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妻の妊娠、しずかな恐怖 第58回月刊中山祐次郎

皆様、いつも「月刊中山祐次郎」をお読みいただきありがとうございます。今回は、育児のお話です。中山は、40歳にして今年7月に第一子を授かりました。外科医、作家を続けながら、しかし「お手伝いではないレベルで」子育て・家事にも参加したい。そんな決意で始まった生活を綴ります。激変する生活、眠い日々…40歳・運動不足の中山はどうなってしまうのか・・・笑

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なお、このエッセイはm3.comという医療従事者専用のサイトで連載をしており、許可を得て転載しています。月二回、一年書いたら本として出版する予定にもなっております。

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初めまして、消化器外科医・作家の中山祐次郎と申します。この連載では、家事スキルゼロで仕事に全振りしてきた男性外科医が、40歳にして初めて子を持ち家事・育児に悪戦苦闘するさまをリアルタイムで描いていきます。どうぞご笑覧くださいませ。

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 「怒らないで聞いてほしいんだけど、あのね、実は、妊娠検査薬を使ってみたら陽性だったの」

 妻がおそるおそる私の顔色を伺いながら言ったのは、ある晴れた土曜日の昼、福島県郡山市の「山忠」という定食屋のカウンターだった。妻はアジフライ定食を、僕は海鮮丼を頼んでいた。その一週間、大きな手術をいくつか終えた僕は、全身のまったりとした疲労と、あと一押し、いや二押しくらいでぎっくり腰になるだろう腰痛を抱え、午後はマッサージにでも行こうかなどと呑気に考えていた。

 妻のその言葉を聞いた僕は、目を見開いた。そして、どういうこと? なぜ、今そんなことを? という考えが頭に浮かんだ。しかし表情の変化を妻にさとられてはいけない。そのあたりの大根役者ぶりは医者をやっているのだから当然持っていた。

 当時、僕らはいわゆるゆるやかな妊活をしていたので、いつ妻が妊娠してもおかしくないという状況で、それは僕ら夫婦ふたりにとって待望のことだったから、驚くほうがおかしいのかもしれない。それでも、どちらからも口にはしなかったものの「もしかしたらできないのではないか」という、子を待ち望む夫婦がみな持つだろうぼんやりとした不安はずっとうすいヴェールのように僕らの頭を覆っていたから、正直なところ妻の妊娠報告には激しく動揺した。

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