化粧品で国内シェア1位の資生堂。日本市場だけでなく、アジアや海外免税店を中心に驚異的な伸びを見せています。グローバルの化粧品市場で見ても、売上高ベースでは世界5位の企業でもあります。

資生堂(第2位:売上高…1兆948億円)
売上高:1兆948億円(2018年度)
営業利益:1083億円(2018年度)
設立年:1872年
従業員数:38640人(連結)

資生堂は化粧品事業で見た場合、国内最大手の企業です。1872年に創業し、現在は世界120の国と地域で事業展開をしています。

資生堂の化粧品事業は、大きく3つの価格帯に様々なブランドを揃えて展開しています。

高価格帯の「プレステージ」には、「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポー ボーテ(cle de peau beaute)」、「イプサ」が主にラインナップされています。

中価格帯の「コスメティクス」には「エリクシール」、「マキアージュ」、「アクアレーベル」などがあります。

低価格帯の「パーソナルケア」には「専科」、「TSUBAKI」、「シーブリーズ」があります。

他にも、有名なデザイナーとコラボした「フレグランス」では「DOLCE&GABBANA」、「ISSEY MIYAKE」などとの商品があります。

資生堂が国内の化粧品業界の企業に差をつけているのは、徹底した海外志向にあります。現在、全体の売上高に対する日本事業の売上は41.6%であり、売上の半分以上を海外事業が占めています。

資生堂は注力しているプレステージ領域への投資が功を奏し、前年比で売上高が8.9%増加しています。地域としては、中国事業、トラベルリテール事業(空港での販売)が驚異の前年比30%以上の伸びを見せています。

逆に、資生堂が抱える課題は、巨大市場である中国経済が減速する可能性を孕んでいること、日本へのインバウンドが鈍化していることなどが挙げられます。

今後は、中国事業に依存することなく、伸びが著しいトラベルリテール事業、そして、米州、欧州事業の売上を着実に育てていくことが重要になっていくでしょう。

資生堂の歴史

資生堂の設立は1872年。日本初の西洋風調剤薬局として創業。
1880年代には育毛剤や日本初の練歯磨を販売。
1897年に化粧水『オイデルミン』で化粧品業界に進出しています。
1949年には東証一部上場。海外にも積極的に展開し、海外の有力コスメブランドの買収なども意欲的に行っています。
2005年にはコーポレートメッセージを「一瞬も 一生も 美しく」とし、現在に至るまで、化粧品業界のトップメーカーとして走り続けています。
2022年には、記念すべき設立150年を迎えます。

資生堂の海外事業の歴史

海外への展開は、
1957年の台湾進出から始まりました。その後、台湾には工場も作られ、販売だけではなく生産拠点としても稼働しています。
1963年にはイタリアに代理店を設立。
1965年にアメリカに資生堂アメリカを設立。
1981年には中国での事業を開始。
その後もさまざまな国や地域に事業展開を進め、今では世界中で資生堂の商品が親しまれるようになりました。

日系大手の代表とも言える資生堂。化粧品で国内シェア1位ゆえ、国内企業というイメージが強いですが、アジアをはじめとするグローバル市場にも注力しています。2018年度は、売上は中国事業で前年比32.3%の伸び。海外の免税店などでは、実質40%伸びています。ブランドの中核にある価値を統一しながら、複数の国でどう浸透させていくかという部分が求められています。

21世紀の資生堂の海外事業の概要

約120の国や地域で海外事業を展開
現在、約120の国や地域に事業展開している資生堂。海外売上比率は年々伸長しており、2015年には海外売上比率が国内売上比率を超え、現在の海外売上比率は6割を超えています。化粧品売上高で国内2位のコーセーでも海外売上比率は3割程度ですから、化粧品業界の国内上位企業の中で圧倒的な数字です。
近年では中国専用ブランドを打ち出すなど、中国への展開に力を入れており、ベトナム、ギリシア、トルコなどにも海外子会社を設立しています。

「ローラメルシエ」や「NARS」など、メイクに強い海外の有力コスメブランドを買収したり、米国のライフスタイルブランド「Tory Burch」とライセンス契約を結んだりもしており世界規模のブランドポートフォリオ戦略にも力を入れています。

資生堂の中国進出
資生堂の中国事業は1981年にスタート。
1994年には現地生産による中国専用ブランド「AUPRES(オプレ)」の販売を開始。
2004年度からは2桁成長を実現。
2010年度は800億円台の規模にまで成長しました。

