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縁の下の力持ち、薄焼き卵パスタ弁当

薄焼き卵、鶏胸肉と白カブのグリル、辛いトマトパスタ

オムライスのようですが
めくると下には辛めのトマトパスタがいる

ぱっとしないお弁当の全体を、美味しそうな黄色で覆ってくれる、というのはみんな知っているけれど、薄焼き卵は、もっともっと実は陰で奮闘している。
薄焼き卵は、お弁当のおかずをずらさずに押さえてくれるし、全体がパサパサにならなるのも防いでくれている。だからもっと、薄焼き卵のことをみんな褒めてくれるといいのになと思っている。

バスの車窓から

駅から、家の最寄りまで行けるバスに乗った。
私は後ろから2列目の2人席の窓側に座った。一緒に出かけた息子は通路側。
週末だから家族連れが多くて、私の前の2人席は、窓側に3〜4歳ぐらいの女の子で通路側にお父さん、という2人連れが乗っていた。

窓側に座っている私は、バスが発車するまで何の気なしに窓の外を眺めていた。
そうすると、ちょうど私の右目の端の方に、前の席に座っている女の子が見えた。
彼女はお父さんに完全に背を向けて、窓に張りつくようにして、私と同じく外を眺めている。
隣に座っているお父さんは、スマホのゲームにご執心だ。プロスピをやっている。WBCに感化されたんだろうか。

女の子は、私に自分が見えていることに気づかない様子だ。
(ゲームに夢中のお父さんはもちろん、周りを全く気にしていない)
そろそろバスが出発するから、本でも出して読もうかなと視線を窓から話そうとした時。

女の子が、窓を舐めた。べろーんと。
気温が高いから、冷たいものが食べたいんだろうか。
私にその様子が見えていることに、彼女は気がついていない。
めちゃめちゃ舐める。ずっと舐める。

「ビー」
バスの扉が閉じる音がして、彼女は我に帰った。
洋服の袖で、キュキュキュと舐めた後を拭いた。証拠隠滅だ。
でも彼女はずっと窓の外に釘付けになっていて、私は文庫本を手に持ったまま彼女に釘付けになっている。

何事もなくバスは出発した。
隣のお父さんが、一度ゲームから目を離し、背中を向けたままの彼女に一言二言話しかけたが、彼女は無視したまま背を向けている。お父さんもまたゲームに戻り、熱い戦いを繰り広げているようだ。

2つ目のバス停を過ぎた時、
また彼女が窓を舐めた。べろーん、べろーんと無心で舐める。
「次、とまります」という誰かが押したボタンの音声が車内に流れ、また我に帰ったように洋服の袖で窓を拭いて、証拠を隠滅する。

すると彼女は今度、換気のために少し開けてある窓からの風に揺れる、車内にあるポスターが気になり出した。風を受けて、ほんの小さくパタパタパタと音を立ててそのポスターの端が揺れる様子に魅入ったのか、手を伸ばして触ろうとするが、何度かチャレンジするものの、ちょっと高くて届かない。
するとお父さんがゲームの手を止め「やめなさい」と軽く注意した。
女の子は「はーい」と抑揚のない声で返事をして止め、お父さんは満足げにまたゲームに戻った。

お父さん、それじゃないです。
注意するなら、それじゃないと思います。

心の中でそう私は小さく呟く。
ほどなく、その親子の目的のバス停につき、2人は何事もなかったようにバスを降りた。

私はそれをバスの中の窓から見送った。
女の子は、何事もなかったような顔で、お父さんと手を繋いで歩いていた。
バスの窓の味は、一体何味なのか。それは彼女しか知らない。

レシピメモ

トマトパスタは、鷹の爪と玉ねぎとピーマンとベーコンをオリーブ油で炒めて、トマトピューレと塩で味付け。
甘くなくて、トマトの味がギュッと濃い、いい味に仕上がります。



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