羽あり

羽あり<名>夏の交尾期に羽がはえてとぶアリ。はねあり。(夏)

この世には、すぐ近くにあって確かに経験したことがあるにも関わらず、言われてみるまでまったく気付かないことがたくさんある。今回あたったこの「羽あり」、確かに夏にしか見たことがない(という前に夏にしかいないのだから当たり前であることを前提に、それでも、ということ)。夏の季語になっているくらいなのに、これまで露も知らずに生きていた。交尾期にしか羽がはえないというのも気になるトピック。ということでもうご存知になってきましたが、わたくしが責任をもってググってまいりました。

今回ぐぐりながら、「えーマジか!」「すごーい、やばーい!」「きゃー超ウケるんだけどー!」といったように、普段はJK、ああ失礼、女子高生のような、もしくはJD、ああまたまた失礼、女子大学生のような女子らしさから最も遠いと言われる私が、彼女たちを凌駕する勢いでキャピキャピしてしまったほど、超絶面白かったありの知られざる事実。
問題なのは、私の興奮がキティーちゃんではなく(今時あのなぞの猫に興奮する人たちがいるのかはさておき)『羽ありの生態』というトピックからくることだが、パソコンの画面を覗かれさえしなければ、私は誰から見ても恐らく、思わず興奮を制御できず、たまらずキャピついている可愛い女子に見えることだろう。しかし残念ながら、私はそれを家で一人でやってしまっており、しかし是非ともあなたの想像力をフルに働かせ、私をハンパなく洒落乙なカフェへと誘い、ついでに一杯900円くらいするスペシャルテーコーフィーなんかもパソコンに溢れないように謙虚に左斜め前奥の方に設置した形のセッティングで、私の今を描いてもらえれば問題はないはずだ。ほら、ね、かわいいでしょう。画面の中のありが、あの猫に見えてくるでしょう。

今回参考にしたのはこちらのブログ(https://torepikulog.com/%E7%BE%BD%E3%82%A2%E3%83%AA-%E7%BE%BD%E3%82%92%E8%90%BD%E3%81%A8%E3%81%99-%E3%81%AA%E3%81%9C-%E7%BE%BD%E3%81%AA%E3%81%97/

正直このブログを読んでもらえれば、私がわざわざ書くことは何もなくなってしまうのだが、それではやはりこのコラムの意味がなくなってしまうので、このブログを元にした上で(つまり読んだ体で)話をすすめることにする。

働きありが実は全てメスだとか、だから巣の中にいるのはメスありだけだとか、辞書にもあるように夏の交尾期だけに羽がはえて、それを越すと羽は落ちてしまうとか、そういったことは特に興味を引かないのだが、スキップして私が食いつくのは「メスの羽アリは、別の巣のオスの羽アリと出会うと、そこで交尾をして、一生子供が産めるだけの精子を体の中にため込みます。」という部分だ。
えぇ?!い、一生分?!どういうこと?!

ということで、今日はありの生殖にフォーカスし、その内容の紹介を兼ねつつ、副音声的に私の意見も読んでもらいたい。

まず上記ブログにもあるように、基本的に巣の中に残るのはメスのみで、オスは生殖活動への関与以外は不要の存在なので、交尾を済ませると1ヶ月足らずで死んでしまう。これはカマキリなど他にも同じような例はあるし、逆に交尾後にメスが死ぬというパターンは聞いたことがないので、自然界で優先順位が高いのはメスということになってしまうのだろう。子孫を残していくということだけがほとんど人生の目的の全てであるとも言える動植物の世界では、まあ仕方がないことと言える。それに従えば確かに生死の発生はかなり多くなるが、しかしそれは同時に、私たち人間が日々うだこだやっていることに比べると、ずいぶんとスッキリしているようにもみえる。

ありの交尾をみたことがないので動画や写真で確認してみたが、(種類にもよるけれど)メスの羽ありがオスの体に対して大きすぎて、交尾というよりかは、メスがオスを引きずって歩いているようにしか見えない。オスが交尾後すぐに逝ってしまう(という表現はここでは他の意味も含まれる気もするが)ということに対する切なさよりも、強引に引っ張られてみえる滑稽さの方が勝ってしまう。人間界ではどちらがSだとかMだとかで盛り上がったりもするが、ここまで体のつくりと立場に差があれば、そんな比較の必要もない。それを(恐らくは)全くの無意識でやっているのだから、自然とはなんとも残酷である。

カマキリは交尾の最終段階からメスがオスの頭を食いだすらしいが、ありはどのように朽ちていくのか気になったので調査を進めてみたところ、トゲオオハリアリという種の交尾を観察しているページにあたり、それによると、巣の外で交尾をした女王は、オスを付けたまま(この表現がとても面白い)巣の中へ戻るらしく、すると、メスしかいない環境の中、かつ生態としてオスは生殖のためにしか使われないある意味メスよりよ下級とされる存在がノコノコと自分たちの家に入ってきたのであるから、これはもう邪魔以外のなんでもない。ということで、1時間後には働きありに噛み切られて頭部が取れてしまった写真があがっていた。しかしそれよりすごいのは次の部分だ。
「この状態でもオスは普通に動いて交尾が続いています。」ええ?!まだ?!まだ続けちゃうの?!