デパートを中心に高級コスメブランドとして認知度を上げてきた資生堂ですが、近年は薬局で販売するための専用ブランドを発売するとともに、美容院などサロン事業向けのビジネスも開始。現地のソーシャルメディアやインフルエンサーを利用したマーケティングも行い、資生堂の中国展開はさらに広がりを見せています。

□中国専用ブランド「オプレ」

中国女性の肌に関する長年の研究から生まれた中国専用ブランド。
百貨店の「オプレカウンター」やオンラインストアで販売しています。高品質、洗練されたイメージ、思いやりのあるサービスのコンセプトのもと、スキンケアやメイクアップを通じ、20年以上にわたり「美しく健康的な肌」を求める中国女性をサポートしています。
(引用:https://corp.shiseido.com/jp/brands/aupres/)


資生堂の海外展開にマーケティンおけるマーケティング戦略

SHISEIDOのグローバルマーケティング戦略は
①現地法人トップに現地市場を知り尽くしたローカル人材を抜擢したこと
②M&Aを効果的に行ったこと
③小国展開を行ったこと
④ローカライズと日本オリジナルのビジネス戦略を融合させたこと

資生堂のグローバル戦略① 現地法人トップに現地市場を知り尽くしたローカル人材を抜擢
日本、中国、アジア、米州、欧州、トラベルリテールの6つのセクションに分けたグローバル体制を置いている。地域本社体制には、マーケットにより近いところで迅速な意思決定と実行を可能とする狙いがあります。現地法人のトップには現地事業に習熟した人材を抜擢、ブランド管理についてもそれぞれの国・地域が責任を持つようにした。

資生堂のグローバル戦略② M&A
海外にすでに根強いファンを持つブランドを買収
「ローラメルシエ」や「NARS」の買収、「Tory Burch」とのライセンス契約、その他にもミネラルファンデーションのパイオニア「ベアミネラル」が有名な「ベア エッセンシャル」を買収したり、イタリアの有名ブランド「ドルチェ&ガッバーナ」とライセンス契約を締結したりもしています。海外にすでに根強いファンを持つブランドを買収することで、さまざまな国や地域の市場にアプローチできる主力なブランドを得ることができるのもM&Aの大きなメリットと言えるでしょう。

資生堂のグローバル戦略③ 小国展開
海外の大国だけでなく、小国にも積極的に事業展開

資生堂は、海外の大国だけでなく、小国にも積極的に事業展開しています。2010年には国内化粧品メーカーとして初めてモンゴルへ進出。2009年にはエジプトやラオス、モロッコ、アゼルバイジャンにも進出しており、2012年にはトルコやチュニジアにも進出。国内の競合が手を付けていない小規模な市場にいち早く参入しています。国内市場の成長が頭打ち状態であることから、国内依存から脱却し、海外進出を積極的に行っていく戦略。

資生堂のグローバル戦略④ ローカライズと日本オリジナルのビジネス戦略の融合
日本のビジネスモデルと現地のビジネスをうまく融合させた

資生堂は地域本社体制をとり、現地市場に詳しい人材をトップに据えた経営を行っています。現地に合わせた製品展開をすることを海外進出にあたっての基本理念としており、ローカライズに徹底的にこだわっています。

例えばシャンプー1つとっても、現地のユーザーの香りや使用感の好みだけでなく、国によって異なる水の硬度についても考えなければなりません。すべて現地に迎合するというわけではなく、「スキンケア重視」「おもてなし(の心)」という軸はぶらさず、差別化をはかっているようです。日本の品質や技術、日本文化などを取り入れて、日本のビジネスモデルと現地のビジネスをうまく融合させたグローバル展開を行っています。

SHISEIDOの求める人材

私たち資生堂グループは、「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」というミッションの実現を目指し、世界中の120の国と地域でビジネスを展開しています。
100年先もお客さまとともに輝き続け、選ばれ続ける企業になるため、お客さまにとってより価値のあるものを提供し続け、一生寄り添うことのできるパートナーになることを目指しています。

「お客さまやブランドのためを思うなら、ここはこうしなくちゃいけない」と、もう一手間、二手間かけられる人が、資生堂が築き上げてきたブランドの価値をより高めていくために必要な人材が求められています。

SHISEIDOのブランド展開

資生堂はインテグレート、マジョリカマジョルカなどのプチプラブランドから、SHISEIDOGINZAなどの高級路線のブランドなど様々なブランドを展開しています。

資生堂では、各ブランドチームがP/L、KPIを管理するなど、1つの子会社のような形で事業の経営をしています。市場選定やターゲット決定、商品開発、プロモーション施策の実行まで全て行います。

