったクリームを指ですくって舐めていた頃からずっと、その深い愛は変わらない。

ケーキのデコレーションやプリンのトッピングでも、大事に大事にクリームの部分を残しながら食べすすめるのが常で、もしかして単体で食べるのがもっともおいしいのではないかと気づいたのはずいぶんと昔の話だ。
生クリーム専門店なるものが登場した際には、いよいよ時代がわたしに追い付いてきましたねとほくそ笑んだものである。

もちろん、乳脂肪分の高い動物性100%であるに越したことはないが、植物性のものだって十分においしい。
ストレスが溜まったり、自分にごほうびを与えたくなったりしたら――実際、それはかなりの高頻度で訪れるのだけれど――わたしはまず生クリーム、ないしホイップのパックを買ってくる。
手軽に食べたいときは市販の泡立て済みのやつを買うこともあるが、やっぱり自分の手で泡立てたものは食感も味わいもひとしおであるように感じるのだ。

意気揚々とパックを開けて中身をボウルに注ぐとき、いつも一瞬の逡巡が生じる。
少しだけ残しておいて、パスタなんぞに活用したほうがいいのではないか。しかし、クリームパスタなんて牛乳で作ってもちゃんとおいしく仕上がるのだし(個人の見解です)、それならば唯一無二の方法で、生クリームとしての生をまっとうさせてやったほうが良いに決まっている、という結論に毎回たどり着く。

口元をにやけさせながら全量をボウルに注ぎ入れたら、あとはひたすら泡立てるだけ。
わたしは甘さひかえめが好きなので、お砂糖はほんの小さじ1ぱい程度。少しだけレモン汁を加えると泡立ちやすくなると知ってからはそうしているが、時に入れすぎて風味が残ってしまうのが玉に瑕(まあそういうフレーバーだと思えばなかなかいけるのだけど)。
よく推奨されているが、氷を敷くなんてめんどうなことはしない。夏場でもない限り、だいたい10分もあれば好みのかたさにできあがってくれるからだ。

ちなみにわたしは、その日の気分によって仕上がりのかたさを変えている。
もっともよく作るのは、お店のシフォンケーキやガトーショコラなんかによく添えられているようなゆるめのものだが、ちょっとボソボソした固めのやつもすごく好き。
個人的には、乳脂肪分が高ければ高いほど、固めのほうが濃厚さが際立っておいしいように思う(ブラックコーヒーとともに味わうと、さながら貴族のような優雅な気分に浸ることができるのだ!)。

ひとり暮らしの特権が炸裂するのはこういうときで、けっして恥ずかしがったりためらったりしてはいけない。
かわいらしい小皿に移し替えるなんてもってのほか。しっかり大きめのスプーンをチョイスしたら、そのままボウルに突っ込んで思いっきりすくい取るのだ!
できたてのクリームを口いっぱいにほおばるときの至福たるや。ふわふわでとろとろで、こっくり濃厚でほんのり甘くって、ああ神さま! と思わず叫びたくなってしまう。
罪深きわたしをどうかお許したもう。そして、身に余る幸福を与えてくだすって本当にありがとう……!

単体で食べることに飽きてきたら、ホットケーキの切れ端やクッキーなんぞを付けてやれば、また新たな心持ちになれるので愉しい。
ここで気を付けてほしいのが、けっして主役を見誤らないこと。クッキーにクリームを付けるのではなく、クリームにクッキーを浸すくらいの気持ちで臨んだほうがよい。

または、前述したブラックコーヒーのように、甘くない飲みものとともに味わうのもおすすめだ。
余談だが、大阪梅田の駅近くにあるカフェには「コーヒー付きホイップクリーム」という天才のメニューが存在していた(ウインナーコーヒーではなく、コーヒーとは別添えでクリームが供されるのだ)。

アイスクリームにのせてパフェ風に仕上げれば、さらにリッチな気分を味わうことができるし、ポテトチップスと交互に嗜もうものなら、禁断のあまじょっぱさに身悶える。
かようにも多様な楽しみ方を持つ生クリームよ、恐るべし。実は糖質もかなり低いので、糖質制限ダイエッターにもうれしい食材なのだ(もちろんわたしは違う)。

最後に直近のクリーム事情をお話しすると、昨日業務スーパーで1Lの大容量ホイップを手に入れてしまったので、かなり無敵の気持ちでいる。
昨日と今日は、冷凍庫で固くひやした極細ポッキーにたっぷりとくぐらせて食べました。それでもまだ800mlくらいは残っているので実に幸福だ。

……ここだけの話、「バターそのまま丸かじり」「モッツァレラチーズ一気食い」といった乳製品への偏愛エピソードは他にもあるのだけれど、それはまた次の機会に。

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