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20.07.25 いただいたお豆から思考する

ご覧くださってありがとうございます。

先日、StandartJapanさんより抽選で頂いたお豆のプレゼント。
Goodman Roaster, Ethiopia, Guji, Yirba Muda Farm, WushWush, anaerobic natural

WushWushという品種を初めて目にし、興味をもったので調べてみました。
Goodman RoasterのHPはこちら。https://goodman-company.com

疑問に思ったのは以下2点のポイント

・他の品種と比較してどんな成分(chemical compounds)に差があるのか?
・”WushWushはEthiopia のコーヒー林の中でゲイシャ種に紛れているのを発見された!”とのことですが、ゲイシャ種との遺伝的共通点・相違点は?(参考文献: Goodman Roaster Instagram;https://www.instagram.com/p/CCs6EEnhJiC/ )
 →こちらは、結局文献は引っかかってきませんでした。

しかし面白い文献がみつかったので軽〜くご紹介させてください。

他の品種と比較してどんな成分(chemical compounds)に差があるのか?

参考文献:Melese Wale Mengistu et al., Biochemical compounds of Arabica coffee(Coffea arabica L.) varietires grown in northwestern highlands of Ethiopia, Cogent Food & Agriculture Volume 6, 2020 - Issue 1
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/23311932.2020.1741319

[概要]
エチオピア北西部の高地で栽培される8種のアラビカ種コーヒーについて、
採取した生豆のchemical compoundsを測定・比較した。

[栽培品種/栽培場所]
*栽培品種(詳細な情報は文献参照)
 Merdacheriko / Yachi / Wush Wush / Buno wash / 741 / 7440 / Ababuna / Ageze
*栽培場所(詳細な情報は文献参照)
 the Adet Agricultural Research Center (AARC) / Woramit Agricultural Research Center (WARC)
 (標高:AARC>WARC
  気温:AARC<WARC
  土壌中P,N,その他有機物含有:AARC<WARC
  年間平均降雨量:AARC>WARC) 
*全て2018年に栽培開始されたもので、水やり、除草、病害虫防除対策、施肥等の管理も同じ条件のもと行われた。

[測定項目]
*カフェイン(CAF) / クロロゲン酸(CGA) / トリゴネリン(TRG)
*蒸留水を用いて成分を抽出したのち、HPLCを用いて測定
*ANOVAを用いた分散分析(各群の平均値に有意な差があるかを検定する:品種や栽培場所で各chemical compoundsに違いがあるのかを検定する)

[結果]
簡単にいうと、CAF, CGA, TRGに関してはWushWushに大きな特徴はない。
(詳しくは文献をご覧ください)
*トリゴネリン濃度について
 Adetで栽培されたコーヒー > Woramitで栽培されたコーヒー
 →環境条件、pH 値、土壌肥沃度の違いと関連?
(トリゴネリンは苦味のある物質で、焙煎により分解され主にナイアシン(ビタミンB3:ニコチン酸,ニコチン酸アミドetc)、ピリジン類(ローストナッツやチョコレート、花、モルト、納豆のような香りのある成分があるようです)、一部のピロール(甘い香り)を形成する)
(トリゴネリンはピリジン誘導体であり、コーヒー焙煎中にフラン、ピラジン、アルキルピリジン、ピロールなどの高評価フレーバー生成物の生成に間接的に寄与することが知られている揮発性化合物の前駆体であることが知られる(Ky et al., 2001))

*クロロゲン酸濃度について
 Adetで栽培されたコーヒー > Woramitで栽培されたコーヒー
 →アラビカ種のコーヒー豆は標高が高いほどクロロゲン酸や脂肪分が高いことがすでに報告されている(Bertrand et al., 2006)
(クロロゲン酸はコーヒーの色素・風味(苦味や渋み)・香りなどと関与し、飲料品質と逆相関することが知られている(De Maria et al., 1995)(Silva, 1999))

*カフェイン濃度について
 WushWushのカフェイン濃度は比較的低いらしい。
(一般的に、カフェイン含有量が高いほど苦味が強くなり、カップの品質は低くなることが知られる(Lipchock et al., 2017; Tanimura & Mattes, 1993))
 
(標高の違いはチェリーが熟すまでにかかる時間に影響し、土壌の肥沃度、pHもコーヒー豆の品質に影響を与える要因として考えられる)