SHISEIDOのデジタルトランスフォーメーション

コロナ禍で人々の生活が急変する中、化粧品業界においてもDXへの取り組みが加速しています。

化粧品業界では、AIやARなどの領域で企業とのコラボレーションが進み、テクノロジーにより店頭での購買に代わる新たな体験を提供するブランドも出てきています。資生堂もDXの導入を加速させています。
資生堂は、新型コロナウイルス発生以前から、ECや店頭での購入を拡大させていました。資生堂のDXの取り組み開始は競合に先駆けて早く、12年に、自社ECサイトを開き、美容情報を発信して新たな顧客層の開拓を目指してきました。しかし、感染拡大前、資生堂のEC比率は13%程度と,それほど高くありませんでした。コロナウイルス感染拡大後、20年12月期は、一転して300億円の最終赤字に転落し、デジタルを活用した事業モデルへ大々的な変換していくことになりました。現在、30〜50のDXのプロジェクトが動いています。

資生堂は2019年に企業ミッションを「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」と定めています。2021年2月に発表した中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」では、スキンビューティー領域をコア事業とする抜本的な経営改革を実行し、2030年までにこの領域における世界のナンバーワン企業になることを目指すと明記した。その一環として「デジタルを活用した事業モデルへの転換・組織構築」を掲げ、アクセンチュアと戦略的パートナーシップを締結している。

資生堂とアクセンチュアは2021年5月11日、合弁会社「資生堂インタラクティブビューティー」を設立することで合意したと発表しました。新会社はビューティー領域に特化したデジタル・ITの戦略機能会社で、デジタルマーケティングの強化やオンライン・オフラインを統合した新たなビューティー体験の実現、ビューティー領域に特化したデジタル人材の育成などを目指します。

資生堂はDCに向け、「Tailormade Experience(個人にぴったり合った体験)」を実現することを目指しています。幅広い年齢や地域、ジェンダーのお客さまに「Brand Lover」になってもらうために、必要な情報を分かりやすく、生活に寄り添った体験として提供することを目指しています。目指すデジタルの姿は「Seamless(ライフスタイルに寄り添う)・Ubiquitous(いつでもどこでも)・Timely(必要なときに)」がキーワードです。

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出典:https://corp.shiseido.com/jp/ir/pdf/ir20200806_717.pdf#page=41

リアル×デジタルの取り組みを加速させようとしています。リアルの店舗や商材とデジタルをかけ合わせたビジネスが主力になってきます。最近ではメイクアップブランドの「MAQuillAGE(マキアージュ)」のInstagram公式アカウントで、私服のBCによる配信がされています。

美容・ラグジュアリーはアジアで急成長が見込まれる領域

資生堂は二つの問題点を意識し、マーケティングの改革を行った。
①製品ブランドが多くなりすぎたこと
②資生堂ブランドのアイデンティティが不透明になってきている

という問題である。

①ブランドの「選択と集中」
資生堂は、「TSUBAKI」「SENKA」などをグローバルに展開するパーソナルケア事業について、そのポテンシャルを最大化し、今後さらに成長させるためには、マーケティング投資強化が不可欠あり、それを可能とする新しい事業モデルの構築が必要と判断。その実現のために、対象事業を譲渡すること、その後同事業を運営する会社の株主として参画することを決定した。

パーソナルケアブランドは、商品単価が低めで、尚且つ新商品発売やアイテム増加による商品入れ替わり頻度が高いため競争が激しく、消耗戦となるカテゴリーでもあります。

商品をより多く販売するためには、プッシュ型販促プロモーションを展開させるコミュニケーション施策を戦略的に練らなくてはなりません。ブランドとしてのコンタクトポイントには販売力があるGMS流通やドラッグストア流通などが有力で、彼らに販売促進費用を提供し、顧客獲得に有利な売り場や棚割りを押さえていく業界慣習があります。元々の商品単価がそこまで高くない中では、商品が売れても売れなくても結果的に粗利が抑えられてしまい、オペレーションコストばかりが嵩んでいくという悪循環に陥りかねないことは想像がつくかと思います。

資生堂は2019年決算では日用品事業は、企業全体の売上構成比では約9%です。また、化粧品と比較して商品単価が安めであることもあり、粗利の構成比は更に少ないものとなっています。

