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15歳~49歳男女3万1千人に聞く「高校生と親世代の生殖や性に関する意識と実態調査」

サイエンスとテクノロジーの企業であるメルク(Merck)の日本法人、メルクバイオファーマ株式会社は、日本における生殖や性に関する意識と実態に ついて、15~49歳の男女を対象に調査を実施しました。(事前調査:全国の15歳〜49歳男女31,000 人)。

要約

・親の9割が、自分の子どもへの「性教育をしたことがない」

・生殖や性に関して、子どもに正しく伝える「自信がない」親は73.0% 

・女子高校生の8割が身体の悩みを抱えていても、「誰にも相談しない」が約6割

1.10代〜40代に聞く、将来設計

「子どもを授かりたい」と答えた人は、10代39.3%、20代41.5%

10代~40代の男女31,000人(人口動態に合わせてWEB集計)を対象に、調査(事前調査)を行いました。 将来子どもを授かりたいか、既に子どもがいる人はさらに授かりたいかを聞くと、10代は39.3%、20代は41.5%が 将来子どもを「授かりたい」と答えました[図1]。

子どもを授かりたくない理由は、「国や自治体の支援が不足」 「経済的に難しい」

前問で「子どもを授かりたいと思わない」と回答した人にその理由を聞きました。10代・20代・30代は「国や自治体の制度などの出産・育児支援が不足している」(10代44.0%、20代45.0%、30代42.5%)が最も多く、40代は「経済的に難しい」(37.1%)が一番の理由として挙げられました。また、10代は「自分自身、子どもを望まない」(25.7%)、40代は「自分が妊活・妊娠・出産・子育てするには、年齢的な問題があると思う」 (19.4%)という理由も他の年代に比べ高くなっています[図2]。

2.10代〜40代に聞く、生殖や性の知識

生殖や性に関する教育を受けたかった年齢は10代で13.5歳。どの年代の人も、実際に知識を得た年齢よりも早く教育を受けたかったと回答

次に、生殖や性に関する知識について聞きました。 まず、生殖や性に関する十分な知識を得たかと聞くと、10代は32.3%が「得た」と答えていますが、年代が上がるとともに少なくなり、40代は12.9%でした[図3-1]。

生殖や性に関する十分な教育を受けたかったかと聞くと、10代は24.8%が「受けたかった」と答えていますが、こちらも年代が上がるとともに少なくなっています[図3-2]。

また生殖や性に関する教育を受けたかった年齢(理想)と実際に知識を得た年齢(現実)を聞きました。生殖や性に関する教育を受けたかった人の理想の年齢は平均で、10代13.5歳、20代14.7歳、30代15.1歳、40代15.2歳でした。 一方、実際に生殖や性に関する知識を得た平均年齢は、10代13.8歳、20代15.0歳、30代15.2歳、40代15.5歳となりました。生殖や性に関する知識について、どの年代も実際よりも早く教育を受けたかったという結果で、 年代が上がるほど遅いことがわかりました[図3-3]。

妊孕性(にんようせい)知識の平均点は100点満点中45.6点

妊娠のしやすさ、妊娠する力のことを「妊孕性(にんようせい)」と言い、この妊孕性に関する知識を図る指標として、妊孕性知識尺度があります。これは、妊娠・出産に関する13項目について、「正しいと思う」「誤りと思う」「わからない」のいずれかで回答するもので、全13問となっています。 今回の調査での妊孕性知識尺度の年代別正答率が[図4]です。10代から40代すべての年代で正答率が過半数なのは 「喫煙は女性の妊娠する能力を下げる」でした。すべての年代で正答率が20%に満たないのが、「女性が標準的な体重より13キロ以上太りすぎると妊娠できないかもしれない」でした。

妊孕性知識尺度13問中、正答率が低く、年代別で差があった項目は以下のとおり

■男性は精子の産生のみで受精能力があるといえる(答え「誤り」)


妊孕性知識尺度13問中、正答率が低く、年代別で正答率に差があった項目をみてみると、「男性は精子の産生のみで受精能力があるといえる」(「誤り」が正解)に正解した人は10代25.8%、20代27.6%、30代30.5%、40 代30.3%となり、正しく認識していない人が約7割となっています[図5-1]。

