アネモネ

アネモネになる

花束の絵を描いている。

アネモネ、金魚草、バラ、オリーブ、ユーカリ、花束になるにはひとつひとつ描いていく必要があるので、アネモネから描いてゆく。

アネモネは、大地に根ざしている。太陽に照らされてあたたかくなった水とともに、わたしは道管の中へ入り、重力に逆らってぐんぐん上へ向かっていく。途中でいくつも分岐してる場所があって、その先にみずみずしい葉が生えていく。アネモネは太陽に向かってその背丈を伸ばし、葉を繁らせていく。背丈の伸びるのにまかせてわたしはどんどん進み、緑の天井に頭をぶつける。両手で天井を力いっぱい押してみると、そのうちに天井の隙間から光が差し込んでくる。細く漏れる太陽の光は鋭くわたしの目を刺してくるので、顔をそむけながらさらに天井を押していく。

緑色に覆われたつぼみがすこしずつゆるみはじめる。花びらは、1枚1枚たしかめるように広がっていき、ついには満開になる。雄しべと雌しべをひとつずつ描き加えていくうちに、アネモネと名付けられた花の形になっていく。そのころには鉛筆の線は色の面となり、やわらかい花びらや、つややかな葉や、つよい茎となっている。そして花はわたしから離れて、意志のある、たしかないのちになる。

アネモネ


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