資生堂は戦略として、今後は高単価商品へ経営資源を注力していくと明言しています。

②ブランドイメージの強化
メガブランド戦略‐資生堂 TSUBAKI の事例
メガブランドとして経営資源を集中させるため、商品開発では入念な調査活動が行われた。開発に先駆けて実施された「現代女性の美意識」に関するアンケート調査では、「世界に誇れる日本女性の美のパーツ」について
は、「髪」が高い支持を得る結果となった。そこで、資生堂は、その美しさの根拠となる「艶」や「輝き」などをキーワードに、日本女性の最高の美を追求する商品づくりが求められた。「世界で一番美しい艶髪」へのアプローチがその時から始まった。「日本の女性の美の素質を引き出す」という考え方に基づき、従来のダメージケアの発想からさらに一歩進んだ新しいステージを切り開くことが求められていた。
シャンプーには、古来より髪を美しく保つとされる「椿油」から抽出された美髪成分「高純度椿オイル 」が配合された。
資生堂の販売チャネルに関してはは、①直販の化粧品店②それ以外の問屋ルートに大きく分かれている。この両方のルートとも活用し、化粧品店をはじめ、ドラッグストア、コンビニエンスストアなど全5万店で販売された。一年間の配荷目標金額の約半分を、わずか1カ月で達成するというハイペースなものである。また、プロモーションについては、まず表参道ヒルズで大々的なデビューイベントを開催した。 名の女優を勢ぞろいさせ、レッドカーペット上で華々しいデビューを飾り、それを大画面映像で、大阪、福岡、札幌など全国  都市でライブ中継した。さらに、発売一週間で大量のサンプルを店頭や街頭などで消費者に配布したのである。ほかにも、広告宣伝には巧みなシーズンキャンペンが行われた。巧みな戦略は顧客の心をつかみ、全国的に記録的な売上を達成した。価格は若干高めの設定であったにもかかわらず、爆発的な売上を達成した。

競合他社のメガブランド政策とリーマンショックなどによる日本経済の低迷
の原因で、メガブランドの成長維持が課題になって、何か新しいイノベーションも必要になった。ちょうどその時期、インバウンドの影響により、訪日観光客が爆買い現象は始まった。 その中に、爆買い対象の一つになっているブランドは、資生堂のクレッド・ポー・ボーテであった。

プレステージ戦略‐資生堂 クレ・ド・ポー ボーテ の事例
「クレ・ド・ポー ボーテ」はとても歴史あるブランドである。元々の「クレ・ド・ポー」は当初から、「資生堂のブランド戦略の中で最高峰という位置づけとしてスタート」したブランドだった。その理念を継承して登場したのが今の「クレ・ド・ポー ボーテ」である。
資生堂が長年にわたって蓄積してきたテクノロジーを惜しみなく注ぎ込み、最も高度なアンチエイジング化粧品を作るというのが、デビュー時に揚げられたテーマだった。
カラーリングや広告で登場するモデルのメーキャップも含め、全体的なクリエイティブのイメージを「知性とエレガンス」というテーマで括って継続的に打ち出した。この時点で「クレ・ド・ポー」は、将来的なグローバル展開
を視野に入れたプレステージブランドと位置付けられた。
本格的なグローバル展開に向けた戦略が練られ、ひとつひとつ実行に移されていった。まずはネーミングである。フランス語で、きれいな肌の鍵という意味である。製品ブランド名も世界で通用するネーミングをしていた。また、店頭でカウンセリングをさらに充実させ、一人ひとりの顧客を満足させることだった。これを徹底させるために、取り扱い店舗を  店まで選択りすぐったうえで、改めて顧客と商品のコミュニケーションを強化するという努力を重ねた。「クレ・ド・ポー ボーテ」は「市場シェアより私情シェアをとることを重視」ブランドのために、マス広告よりはサービスと手間に投資するという大きな方針のもと、「顧客接点深耕ブランドとして、ひとりのお客
様が多くのアイテムを愛用していただくことを大切にしている」
近年の消費トレンドの一つとして、効果のあるスキンケア商品には出費を厭わない。だから「ラ・クリーム」にアジア地域にリピーターが多いということは、それだけ本質的な力をもつ商品であることを示している。売り場カウンターに関しては、資生堂と分けて、展開している。ゆっくりカウンセリングしながら、その顧客に最適な商品をじっくり選び、最も有効な使い方を伝えていく場を設けている。一度来店して、新規顧客とリピーター顧客の購入履歴、肌の各段階の状態や好みなどをすべて記録する。また、ビューテ
ィーコンサルタントは、顧客一人ひとりに ( メールとポストカードを定期的に送っている。

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