[所感※個人的なものです]
 この文献では、カフェイン、トリゴネリン、グロロゲン酸の3種の化合物に着目して、生豆中の成分について調査されています。土壌の肥沃さや高度がコーヒーの成分に大きく影響を与えることはよく分かりました。全体としてWushWushってこの3つの化合物に関しては目立った特徴を持たないのはへえ〜。って感じです。
 しかし、これでコーヒーの美味しさや香りについて全体をカバーすることは愚か、5%も語れているとは思っていません!!重要となる成分や絶妙なアクセントになる成分もあると思いますし、焙煎条件によってもっともっとパラメータが多様に広がると思うからです。
 ここからが大変悩ましいポイントだと思うのですが、特定成分を狙って測定することは今の技術を持ってすれば可能なことでしょう。しかし、不特定の成分を網羅的に測定することは、比較的難しい…(GC-MSだってLC-MSだって試料調整だってまだまだ発展途上ですから。)
 だからこそ、コーヒーってブラックホールみたいでロマンがあって興味が尽きないんです。笑

WushWushのGenotype的特徴は?

さて、上記の文献について調べているときに、
『これってゲノム情報があれば、もっと幅広く理解できるのでは?』と思い、探してみました。
コーヒー、特にWushWushのゲノム配列とその代謝物について言及した文献こそ無けれど、遺伝子型と化合物マーカーを繋げることを目的とした以下の論文が見つかりました。

参考文献:Marcelo Ribeiro Malta et al., Discrimination of genotypes coffee by chemical composition of the beans: Potential markers in natural coffees, Food Research International Volume 134, 2020, 109219
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0963996920302441?casa_token=WqUmMQOrWUoAAAAA:o8JuBaibOIVMPP2zqM_CZ9-EHOo-vJQC1yya6yd1kCriECUSXDUR9uuDU2G15KbNFIVUoTxBmw

[概要]
部分最小二乗判別分析(PLS-DA)を用いて、Coffea arabicaの系譜群を判別するための潜在的な化学マーカーを見つける。

[品種]
以下の22品種(Marcelo Ribeiro Malta et al., 2020 より抜粋)

スクリーンショット 2020-07-25 13.55.17

[測定成分]
Sucrose / Caffeine / Linoleic acid / Oleic acid / Linolenic acid / Myristic acid / Lauric acid / Arachidic acid / Palmitoleic acid / Stearic acid

[結果]
PLS-DAはブルボン種ではアラキジン酸とステアリン酸、
エキゾチック種ではミリスチン酸とリノール酸とショ糖、
ティモールハイブリッド種ではラウリン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、総糖、タンパク質含量を系図グループの識別に最も重要なマーカーであると同定。

[所感]
 ここではWushWushにフォーカスするというよりも、ブルボン, エキゾチック(エチオピア原種)、ティモールハイブリッドの遺伝の系統の分別に関与する成分は何?というスタンスで研究されています。
 論文中でも筆者が語っているのですが、カッピングで味を評価するには環境や主観に左右されやすいのでブレが大きいため、遺伝子改良に使うことは難しい。そこで分析機器の力を借りれば、そう言った香りや味の分析がゲノムと関連づけることができ、品種改良などに役立つのではないか。とのことです。
なかなか、ここから条件を揃えて焙煎→香気分析などは難しいのでしょうか。
 お医者さんでいう総合診療科みたいな、コーヒーの栽培(品種)・発酵精製・焙煎・抽出まで総合的に診るよ!みたいな、系統的レビュー(systematic review)する研究者がコーヒー分野にいるといいなー(いらっしゃるのかな?)と思います。
言うのは易しです。すんません。

まとめ

今回はWushWushという品種のコーヒー豆との出会いをきっかけに、
・他の品種と比較してどんな成分(chemical compounds)に差があるのか?
・コーヒーのgenotypeとchemical compoundsとの関係性?
以上2点に関する文献の概要、所感を述べてみました。

せっかくの連休なのにGoToできないのは非常にやるせないですが、
美味しいコーヒーに浸りながら、大好きなアーティストのライブDVD観ながら、熱唱しながら、踊り狂いながら….
そんな連休三日目も悪くないです。お家上等。

最後までご覧くださりありがとうございます。
どうか素敵な1日をお過ごしくださいませ。


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