それから時間の経過に伴い、身体のあらゆる部分が順にもぎ取られていき(まるで昔の中国の凌遅刑じゃないか)、19時間かけてようやくオスは「死ねる」らしい。もちろん、その19時間の間交尾は続き、女王様の体内に一生もつ量の精子を送り続ける。ちなみにこれを果たせたオスありは、あり界では「よくやったぞお前!!!」と称賛され、周りのオスたちからは「お前めっちゃいい人生だったじゃん!」と肩をたたかれる。「死んでも離れない」交尾を果たしてもなお、そこに愛などといったある種の胡散臭さがないのもまた、潔くて最高である。

先ほど、一生分の精子を女王の体内に送ると書いたが、この話がまた調べてみると面白い。
まず驚くのは、ありはオスとメスの産み分けが自由自在ということだ。うちの姉には子供が3人いて、長男、次男ときて、3番目を妊娠した時には「絶対女の子!」とかいって見事に美しい三男を産んだが、彼女がありであれば間違いなく有言実行100%の可能性で女の子を生んでいたことだろう。ありの存在に気が付かず踏み殺して歩いている人間には、ありからすれば、お前らそんなこともできないのかよ、と呆れていることだろう。
そんなありの産み分けの方法がまた興味深く神秘に満ちている。摩訶不思議なことをあたかも簡単かのように言ってしまうと、オスありを生むときには、卵子と精子を受精させなければいいのだ。「は?」と言った方、正解!私もエコーを効かせた感じで「は?(は?は・?は・・?は・・・・?)」とつい呟いてしまった。産み分けの仕組みはとても簡単で、受精により生まれた子供は全てメスの性をもち、無精卵は絶対にオスとして生まれる仕組みになっているのだ。「なんで?」という疑問はこの場合愚問であり、とにかくそうであるらしい。(すごーい二刀流〜!)

女王ありは一度の交尾で大量の精子を体内に蓄積して保存することができ、小出しにそれを使用できる。つまり、「あーそろそろ数匹生んどくか。はいじゃあ精子と卵子合体させまーす」「えーちょっとまだ生むの面倒だわ、しばらく休みで」といったように、精子と卵子を同じ体内に保管しておきながら、また同時にそれを生殖活動の必要に応じて操ることができるのだ。人間のメスの一部が避妊活動で忙しい中、女王ありはとてつもない能力をもっていることに愕然とする。状況に応じて女王はオスが必要かメスが必要かを判断し、それによって産むべき性とタイミングを図るのである。なんじゃこの神秘は!

ついでに出てきたのでシロアリとクロアリの違いまでみてみたら、なんとシロアリはありではなく、ゴキブリの仲間という事実も判明し(正しくはゴキブリ目という分類の生物らしい)、もう私はおったまげてひっくり返るしかない。世の中知らないことだらけである。クロアリとの違いとして、シロアリはオスも巣の中で生活し王アリの座を持てるため、母と父である女王シロアリと王シロアリは一生を通して交尾を幾度も(おそらく夥しいほどの数)繰り返し、子供をひたすらに増やしていく。それ故に、シロアリが発見された家は大変な苦労をしなければならない。

正直これまでに書いてきたありの生殖活動の様を伝えられれば、私がここで言いたいことは何もない。いつもなら偉そうな発言を連ねる私だが、こんなにも意味不明で、故に神秘で溢れるありを前に、人間である私に何が言えようというのか。かつて友人とYouTubeでいろんな動物の交尾の様子をみてはゲラゲラと笑ったり驚いていたりしたが、さらにびっくりするネタばかりで、もー最高ー!となっている。ありは個人的にかなり苦手なのだが、これからは嫌がりつつも、なんかちょっとこいつ格好いいやつじゃん、というようにも見られる気もしている。とはいえこの私の肯定感に引き寄せられることなく、むしろお前わかったらなおk、という感じで、世界の全あり達には、なるべく私の人生から遠ざかっていってもらいたい。

そんな羽ありが再びみられる夏まではまだまだ遠い。そして現れ始めた頃、私はオスの羽ありのことを考え、蒸し暑い夕暮れの空に遠い目を向け、星になった彼らを想うのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?