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最終話

 それから数ヶ月後。スーツも仕上がり、それを着て店を出る。
「本当にお似合いで。私もお店閉めた後に向かいますので」
「いつもありがとう……シゲさん。素敵なスーツ」

 湊音も新しく仕立てたスーツを気に入って店の外の窓ガラスの反射越しに見える自分の姿を何度も見入ってしまう。

「湊音さんもお似合いで。李仁」
「いつもありがとう。またよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
 目を細めてシゲさんは手を振ってくれた。李仁は少し涙目である。

 なぜなら初めてスーツを作ってもらったのもシゲさんであるし、元恋人に仕立ててもらって感慨深いのである。湊音はその涙は見ないふりをした。
「さあさあ次行くわよー」


  その足で美容院。2人は大輝に髪の毛を整えてもらう。
「大輝くん、今日も素敵に仕上げてくれてありがとう」
「いえいえ、今日がラストですから。僕も後でお店に行くね」

 湊音はよりカッコよくなった李仁を見て惚れ惚れする。そして他にも人がいる前で湊音は李仁の右手を握る。
「大輝くん、ありがとう。また後で」
 そしてそのまま手を握ったまま街を出る。それには李仁も驚いた。
「珍しいじゃない、あなたから手を握って街中歩くなんて。もう気にしないの?」
「うん、気にしない」
 とさらに湊音は李仁の腕にしがみつく。それには李仁も少したじたじだがすぐ笑った。
「もぉ、ミナくんったら」

 

 さらにその足でバーに向かう。
「そいやバーテンダーの李仁はしばらく見てないや」
「しばらく仕事忙しかったもんね。久しぶりにミナくんに見られるから恥ずかしいや」
「遠くからこっそり見てようかな」
「その方がいいかも……でも懐かしいわ。あなたが何回も通い詰めて私の目の前で座って口説き落としてくれた時のことがつい最近のよう」
「僕が口説いたっけ……」

 と昔話に花が咲く。
「そうよー、お酒飲めないあなたはノンアルで粘って最終的には仕事明けを出待ちしてキスしてきた時のこと」
「やめろよ、恥ずかしい」
「でもこうやって手を繋ぐのは?」

 とさらにギュッと李仁は手を握る。周りの人がまた男同士の2人を見て何か話をしている。

 だがもう気にしない湊音は李仁を見上げて目を細める。
「恥ずかしくないよ。だって他の誰にも渡したくない、僕だけの李仁だから」
「まさかさっき大輝の前で手を繋いだのも……」
 ひひっと湊音は笑った。
「ミナくんったら……」
「いつも李仁が僕を困らせてるから、トントンでしょ」
「そうねー」

 2人は夜の街に消えていく。そしてバーの扉を開いた。

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