見出し画像

解剖、金髪、献体 第66回 月刊中山祐次郎

皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。今回の「月刊 中山祐次郎」は、南日本新聞(鹿児島県のローカル新聞)一面「朝の文箱」に掲載された私のエッセイを、許可を得て転載します。終わりにはエッセイ裏話を書いております。

前回の「朝の文箱」エッセイ第六回「ハゲ頭、再受験医学生、黒伊佐錦」はこちらから。

解剖、金髪、献体

2年間の浪人生活を経て2000年4月に鹿児島大学医学部に入学してから、僕は少しずつ南国の生活に馴染んでいった。生まれて初めての一人暮らしに、生まれて初めての九州での生活。医学部の100人の同級生たちとも、少しずつ親しくなった。大学2年生の後半から医学部の専門課程が始まり、毎日桜ヶ丘の医学部キャンパスに通う。

忘れられないのは、2年生の秋から始まる「解剖学」の講義だ。解剖学とは人体の構造と機能を学ぶ学問で、文字通り人体を「解剖」しながら学ぶという、医者になるための洗礼のような実習だ。解剖学の講義は2つに分かれていた。人体を解剖しながら内臓、骨や筋肉などを学ぶ肉眼解剖学と、いろんな臓器を顕微鏡で詳しく見る組織学だ。その2つが同時に始まり、われわれ医学生にはいろんな意味で衝撃が訪れた。

初めに驚いたのは、組織学の教授である村田長芳教授だった。ドスの効いた声に紫の色入りの眼鏡、奥にはぎろりと学生に向ける眼光。サッカー部の先輩から「村田先生は厳しいぞ。なんてったって髪の色を染めていると単位を落とされる」と真偽不明の恐ろしい忠告をされた僕は、しかし心の中で激しく反発した。医学部教授ともあろう方が、人を見た目で判断するものか。そう思った僕は、金髪のままわざわざ一番前の席で毎回講義を受けた。そんな反抗心をあらわにして受けた村田教授の講義は、実はとても楽しかった。

ここから先は

1,720字
この記事のみ ¥ 400

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?