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第百三十九話:亡くなってから知ることになった彼の気持ち

 ルトフィーが亡くなってから少し経ち、ジェームズからヨーロッパより戻ってきたと連絡があった。
 まったく会いたいという気持ちはなかったが、このままうやむやにするのではなく、しっかり終わらせたいという気持ちがあった。また、最後にその生後2か月の女の子がいることをどう説明するのか知りたいという気持ちも若干あった。
 会う日程を決めるにあたり話をしていると、ルトフィーのことを知っているような感じで、「お前の男が亡くなったんだろ」というのが気になった。「もしかしたら、共通の友人が喋ったのかな、大きな話になっていたら、なんだかルトフィーに申し訳ないな。」そんなことを思っていた。

 話し合いの日がやってきた。
 まず話題は、生後2か月の女の子のことだった。私は、「ただどういうことか納得できるように説明して欲しい」そう言った。
 「お前が思っているような話じゃない。そもそも、あんなやつ(共通の友人のこと)の話を信じるなんてどうかしてる。家に2か月の女の子がいるのは事実、でも俺の子ではない。」その一点張りだった。
 埒が明かない説明にこちらもイライラしてしまう。「全然説明になってないし、じゃあ誰の子で、どういう経緯であなたの家にいるの?」と聞き返した。
 それでも、「俺の子ではないのに、他人の情報を俺はぺらぺら話せない」とひらすら言い張った。

 この向き合ってくれようとしない態度に怒りを感じ、この気持ちに任せて帰ってしまおうかという考えが何度も頭をよぎった。その衝動をなんとか抑えたものの、気持ちはもやもやしていた。それが嫌で話題を変えた。
 そもそも、この女の子がジェームズの子だろうとなかろうと、もはやどうでも良かった。

 そして、ルトフィーの話になった。
 彼がルトフィーと私の関係を知っていたのは、私の想像とは全く異なる人からの情報だった。ルトフィーの親しい友人がいつもカジノでポーカーするメンバーにいるらしく、最初のデートをしたころにその友人が「俺の友達(ルトフィーのこと)が、ゆかのことを好きらしくて、今度デートに行くらしいよ。」と話をしてきたと言う。
 ジェームズは、実際は私たちの関係は最悪だったのだが、カジノではゆかは俺の彼女と言いふらしていたため、「その友人は大丈夫なの?取られるよ」という意味で報告してくれたようだった。
 
 私はそれを聞いて、全てが吹き飛ぶくらい嬉しかった。
亡くなってしまった以上、ルトフィーの気持ちを知るすべはもう無くなったと思っていたし、私が無理強いした訳ではないとはいえ、家にまで行き家族に会ったりして、出過ぎた行動をしているのではとも思っていたからだった。
 また、私の存在を誰にも話をしていないと思っていたので、友達に相談していたんだなというのも、なんだかとても嬉しかった。
 
 ルトフィーの気持ちを、思わぬ形で知ることになり、本当に救われた思いだった。また、隠さずこの話をしてくれたジェームズにも心から感謝した。
それから何時間か話をし、久しぶりに友好的な形でその日は終わった。
 
 このときは、ルトフィーの気持ちを知れた喜びもあり、ジェームズと友達としてならたまに会ってもいいかなと呑気なことを考えていた。

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