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塩尻のこと

塩尻市立図書館へ。

会場に着いてまず、「家で読むのにおすすめの本」コーナーを見た。みなさんが書いてくださったおすすめの本が壁一面に貼られていてうれしかった。そしてほっとした。知人の少ない塩尻で、どれだけ書いてもらえるだろうと思っていたけれど、ひとつひとつ、とてもあたたかい筆跡でつづられていた。あらためて、本当にありがとうございます。

館長さんをはじめ、司書のみなさんから展示についてお話を聞いたあと、駅まで送ってもらった。みなさんあたたかく、気持ちよくお話ししてくださるので、別れて一人になった途端、しばらくぼんやりしてしまった。もっとあの場にいたかった。

松本に宿をとっていたので、縄手通りを軽く散歩しながら向かう。時節柄閉まっている店が多く、たいやきはレンジでチンされて出てきた。おいしい。けれど、気温が下がってきて風に吹かれているうちになんとなく陰鬱な気持ちになってくる。昔一人で青森へ行ったときも、電車も、ひとも、店も限られていて、心細い気持ちで満月を見上げたのだった。

松本城近くのファミリーマートに寄ってご飯や飲み物、おやつをありったけ買う。3,000円を超えていた。ぱんぱんになった袋を抱えてチェックインする。松本ホテル花月というところ。すごくすてきなホテルだった。

鼻水が止まらないのでティッシュを抱えながら「京都には異界がある」という番組を見る。そういえば京都で地獄の入口と言われる寺の向かいに泊まったなあと思い出す。あのときは眠れなかったけれど今日は大丈夫そうだ。館内放送のジャズを小さくかけながら眠った。

翌朝ふたたび図書館へ。

気温は0℃、風もつよく冷たい。鼻水の件があるのでカイロを貼って歩く。図書館の入口はシャッターが閉まっていた。そういえば水曜日は休館なんです、と昨日聞いたばかりだったなと思い出す。塩尻発の電車の時間まで1時間あったので、向かいのカフェに入ってなんとなく図書館を眺めていた。

図書館は休館なのにひとの姿がちらほら見える。削られた1階部分が広場になっていて、おばあさんが二人で談笑したり、若い女性が本を読んでいたりしている。

そういえば昨日、司書さんたちと話していたときに、この図書館にはいろいろなひとが来るけれど、それぞれが自分の居心地のいい場所を見つけて座るから、なんとなくグループで分かれているんです、だからどんどんおしゃべりしてもらっていいんですと言っていたと思い出す。じゃれあう中学生くらいの男の子たちや、新聞を読む高齢の男性たち、勉強する学生、子ども連れのお母さん、本当にさまざまなひとが思い思いの場所で過ごしていた。おたがいに干渉することなくゆるやかに共存している。

この建物を設計したひとがこの図書館をどういう意図で作ったのかがとてもよくわかったし、それがきちんと地域のひとたちに受け入れられていることにじんとしてしまった。だから休館日でもひとが自然と集まっている。

建築は暮らしを作る。わたしの絵は建築とはまったく違うものだけど、絵を飾ることで生まれる空間をどういう場にするかをいつも考える。建築のように暮らしそのものを変えることはできなくても、その日の、その瞬間の心の風向きをすこしだけ変えることはできるかもしれない。

個展を見に行った日のことを書いてくださった方がいた。宮田駅から塩尻駅まで、初めて電車で向かった1時間半の旅のこと、その道のりとともにわたしの個展の記憶が綴られている。もしかすると、このひとにとって、その日の、その瞬間の心の風向きを変えるよりも大きなできごとになったのかもしれない。そんなふうに思いがけず届いてしまうこともある。誰かのある一日にわたしの作品を加えてもらえることが心からうれしい。

自分の映っている写真は恥ずかしいのでネットにはあまりあげないのだけど、今回は写真をあげておきたい。図書館のみなさんと。

あっという間の滞在だったけれど、自分の作品が置かれている場所の空気を感じることができて本当によかった。

会期は2月28日まで。まだまだお待ちしております。

いつもお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、これからの作品作りに使いたいと思います。