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20.09.06 WeekendBrewを思考する

ご覧くださってありがとうございます。
この記事は、Standart JapanからリリースされているWeekend Brew
(毎週日曜日に届く、コーヒーやそれに関連したュースレター)から
個人的に気になった何点かのトピックについて、
Twitter140文字では表現しきれない感想やさらに深掘りしたことをアウトプットしていきます。

今回のWeekend Brewもコーヒーに関わる方達の取り組み盛りだくさんで非常に充実していました。

前回書いた記事で、
私がこれまで抱いていた不十分すぎた知識や考え、感情のモヤモヤごちゃごちゃが少し整理整頓されたような気がして、
なんだか新鮮な心持ちで今週のWeekendBrewを楽しめたような気がします☕️

さて、今回私が特に気になったものを1点取り上げたいと思います。

・ワールドコーヒーリサーチ(WCR)初代CEO Timothy Schilling氏
 WCRの結成時の話や歴史、課題、そして現在進めているエスプレッソに適した生豆を生産国で評価するプロトコルの開発についてのインタビュー
(Weekend Brewニュースレターより引用)
(詳細は是非、アーカイブをご覧ください)

WCR初代CEO Timothy Schilling氏のインタビュー

World Coffee Research(WCR)はご存知でしょうか?
私はかつてコーヒー屋さんでアルバイトをしていた頃、
様々なコーヒー品種の持つ遺伝子の違いやどうやって誕生したのか(品種改良)、コーヒーの木の植物病に興味を持ったのをきっかけにWCRの存在を知りました。

World Coffee Research(WCR)について:
世界的規模でコーヒーに関する先端農業科学研究を行なっている共同研究期機関。
現地の研究機関、コーヒー団体、政府、NGOとの共同研究により活動が行われています。
ミッション:良質なコーヒーを育み、保護し、その供給を強化するとともに、 コーヒー生産者の生活を向上させること。
研究キーワード:品種改良、遺伝学、ゲノミクス、作物栽培学、 植物病理学、知覚、化学、社会経済学
詳しく知りたい方へ:
WCR HP :WCRで行われている様々な研究が紹介されています!
年次報告2018(日本語版)
Instagram:コーヒーの農業試験場の様子を写真で見ることができます!!

WCR初代CEO Timothy Schilling氏は、コーヒーが多くの国で生産され消費されているにもかかわらず、品質向上のための研究が十分に行われていない(=“orphan crop”「孤独の作物」)といった問題から、WCRを立ち上げるに至ったそうです。

WeekendBrewで紹介されていた彼のインタビューから印象に残っているエピソードを2点ご紹介します。

 1. WCRが筆頭となって行なわれたIMLVTにより、現地の研究者、生産者、焙煎会社が一緒になってより良いコーヒー生産に取り組むことができたというエピソード

まず、IMLVT(International Multi Location Variety Trial)の概要について簡単に紹介します。

IMLVT発足以前までの問題点:

例えば、あるコーヒー生産国で現地の人がコーヒー栽培を始めようとすると仮定します。
この時、何の品種を栽培するのか、何の品種がより消費者に選ばれる(=収量が高い、品質が良い…etc)のか、が生産者が検討しなければならない点として挙げられます。
しかしコーヒー生産現場においては、世界でどんな品種が栽培されているのか、どんな病気があるのか等の情報に乏しい場合が多く、
自国・地域の歴史や自国のコーヒー研究開発の伝統によって、栽培品種を決定するに至ります。

→ 栽培地域で本当に(病気耐性や収量、品質の点で)最適な品種であるかどうかは分からないというリスクを孕みながら栽培を始めなければならなかった。

そこで、WCRが筆頭となり以下の流れでデータ採取を行いました。

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世界中から31の品種を収集 → 複製・培養 → 全世界の試験圃場に配布 → WCRが設計したプロトコルに基づいて全世界の試験場で栽培・長期的な評価を行う → データを収集

そして、得られた世界の各試験場の環境、ゲノム情報、収量、品質、病気等のデータを元に、
新しくコーヒー栽培をする生産者に対して最適な品種を提供する他、品種改良、気候適応戦略、その他研究、植物病や気候の動向を監視が行われます。

私は他分野を研究している身ではありますが、研究を行う中で(私の場合はヒトの病気研究なので)データを集めるということにすごく苦労をします。


何かをより深く理解し、広く活用するためには、研究対象を様々な角度から測定したり解析したりすることで、たくさんのパラメータの情報を集めることが重要となると私は思っています。
口で言うのは簡単ですが、それがとても難しい。
実現のためには、リーダーになるものが必要不可欠でプロトコルの統一という重要にして大変な過程を踏まなければなりません。満遍なく実験参加者を集めるのもすごく大変だと思います。それに協力してもらったからには、この莫大なデータを実用性ある結果としてまとめなければというのもすごくおもしろそう!と思う一方で、大変さが想像されます。
それをやってのけ、かつきちんと生産者に還元するところまで行うのは、研究する者として本当にすごい功績だと思います。