■月経があれば妊娠することができる(答え「誤り」)


「月経があれば妊娠することができる」は「誤り」が正解です。こちらもどの年代も7割前後が誤った認識をしています が、10代と40代で約6ポイントの差がありました[図5-2]。

■夫婦5〜6組のうち約1組は不妊である(答え「正しい」)


「夫婦5~6組のうち約1組は不妊である」は「正しい」が正解ですが、正答率はどの年代も2割台です[図5-3]。

■約9割の親が、自分の子どもに「性教育をしたことがない」

20代~40代の子どもがいる人に、自身の子どもに生殖や性に関する教育をした経験を聞きました。 「性教育をしたことがある」と答えたのは20代8.0%、30代8.7%、30代8.6%で、いずれも10%に満たない割合でした[図8]。

3.高校生の親と子に聞く、生殖や性に関する親子の会話

事前調査から親子間での生殖や性に関する教育はほとんどされていない、という実態が明らかになりました。 そこで、高校生の男女200人と、第一子が高校生の親400人を対象に、子世代と親世代の間の生殖や性に関するコミュニケーションの実態を深掘りしてみました。なお、本調査の対象者に親子関係はありません。

■生殖や性に関することで、親と「十分話したことがある」高校生は8.0%

■話さない理由は「気まずい」「恥ずかしい」

生殖や性に関する身体のことについて、親子で話し合った経験を聞きました。すると、「十分話したことがある」と答えた高校生は男女とも8.0%、親は男子高校生の父親・母親がそれぞれ7.0%、女子高校生の父親が8.0%、母親 が6.0%でした。女子高校生のうち24.0%は「話そうとしたことはあるが、浅い話しかできなかった」、7.0%は「話そうとしたことはあるが、真剣に向き合ってもらえなかった」と答えています[図9-1]。

十分に話したことがない高校生(184人)と親(372人)にその理由を聞きました。高校生は「気まずいから」 (44.0%)、「恥ずかしいから」(40.8%)が高く、親は「タイミングがないから」(24.7%)、「どう話したらいいかわからないから」(17.7%)が高校生に比べ高くなっています[図9-2]。

■生殖や性に関する知識や情報がなくて困った経験がある親は25.3%

■男子高校生の父親が困ったのは「女性の身体の仕組み」、母親は「安全な避妊方法」

高校生の親に、生殖や性に関する知識や正しい情報がなくて困った経験を聞きました。すると、6.5%が「とてもある」、18.8%が「まあある」と答え、合わせて親の25.3%が知識や情報がなくて“困った経験がある”としています。男子高校生の父親では、29.0%といちばん多くなっています[図10-1]。

困った内容を聞くと、男子高校生の父親は「女性の身体の仕組み」(58.6%)、男子高校生の母親は「安全な避妊方法」(55.6%)、女子高校生の父親は「妊娠の仕組み」(56.5%)、女子高校生の母親は「女性の身体の仕組み」(40.9%)がトップでした。女子高校生の父親のスコアが高いものが多くなっています[図10-2]。

■生殖や性に関する知識や情報がなくて困った経験がある親は25.3%にとどまった一方で、 親の73.0%は、生殖や性に関する知識を子どもに正しく伝える「自信がない」

高校生の親全員に、生殖や性に関する知識を自分の子ども正しく伝えられる自信があるかを聞きました。すると、 44.0%が「あまりない」、29.0%が「まったくない」と答え、合計で親の73.0%は正しく伝えられる自信がないと答えています。父親(男子高校生の父親68.0%/女子高校生の父親67.0%)に比べると、母親(男子高校生の母親 79.0%/女子高校生の母親78.0%)の方が自信がない割合が高くなっています[図11]。

