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第七話 二人きりになれたのに

 湊音は先に店を出て外でタバコを吸って待っていた。いい加減やめようと思ってもやめられないようで、明里にもやめて欲しいと言われていたことを思い出して時たま胸が痛むのか浮かない顔をしながら結局タバコを吸っている。

「おまたせ」
 と店から出てきた李仁は派手な服を着ていた。
『僕と二人きりの時はシックな服じゃないのか……あっちが好みなんだけど』

 李仁がついてきて、と夜の街を案内する。湊音は李仁のバー以外は興味がなかった。
たまに当番で見回りで入ったくらいで全くそういう夜の街を知らない。李仁は詳しいようだ。

「クラブとか行かないでしょ」
「行かないよ……」
「じゃあすこしいこっか」
『僕は二人きりがいいのに』
 と湊音は足を止めるが李仁が手を掴み引っ張る。

『手、繋いだっ』
 初めて李仁の肌の感触を感じた湊音。向かった先は地下にあるお店で外からわからないくらい若者がたくさんいた。入った瞬間に大音量の曲と声に圧倒される。バーカウンターに、ダンスフロア。

『駅前にこんな店があったのか』
 二人はバーで飲み物を買い、まずはダンスフロアを眺める。男女が入り乱れ踊り叫ぶ。

「怖い?」
「……うん」
「大丈夫、あそこいったらすっきりするから」
 不敵な笑みを浮かべる李仁。フロアの奥にはポールダンサーが踊っている。

「私も昔ああいうことしてたの」
「えっ、ポールダンサー?!」
 李仁の意外な過去に驚く湊音。

「ポールダンサーというかゲイダンサー」
「……ゲイ……ダンサー……」
「そっ、若気の至り」
「今もまだ若いじゃん」
 李仁はいきなり残りのシャンディガフを飲み、湊音を引っ張った。

「さぁいくよ」
『えええええーっ』

 大きな音の中で知らない人とぶつかりながら、どう踊ればいいのかわからないが李仁が取るカウントを頼りに体を動かす。湊音もだんだんわかってきたようだ。そして叫ぶ。
普段体感しないようなことばかりで湊音はたくさん笑った。



 一時間くらいした後に李仁に連れられて外に出る。
「楽しいでしょ、こういうとこも」
「うん、楽しい……」
 あの中にいる時何度も李仁と触れ合った。時折香る彼の香水の匂いと他の人の香水や体臭が混じりなんともいえないがその辺はお酒と雰囲気でカオス状態であった。

「まだどこかいくの……」
「うん、そう。二人きりになれる場所」
 湊音は心臓のペースがさらに速くなる。そして李仁が湊音に手を差し伸べる。

その手を湊音が握り返す。そして見つめ合う。無言のままさらに奥に歩いていくと「カラオケ」とチープに書かれたお店。
『カラオケ屋さん? 』

 案内された部屋に行く。普通のカラオケ店とは違うと湊音はすぐ分かった。内側から鍵を掛けられるものであり、李仁もさりげなく鍵を掛けていた。
 部屋全体も薄暗く怪しい雰囲気満々である。

『大丈夫か、このカラオケ……確かに二人きりになれる場所だけど……』
 早速ソファーに二人座った。システム的には一般的にカラオケと同じだが湊音は人前で歌を歌うことはなかなかない。

「あなたが歌わないならー」
 と素早く曲を予約して歌い出す李仁。上手い方ではないが楽しそうに今時のポップスを歌う。
 二曲目も歌いながら予約するという手慣れた作業をする李仁。

「はい、これなら一緒に歌えるでしょ?」
 画面には人気アイドルの曲。李仁にマイクを渡された湊音は困惑する。




 三十分後には湊音は李仁ともに歌った。クラブで叫んだのもあって喉も痛いようだが楽しい方が勝る。

「結構歌ったねー」
「うん……たまにはこれくらいはっちゃけないとダメかな」
マイクを机の上に置き李仁の方を見ると、李仁が艶かしく見てきたのだ。

「……李仁さん?」
「……」
「!!!」
 李仁が湊音の太ももに手を置いた。

「二人きりね」
「そ、そうですね……」
 その瞬間。李仁がキッと睨んだ。

「はっきりしなさいよ。もうバーでも本屋でもあなたのこと噂になっているわよ」
「えっ……」
「私のことを好きなおチビちゃんが付き纏ってるって」
 湊音はオロオロする。普通に通っていただけなのに噂にまでなろうとは。
 だが周りからすれば普通ではなかったのだ。明らかに好意を持って李仁に近づいていたのがバレていたのだ。

「私はこういうことされるのはよくあるし何かあっても警察の知り合いいるから悪質な場合はなんとかできるけど、もう周りからあなたが私のこと好きだってバレてる」
「そ、そんなっ。好き……だなんてっ」
「じゃあなんで毎日のように私に会いにきてるの。私のことを見てるの!」
『……僕のこの気持ちはやっぱり李仁さんが好き、だからってことなのか?』

 湊音はようやく分かった。李仁が好き、ということを。
『でも彼は男……』
 と思っている時にいきなり李仁が湊音にキスをしたのだ。何が起きたかわからない。固まる。
 舌を入れられた時点で湊音は突き放した。あわわと声にならないものが口から出て財布からお金を出して机に置き

「ごめんなさいっ!」
 と湊音は鍵を開けて部屋から出て行った。李仁は目を丸くして茫然とする。

「なによ、小心者……そんな気持ちで私に近づいて……馬鹿にしないでよ」

 湊音は駅まで走った。息が切れるほど。なぜなら自分のアレが反応していたのだ。キスをされただけで。

『なんでっ、なんでだっ! なんで……相手は男、男になんで反応するんだっ』


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