 2. Timothy Schilling氏の新たな取り組み:エスプレッソ評価プロトコルの開発

こちらは、UC Davis, Food Science and TechnologyのJean-Xavier Guinard博士の研究をベースに進められているそうです。


Jean-Xavier Guinard博士は、
コーヒーに限らず、食品や飲料の感覚特性(ヒトがどのように感じるか)とそれに伴う消費者の摂取量、消費者行動についての研究を行われている研究者です。



コーヒーの品質を評価・比較をするには、総溶存固形分(TDS)で定量化される強度や抽出率(PE)が用いられてきました。

TDSとPEの値によって二次元的にコンフォートゾーンが定義されていて、ガイドラインとして広く使用されています。


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(引用:Scott C. Frost,et al., (2020), Effects of brew strength, brew yield, and roast on the sensory quality of drip brewed coffee,(Figure 1), Journal of Food Science 85 (8), 2530-2543)
しかし、このガイドラインに準拠して最適範囲のTDSやPEとなるよう抽出しても、全てのコーヒーが美味しいと言う訳ではないでしょう。
強さや苦さは分かるかもしれませんが、官能評価(フレーバー等)や消費者の好みはこの指標には反映されていません。

そこで、Jean-Xavier Guinard博士は2020年にacceptされたこちらの論文で、ドリップコーヒーにおけるTDSやPE、ローストと官能評価との関係性についての実験・解析を行なっています。


また、ドリップコーヒーの抽出時間に対する官能および単糖類の分析(ME Batali, SC Frost, CB Lebrilla, WD Ristenpart, JX Guinard, (2020), Sensory and monosaccharide analysis of drip brew coffee fractions versus brewing time, Journal of the Science of Food and Agriculture 100 (7), 2953-2962)や、
ドリップコーヒーにおけるドリッパーの形状とローストレベル、グラインドサイズとTDSと官能評価・消費者の好き嫌いの関係性についての実験・解析も行われています。(SC Frost, WD Ristenpart, JX Guinard, (2019), Effect of basket geometry on the sensory quality and consumer acceptance of drip brewed coffee, Journal of food science 84 (8), 2297-2312)



しかし、この手の研究がまだ、エスプレッソにおいて行われていないことから、Timothy Schilling氏は新たな官能評価も考慮したエスプレッソ評価プロトコルの開発を進められているものと思います。

Jean-Xavier Guinard博士はコーヒーの研究以外にも、子どもの野菜嫌いの異文化間での違いや親の食の好みとの関係性についての研究(K Estay, et al.,(2019), Influencers of children's vegetable liking—A look from a social and cultural perspective, Journal of Sensory Studies 34 (6), e12534 )をされていたり、
収量の異なるぶどうの木から作られたワインの官能評価特性の研究(DM Chapman, MA Matthews, JX Guinard, (2004), Sensory attributes of Cabernet Sauvignon wines made from vines with different crop yields, American Journal of Enology and Viticulture 55 (4), 325-334)など、様々な興味深い研究に携わっていらっしゃっており、研究者紹介のHPを見ているだけでもかなり興味深いです。

まとめ

今回は、WeekendBrewより
・WCR初代CEO Timothy Schilling氏のインタビューから
 1.  IMLVTの取り組みに関するエピソード
 2. Timothy Schilling氏の新たな取り組み:エスプレッソ評価プロトコルの開発以上2点について語ってみました。

今週のWeekendBrew、たくさんの学びがあり、楽しませていただきました。
ありがとうございます🙏

末筆ですが、今週のコーヒーにフジヤマコーヒーロースターズが紹介されてたのが勝手ながら嬉しかったです。
というのも、私の祖父母の家がすぐ近くにあるからです。

フジヤマコーヒーロースターズのある山口県柳井市という場所は、
白壁の美しい街並みがあったり、可愛らしい金魚ちょうちんがあったり、
近くには海もあり、山(琴石山)もあり、何と言っても山の頂上からみる瀬戸内海は絶景です。近くにある柳井港からは周防大島、四国にも行けちゃいます。
一昨年のお正月に父と琴石山に登山したのですが、楽しくて、
コロナが落ち着いたら、今度はフジヤマさんのコーヒー豆買って持って行って、頂上で抽出したいなと密かに計画しています。

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(フジヤマコーヒーロースターズ 白壁出張所)

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素敵な場所です。皆様も是非一度訪れてみてはいかがでしょうか(回し者ではありません。)。

さて、九州方面には台風が来ています。
私の実家も外に出したモノが飛んでいかないように、飛来物で車が傷つかないようになどなど、万全の対策をしているようです。

どうか皆様ご無事でありますように。
来週末のWeekendBrewも楽しい心持ちで読めたら、それに越したことはありません。


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