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嵐の日、萌え出づる春を食べる

玄関の扉を開けてはじめて外は春の嵐だったことに気がつく。天気アプリでは「雨」、わたしが見た天気は「春の嵐」、こんなにもちがう。

雨か…と思いつつも予定通りカレーを食べに喫茶店へ行く。

カレーの湯気は春の山にのぼる蒸気と似ている。春の山を食べるシーンを想像しながらスプーンを口に運ぶと、ただでさえおいしいカレーがなおのこと滋味深く感じられる、萌え出づる春の味。

カレーのあとに熱い珈琲。嵐なのに来てくれたからと、いちじくのジャムが載ったクッキーをおまけでつけてくれる。今日は天気がひどいから、15時くらいには閉めるかもと店主が言う。

新しいことを始めるひとが多い4月は楽しくもあり心乱れる。わたしも新しく、色鮮やかに生まれ変わりたい。そう心に秘めた気持ちが、伸び伸びと希望に向けて広がる誰かの枝先に触れてじゅくじゅくと傷んでくる。

枝は伸び、葉は繁茂し、力を帯びた天候は荒々しく大地を揺り起こす。わたしの庭は青いのだ、青いのに、どこも色あざやかに輝くからまぶしくて思わず目をつぶってしまう。天ではなく地を見よ、足元に今日も新しく芽吹いた野いちごの葉が春に照らされて光っている。

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