■生殖や性に関する医学的に正しい情報、高校生は約半数が「得られている」と回答。一方、親はスコアが低く、男子高校生の父親は19.0%

全員に、生殖や性に関する医学的に正しい情報が十分得られていると思うか聞きました。男子高校生は48.0%、女子高校生は54.0%が「正しい知識が得られている」(十分得られている+やや得られている)と答えたのに対し、 親は「正しい知識が得られている」と答えた割合が低く、中でも男子高校生の父親は19.0%でした[図12]。

■高校生にとって、生殖や性に関する人や機関の情報源は「友人・知人」「学校の先生」が最多。一方、親にとっての生殖や性に関する情報源は、「特にない・わからない」が最多

生殖や性に関する情報源(人や機関。メディアは含まず)を聞きました。男子高校生は「友人・知人」 (31.0%)、「学校の先生(養護教諭以外)」(28.0%)、女子高校生は「学校の先生(養護教諭以外) 」 (43.0%)、「友人・知人」(37.0%)、「養護教諭」(31.0%)が多くなっています[図13-1]。

親にも同様の質問をすると、男子高校生の父親は「友人・知人」(25.0%)、「医師・看護師・薬剤師などの医療従事者」(21.0%)、母親は「病院・クリニック」(32.0%)、「友人・知人」(28.0%)、女子高校生の父親・母親は「友人・知人」「病院・クリニック」が上位でした。親は「特にない・わからない」の割合が高校生より高くなっ ています[図13-2]。

■生殖や性に関し信頼する情報源は、女子高校生は「先生」、男子高校生は「特にない・ わからない」が最多

■親にとって信頼する情報源は、「特にない・わからない」が最多

続いて、生殖や性に関して信頼できる情報源を聞きました。高校生では「学校の先生(養護教諭以外)」(男子高 校生26.0%、女子高校生36.0%)や「病院・クリニック」「医師・看護師・薬剤師などの医療従事者」などの専門家が上位となっています。女子高校生は「養護教諭」も上位です。「友人・知人」を挙げたのは、男女とも1割台でした。 一方、情報源が「特にない、わからない」も20%台(男子高校生29.0%、女子高校生22.0%)で男子高校生では最多でした。[図14-1]

親にも同様の質問をすると、「特にない・わからない」が最多でした。その中で挙げられた信頼できる情報発信者は、 男子高校生・女子高校生それぞれの父親はともに「医師・看護師・薬剤師などの医療従事者」(男子高校生の父 親19.0%、女子高校生の父親21.0%)、母親はともに「病院・クリニック」(同34.0%、31.0%)でした。[図 14-2]

■男女高校生が生殖や性に関して一番信頼するメディアは「学校の教材」

生殖や性に関する情報を得る際のメディアについて、チェックするメディアと信頼できるメディアをそれぞれ聞きました。 男子高校生がチェックするメディアは「ニュース系ウェブサイト」「動画配信・共有サイト」(同率25.0%)、「学校の教材」(24.0%)が挙げられ、信頼できるメディアは「学校の教材」(21.0%)がトップでした。女子高校生がチェックするメディアも「学校の教材」(33.0%)、「ニュース系ウェブサイト」「動画配信・共有サイト」(同率 30.0%)が上位に挙げられましたが、一方で信頼できるのは「学校の教材」(28.0%)がトップでしたが、チェックするメディアも信頼できるメディアも「特に気にしていない、わからない」が最多でした[図15-1] 。

4.高校生に聞く、身体の悩み

■女子高校生の80.0%、男子高校生の52.0%が「身体に関する悩みを持っている」

次に、高校生に身体の悩みを聞きました。男子高校生は52.0%が何らかの悩みがあり、「睡眠不足」(18.0%)、 「体型」(17.0%)、「ストレス過多」(16.0%)が多くなっています。女子高校生は80.0%が悩みがあり、「体型」 (41.0%)、「体毛」(36.0%)、「生理痛」(28.0%)が上位でした[図16]。

■高校生の身体の悩み、男子は「友人・知人」、女子は「母親」に相談

身体の悩みを相談する相手を聞くと、男子高校生は「友人・知人」(19.0%)、「母親」(12.0%)、「父親」 (9.0%)、女子高校生は「母親」(21.0%)、「友人・知人」(20.0%)、「SNS」(9.0%)の順でした。身体の悩みを誰かに相談するのは、男子34.0%、女子43.0%で、男女とも相談しない人が多くなっています[図18]。

