和食を科学する。日本人の知恵を知る。国立科学博物館「和食展」で日本の食を奥深く学ぶ。
息子が恐竜好きで、博物館通いをし始めてからはや10年。はじめは夏休みだけだったのが、だんだん春休み、冬休みのシーズンも行われる特別展に通い始めた。
今回の冬シーズン特別展はなんと「和食展」。
恐竜だの生き物だの「ザ・男子」な展示より若干地味な印象は受けたが、日本の文化に興味があるわたしがぜひ行ってみたいと思い、息子を駆り出して正月の上野へ。
今年の年末年始、関東は比較的暖かくて助かる。
この和食展、実は2013年に和食がユネスコ無形文化財に登録されたことを記念して、2020年に開催予定だったものだそう。ご存じ2020年はコロナ禍に突入しあえなく流れてしまい、やっとのことで今年開催に至ったのだとか。
西洋の美しさと違って、和食は「引き算の美学」を感じる。派手さはないけれど、凛として美しく、細部にまでこだわった繊細な味と美しさを感じる。そんな和食のことを、科学博物館がどう見せてくれるのか楽しみだった。
1.和食が和食である所以は「水」にあり
まず最初に「水」についての解説で面食らった。
日本は軟水、西洋は硬水であるというのは知識としてあったけれど「なんで?」というのは考えたことがなかった。
このパネルを見ていただければわかると思うのだが
硬水というのはカルシウムやマグネシウムなどミネラル分が豊富な水のこと。
日本は地形的に山が多く、降水量も多い。雨が急斜面を流れていくことで、水が土の中のミネラルをあまり吸収しないので結果的に軟水に、大陸では逆にゆっくりと水が流れるため硬水になるんだとか。知らなかった!!!
そして軟水は煮だすことで食物の成分が流れ出やすい性質を持つため、かつおぶしや昆布で取る「だし文化」ができたのだとか。
和食が和食である原点は、この「土地」だということね。
逆に西洋の硬水は肉のアクが出にくいので、煮込み料理などに向いているのだとか。なるほど納得としか言いようがない。
そして、日本国内でもその土地の性質によって硬度がだいぶ違うらしい。関東は硬度高め、京都は低め。京都のおだし文化はやっぱり超軟水が原因かしら。
ちなみに海外の天然水の硬度を見てビックリ。一時期スーパーモデルが一日2リットル飲んでいたという噂の「コントレックス」は硬度の数値が桁違いでビックリ。硬水って苦いしめちゃくちゃ飲みにくいので、これを飲める気がしない。
わたしが一昨年訪れた奈良の天川の水なんかも出ていたけれど、こちらは超軟水。ジュラ紀とかペルム紀って超古代の石灰岩由来のミネラルが含まれているんだとか。うわなんかありがたすぎる話。
2.和の食材勢ぞろい
しょっぱなから水の話で大騒ぎしてしまったが、次は野菜の話。
まずは「野草と野菜の違い」。
そんなこと意識したことなかったけれど、「野草」とは、そこに生えている野生の植物を採取して食べるもの。対して「野菜」とは、人間が食べる目的で植え、育てた作物のこと。
確かにそう言われてみればそうで、だから野菜は人間の手が入っている食べ物だということだね。
で、日本にどれくらい昔からどんな野菜があったかという表を見てみると、大根はかなり昔からあって、弥生時代くらいから食べられていたようなんだけど、白菜なんかは比較的新しくて江戸時代になってから持ち込まれたものなんだね。
どれも外国との交流・交易などで徐々に広まってきたものなんだろうなぁ。
大根は実はものすごいたくさん種類があるぞ!なんて展示も。
そして日本人に欠かせないのが米。米はずっと品種改良され続け、以前は量が取れることを優先されていたそう。そりゃそうだよね。米が命だったのだもん。でも最近はコメ離れが進んでしまい、「美味しいコメ」の開発に注力した結果、めちゃんこ美味しいお米がたくさんできているらしい。
元をたどると2種類くらいしかなく、ほとんどがコシヒカリ系列なんだなとわかる。ちなみにわが家は北海道の農家さんから取り寄せている無農薬の「ゆめぴりか」。めちゃくちゃ美味しいよ。
さらに進むと、今度は「魚」
ヨーロッパ近海では300種ほどしか確認されていない魚だけれど、日本近海だけでおよそ3000種くらいの魚がいるんだとか。海に囲まれた土地で美味しい魚が地域によって多種多様に獲れる。おさかな天国ってやつですね。
うちは夫が北海道民で魚大好きっ子なもんで、必然的に家の食事も米と魚が多いのだけれど、今は米を食べる家庭も減り、魚も漁獲量が減って手に入りにくくなり、食べる人が少ないそう。
後ろにいた親子連れの女の子が「わたし魚きらーい」と言っていた。食べなれないものはあんまり好きにならないよね。
わたしが育った家も、母が魚料理をほとんど出さなかったので、鮭の切り身くらいしか食べたことがなかった。スーパーに行くと必ず鮮魚コーナーに入り浸るような魚好きの夫と知り合って美味しさを知ったという感じ。
