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女性の目線を取り入れたいのでという言葉に違和感

私は地元の避難所運営協議会に所属している。元々、避難場所である中学校のコミュニティスクール委員をしていたこともあって、地元の議員さんに声をかけられて、メンバーの一人になった。
最初は避難所運営マニュアルの文章を直してほしいという話だった。私は文書指導、作成等を生業にしているので、そういう意味で誘われたのだと思う。
ボランティアではあったけれど、もともと興味があったことでもあり、引き受けた。本業と同じことを無償でするには強い動機がないといけない。そうしないと、想定以上に時間や労力がかかった時に、本業への影響を避けられなくなるから。
料理人が無償で友人に料理をする動機、トレーダーが良い株情報を無料で友人に明かす動機、プロの画家が無償で絵を描く動機ね。見返りではなく。

ま、そこはおいておいて、その会の役員さんたちが、プロとして私にお願いしたのではなく、付け足しのように言った言葉があった。

女性の視線が足りないので、入れたいんだよね

私はかなり違和感を覚えたけれど、先の大地震の時にも男性職員が生理用品を全女性に1個ずつ配ったというトンデモ事件があったので、日本ではまだそういう運営側に女性が入らないから、そんな冗談みたいなことも起きるんだなーーーーと思っていた矢先だったから、そういう意味でも引き受けた。

私が入った時には、すでに男性だけで作られた避難所マニュアルが存在して、そこに女性メンバーの視点が加われば完成すると思ったらしい。つまり、男性がガチっと作って、そこに、育児や介護の経験の多い女性の意見が加わり、きめ細やかな女性の考えが加わるなどして、その避難所マニュアルが完成すると。

違うよね。作るところから人口比で女性を半分入れないと、だよね?

結局、マニュアルは、私が文章のプロの目で大幅に書き換えた。どこをどう改訂したのか注釈に書けないくらい書き換えた。
私は語句を直したんじゃない。マニュアルの整頓をしたって感じ。「なぜこんなに寄せ集め感があるのか」そのように最初に思った。そのことは「隣の町のマニュアルと、隣の市のマニュアルのつぎはぎなんです」という答え。納得。男性が急いで作るとこうなる。仕方ない。
でも私は、こういうマニュアルを作ることの大変さをよく知ってるから、できるだけ元の文言を触らないように整頓したつもりだったけど、かなり変わってしまった。ごめんなさい。
私も変にイライラしてしまったので、次に機会があれば、草案から関わりたい。

これと全く同じ経験をしたのが、市のいじめ防止条例を作った時。やはり、教育委員会の事務方が、隣接都市の条例をつぎはぎして原稿を作ったものを、委員全員で話し合いながら修正し、自分たちの意見も足していった。その時は「有識者」と「市民」で、男女比は4対1くらい。日本にしては上出来。

さて、この2つの案件では、私は「女性の視点」を入れたのか?
答えはNOだ。女性らしいきめ細かな感性って言うけど、残念ながら、私はそんな人じゃない(笑)
私は「文章を生業としている」プロとして、真剣に仕事をしただけ。一人の人間として必死にかかわっただけ。

そもそも「育児」や「介護」「福祉」「調理」「救護」の話は女性の方がきめ細やかな配慮ができるよねって言ってること自体、ジェンダー問題に引っかかる不適切な発言。昭和のおじさんたちを非難して大変申し訳ないが、平成の男の子たちは、そんなこと言わないもの。

なぜ、男性に「育児」「介護」に詳しくない人が多いのか、配慮できない人が多いのか。もともと全部、昭和の日本人男性のせいじゃない?

男性中心のマニュアルでうまくいかないのは、女性を検討メンバーに加えていないからじゃないんだよね。最初から女性が加わって作ってないからなんだよね。最初から女性を半数入れなかった男性のせいなんだよね。
と、若干憤り気味な私。

こういうチームに限らず、女性の視点を入れたいという話はよく聞く。実際、内閣府男女共同参画局からは「災害対応力を強化する女性の視点」ということで防災復興ガイドラインが作成されている。

この文章の違和感

人口の半分は女性であり、女性と男性が災害から受ける影響の違いなどに十分に配慮された、女性の視点からの災害対策が行われることが、防災や減災に強い社会の実現にとって必須である。

令和2年5月
男女共同参画局
災害対応力を強化する女性の視点
男女共同参画の視点からの防災復興ガイドラインより

この文章に違和感を覚えるのは、何も女性だけではない。男性でも気づける人は気づける。だからそういう意味で、この文章を読んでも「いいね」とか言って、変さに気が付かない人は、女性とかであるとか男性であるとかそんな問題ではなくて、その人がそういう人だってこと。
女性と男性が災害から受ける影響の違いなどに十分配慮された対策は、女性の視点からの災害対策だとあるけれど、女性の視点だけでもだめだよね。

そもそも男性中心で作るから、女性の受ける影響が分からないだけで、作るところから入っていたら、そんなことにはならない。逆もそうかも。
女性だって災害から受ける男性の影響とかあることを、想像力が乏しくて思い描こう努力もしない人はいるだろう。女性だからってきめ細かいわけでも、か弱いわけでも、メンタルが弱いわけでもない。私はむしろ、強いと思う。

第1部7つの基本方針の7とか……

7の要配慮者への対応においても女性のニーズに配慮する

って、日本語的にも変。文字だけを直しても、この日本は直らないんだよね。もう少し分かった人相手だと、はじめに言葉ありきで、文字を修正することで「そういう精神なんだね!」と気づく場合もあるけどね。

例えばだけど、私がきめ細やかな人で、要配慮者(この言葉も相当変)などに配慮した「避難所運営マニュアル」を作ったとするじゃない?
そして「さすが女性の目線が入ったマニュアルは違うね!」って言われた時に、私が「私、実は FTM なんですよ」と言ったら、なんて答えるのかな。

そういうことだよね。きめ細やかな配慮が必要だったらきめ細やかな人が作ればいいんだよ。それが女性であるかどうかは関係ないのでは?

大胆なマニュアルを作りたければ、大胆な人が作ればいい。それが男性であるとは限らない。

つまり、そういう偏見を持っていない人が、それぞれの人生経験をフルに活用して、知恵を総動員して作ればいいんだよね。

それがさ、こういうのって、肩書きのある人が作る決まりになっているみたい。人望のある人は大事だよ。避難所運営の時にはね。肩書きなんて、ほんと無意味。資格だったらいいかもだけど。

せ・め・て、男女比は人口比にしようよ。で、そうできないのはなぜなのか、考えようよ。

みなさん、そんな文句ばっかり言ってるなら、やめたら?って思うよね。
時々心底がっかりする目に遭うこともあるのよ。

でもね、私たちの地域では「避難してきた人が運営者」という考えに基づいて、自治会に入ってる人も入ってない人もみんなで協力しようよ!という基本理念で、マニュアルを作り変えることに決まった。そのポリシーにはいたく賛同するので、私は今日も、きめ細やかな運営マニュアルになるように、文言を考えているのです。

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