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沼の話をさせてくれ

着物にはまっている。
と言っても本格的に着付けを習っているわけではない。
YouTube動画を見たり本を読んだりして(あとは母に教わったりして)独学で着て、休日になると着物でほうぼうへ遊びに行くのが楽しいのだ。
ちょっと足先だけ浸ってみるはずだったのに、気づいたら全身沼に入っていた。
今回は、思ったよりも深いこの沼の話をさせてほしい。

沼への誘い

2023年1月某日、幼馴染に会うために渋谷へ。
この幼馴染はとんでもなく面白い人物で、20年以上になる長い付き合いの中でたびたび度肝を抜かれてきたのだが、この日もびっくりさせられる出来事があった。
いつも待ち合わせ場所にしているハチ公前に現れた彼女の装いが着物だったのだ。
「なんの予告もなく!?」と「なんで着物!?」と「やられた!!」いう気持ちが同時にやってきて、ほとんど1年ぶりの再会であるにも関わらず私の第一声は「すごく似合ってる!!!」だった。
「久しぶり〜!元気〜?」とか言えなかった。ごめん。

着物って難しいのでは?

この日の幼馴染の装いは、赤味がかった紫の着物にシックな柄の入った帯をお太鼓に結び、黒い羽織に襟巻きとがま口のショルダーバッグ、というものだった。
やよい軒(好き)でからあげ定食を食べながら話を聞くと、どうやら着物は私が思ってるよりも気軽に着ることができるらしかった。
彼女曰く、

  • 着物はメルカリなどのフリマアプリを利用するとびっくりするほど手軽な値段で楽しめる

  • 明治、大正時代の着物が普段着だった時代の写真ではわりとみんな着崩れている(本来、かしこまった場以外では気楽に着ていいものである)

  • 着物警察にはまだ遭遇していない。カジュアルに楽しむにはとりあえず「結婚式」とか「入学式」とか「〜式」と付く場に着ていかなければOK

とのこと。
俄然興味が湧いてきた私は、早速帰宅途中の電車の中でフリマアプリを起動して着物を探してみることにした。

初期費用のこと

私が最初に手に入れたのはウールの着物のアンサンブル(共布で着物と羽織が作られている)だった。値段はメルカリで確か1,500円くらい(送料込み)。
あとは半幅帯を700円、ショールを800円くらいで購入し、腰紐やら伊達締めやらコーリンベルトやらの小物は実家で眠っていたものを送ってもらうことに。
冬場のインナーはヒートテックで良いと聞いたので普段と変わらず、靴は持っていたショートブーツで、鞄も手持ちのもので対応できたので諸々含めて総額は約5,000円以内で収まってしまった。

着付けはスポーツ

最大の難関は着付けである。
こればかりは回数がものを言うようだと直感でわかっていたので、黙々と日々練習に励むことにした。
冬だというのに汗をかくので、毎晩お風呂に入る前に練習。
これはスポーツなのか?と思いつつ汗をかき、YouTubeを見ながら何度も練習し、幼馴染や母にLINEで色々訊き、時間がかかる上に慣れないながらもどうにか一人で着付けができるようになっていった。
すごく汗をかくし大変だけれど、着物を着るというのはすごく気持ちが華やぐものなのだと実感する日々だった。

はじめて出かけた日

そして迎えたある冬の土曜日。Googleで調べておいた渋谷の喫茶店へ行くため朝8時に起床。
ひとりで上手く着ることができるか不安だったけれど、どうにか準備ができた。
着物で出かけるなんて数年前に浅草でレンタル着物を体験して以来。自分で着付けるのはもちろん人生初。
「着崩れてない?」「帯結べてる?」とそわそわしつつ電車に乗って渋谷へ。
ようやく辿り着いた喫茶店で、店員さんに「素敵なお召し物ですね」と褒められたいへん嬉しい気持ちになったのだった。

着物って楽しい!

ほんのちょっとのつもりで足を踏み入れた沼が予想以上に深かった、というのはよく聞く話だ。
私は元来飽きっぽく、着物だって一過性の趣味になるだろうと思っていた。甘かった。
質の良いものが安価で手に入り、長い年月をかけて誰かが大切に着てきたものが自分に巡ってくる。
流行り廃りもなく、誰かと被ることもなく、体型が変わっても歳を重ねても着続けることができる。
「こんなに素敵で楽しいことがあるのだろうか」
そう思いながら今では完全に沼に浸かっている。

最近は夏用の絽の着物をいくつかメルカリで買い、実家の桐箪笥からも浴衣を回収してきた。
鮮やかな着物に袖を通すたびに、お気に入りの帯を結ぶたびに、気持ちが華やぐ。うきうきする。
こんな沼があったとはね!責任とってくれ!と思いつつ、楽しいことを教えてくれた幼馴染に心から感謝している。

(おしまい)

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