最後に、思春期保健相談士 日本思春期学会性教育認定講師の櫻井裕子(さくらいゆうこ)先生のコメントをご紹介します。

性や生殖に関連する健康について考えるきっかけが重要

2024年6月に発表された女性が生涯に産む子どもの平均数「合計特殊出生率」は1.20で過去最低となり、出生数も過去最少を更新するなど、子どもを産み育てる環境の改善は喫緊の課題です。数年前、複数の中学校で「将来子どもが欲しいか」「何歳で欲しいか」を聞き取ったことがありました。どの学校のどの学年でも性別にかかわらず「子どもが欲しい」とする生徒は半数以上、理想の結婚年齢は25歳、出産年齢も25歳がトップでした。個別のコメントでも結婚にも出産にも夢を持っているものが多かったと記憶しています。

一方ここ数年、講演や講義で同様に生徒や学生に尋ねると、 結婚にも出産にも育児にも消極的になっていると感じます。今回の調査結果とリンクするものと考えます。今回の調査の「その理由」では、全体的に育児を「一人で抱えるもの」とイメージしている傾向が読み取れます。妊娠した人しか出産できませんが、出産した人しか育児ができない訳ではありません。周囲を巻き込む力、関係性作りを学ぶ機会も必要です。まずは、 現状で子どもを望む望まないにかかわらず、自身の健康について、特に性と生殖に関連する健康について気が付くこと、気がかりなことがあったら、誰かに話したり頼ったりする力を育成することが重要です。その上で自らのライフプランについて、早いうちから考えていくきっかけを創出するという、学びの機会、環境整備が求められているのではないでしょうか。

10代では「13.5歳」で、生殖や性に関する十分な知識を得たかったと回答するも、性教育は未だに子どもたちの期待に応えられていないのが現状

生殖や性に関する教育を「受けたくない」「わからない」を選択した人は、すでに性教育に良くないイメージを持っている可能性があります。苦手意識が育つ前、早めに学習の機会が提供されることが望まれます。そして「受けたい」という人はすべての年齢で「もっと早く知りたかった」ということが明らかになりました。

一方、学校現場では学習指導要領の関係で、学習内容に制限が加えられ、子どもたちの実態に見合った教育が行われにくいのが実情です。私は、すでに性的なトラブルが多数発生している高校においても生殖の仕組み、特に避妊について具体的な内容に触れることができないというもどかしい経験もしています。生殖の仕組みを知り、具体的な避妊の方法を知り、それを選択でき決定できる力はSRHR(性と生殖のための健康と権利)を保障するものであり、全ての人が等しく手に入れられるべきものと考えます。

また、今回の調査で明らかになった「妊孕性に関する正答率の低さ」や、子どもたちに性教育という生きる上で大切なことを伝えていく親側の「性教育 を教える自信のなさ」からも、求められている性教育が実践できていない現状と、それによって困るのはいつの時代も当事者である若者だということを私たち大人は忘れてはなりません。

高校生が生殖や性に関する信頼できる情報源として挙げる「学校」。そして親子間での性教育の重要性。

前述の理由で、中学校では性交や避妊や中絶を取り扱わない学校が多いのが実態です。授業での扱いもそうですが、外部講師に依頼しても制限が加わることがあるため、今回の調査では「避妊の重要性」「安全な避妊法」を学習したとなっていることに少々驚いています。扱う学校が増えたのであれば喜ばしいことです。

一方、親世代では性と生殖に関する知識や正しい情報がなくて「困った経験がある」人は約25%、自分の子どもに正しく伝える「自信がない」が73%に上ります。今はスマートフォン一つでどこからでも情報が取れてしまいます。不確かな情報に触れる前に、学校での教育と並行して、親子間でも気兼ねなく性の話ができる環境を整えていくことも必要です。そのためには親世代もアンテナを高くし、信頼できる情報源を探しておくことも重要と考えます。

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