美味しい魚を食べる機会自体が減っているのは残念なことだなぁ。
3.神さまへの食事、殿の食事
昔の食文化を知るために、歴史資料はもってこい。和食展では、卑弥呼の食事や、神さまにお供えする食事、そして織田信長が徳川家康をもてなした際の食事などを再現していて目にも楽しい。
これは卑弥呼の食卓。
鯛やアワビって昔からあったんだなぁーと感心。味はたぶんシンプルだと思うけど、見た目はめちゃ豪華よね。この時代から鯛って映える魚だったのね。うう、美味しそう。
続いては神さまへお供えする食事。神饌。こちらは神さまへの豊穣の感謝の意味も含めてのお供え。
神社に興味を持ってから知って驚いたのだが、伊勢神宮では今でも神さまのお供え専属の人がいて、毎日2回ご飯をお供えしてるし、祭礼ごとに決められた豪華なお供え物をしている。ご神事ってほんとに日本に根付いていて、昔からずっと引き継がれている神聖な行事なのだなぁと改めて感心。
こちらは天武天皇の孫、長屋王の職位jらしい。なんか彩りよくってめちゃくちゃ美味しそうなんですけど。鴨とか海老とか。たぶん味は今より地味だと思うけど、昔の偉い人はいいもん食べてたのね、と感心。
そしてその隣にあったのが、当時の庶民の食事。
玄米と青菜と塩。以上。
って、これじゃあ栄養不足で病気になるよねぇ・・・。
今は庶民でもちょっとお金を出せば長屋王くらいのものは食べられるし、いい時代になったもんだよ。この時代の庶民は嫌だなぁと改めて思う。
そしてお次は信長が家康をもてなしたお膳。
こんな豪華なお膳を出されたら、誰でも感激しちゃうよね。絶対歓迎されてるやん!!!ってテンションもあがる。信長らしい派手な器もちょっとリアルね。
だけどこのお膳、準備に時間がかかって全部冷めてたらしく、見た目は豪華だけれどお味はちょっと残念だったのかも・・・
というところから「できたてのものを美味しく食べようぜ」というマインドで作られたのが懐石料理とのこと。うん、確かに地味でも出来立てがいいっす。
4.お江戸の屋台グルメに憧れる
信長の時代のお膳を見てほほうと思った後は、いよいよ文化が花開いた江戸時代へトリップ。
江戸時代は参勤交代などで独身の男性が江戸に集まったので「外食文化」が栄えたのだそう。確かに昔って基本は家でごはんを食べていたもんねぇ。
参勤交代の制度はどうかと思うけれど、そのおかげで外食文化が発展したのはありがたい進化だなぁと思う。
そして江戸時代のファストフードといえば
そば!
すし!
天ぷら!(右)
なんだかお祭りに来た気分で楽しい。寿司は高級な食べ物から一周回って、いまや回転寿司という庶民の食べ物に戻ってきたけれど、お寿司自体が元は庶民の食べ物だったなら、元に戻って正解。回転寿司ありがとう。
そばもこだわりのそばというよりは、この屋台を見ていると「富士そば」「箱根そば」的なファストフード感を感じるよね。今のすし屋やそば屋の姿は江戸に近づいているのかもしれない。
江戸時代は戦争がなく、その分いろんな文化が花開いたという。グルメもそのひとつで、グルメ雑誌とかグルメ番付なんかもたくさん出ていたそう。有名な「豆腐百珍」という料理本のレシピなんかも出ていて「これ作ってみたい!」と思ってしまうレシピもたくさん。
なんとそんなニーズに応えて、今回の特別展「クックパッド」と提携して「江戸ご飯」というのを公開しているそうだ。
実際に作れるって楽しいよね。ぜひこのリンクから覗いてみてほしい。
5.和食の美しさ、豊かさを堪能できる特別展
写真はあまり多く撮らなかったが、他にもキノコや海藻など日本人が好んで食べる食材の紹介や、和の美しい包丁さばきの紹介など、和食にまつわる興味深い展示が多々あった。
和食は繊細かつシンプルな味付けで、素材の味を活かした料理がとても多い。食材も出汁も、ともすればすぐに消えてしまいそうな柔らかな香りや味覚を大事にする。
「うま味」という新たな味覚を発見したのも日本人だ。
ステーキとかパスタ、こってりした味のものももちろん美味しいけれど、わたしたち日本人しか持たない繊細な味覚って、やっぱ大事にしていきたいなぁと思う。
日本食もかなりメジャーになってきて「スシ」は全世界にいろんな形で広まっているのも喜ばしい。「うん、それ違うw」ってのもあるけど、こちらもカレーライスとかインドのカレーと別物にしちゃってるし、それはそれでご当地で解釈していただければ。
そんな感じで目にも楽しい和食を科学した、国立科学博物館の特別展「和食展」。いつも恐竜で興奮する小学生男子とかにはちょっと地味かもしれないけれど、逆に普段あまり科学博物館に行かない方にもぜひ足を運んでみてもらいたい。
今日もお読みくださりありがとうございました!
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