さーたり先生、なぜあなたは描くのですか。 [1通目 さーたり・中山交換日記]

本企画「さーたり・中山交換日記」では、漫画家・肝胆膵外科医のさーたりと、作家・大腸外科医の中山祐次郎がお互いに聞きたいことを交換日記形式で聞いていきます。コンテンツの作り手であり、外科医でもある二人の公開往復書簡、はじまり、はじまりー。


前略 さーたり先生、しばらくご無沙汰しております。前にお会いしたのはいつ頃だっただろうか、とカレンダーアプリを検索すると、2019年の1月に対談でお会いして以来でした。

あの頃わたしは京都に住んでおりました。土曜日の朝に上京し、さーたり先生にお会いする前には友人カップルから結婚の報告を受け、その翌日は親戚の法事という、なんとも冠婚葬祭のさなかにお会いしたのでした。

それからもう1年3ヶ月にもなります。色んなことがありました。さーたり先生はその間にコミックエッセイ「腐女医の医者道! 私も子どもたちも大きくなりました!編」と、「外科医のママ道! 腐女医の医者道!エピソードゼロ」をお出しになりましたね。私も小説を2冊、出しました。

そう考えるとお互い外科医をやりながらいろいろやっているものです。私には子はいませんが、さーたり先生は3人のお子さんもいらっしゃって、さぞ戦争のような忙しい毎日を送っていることと拝察いたします。きっと

「ゆっくり好きな音楽を聞きながらコーヒーを飲む」

なんて、もう何年もやっていないのではないでしょうか。


そんな、玉乗りをしながらお手玉を3つ回し、口にくわえた長い棒の先にはお皿が回っているだろうさーたり先生の生活を想像するに、私の頭にはこんな疑問が浮かんでくるのです。つまり、

なぜ描くのだろうか

という疑問です。さーたりさん、なぜあなたは描くのですか。お金も承認欲求も、医者をやっていれば満たされるのではありますまいか。そんなに絵や漫画を描くのは楽しいのですか。

「ええ、楽しくて楽しくて仕方がない」

という返答は、返ってこないような気がいたします。同じ表現者の端くれとして、表現をすることは自分の皮膚を剥ぎ、骨を削り肉をちぎることと同じ意味だと思うからです。表現者を見ても、よほど変な人か、よほど世に恨みのあるような人ばかりではないですか。まだ金のためというのならわかります。が、われわれの職ではそういう理由ならば当直バイトなど、はるかに割のいい選択肢があるではありますまいか。

先生にお尋ねするのなら先に自分から開陳するのが礼儀。そうは存じますが、なんとも答えづらい質問ゆえ、お答えを拝見してから愚考したいなどと思うのです。

当初のツイッターDMの秘密の打ち合わせでは、「いま一番書きたいのはなんですか?」という質問を致します、とお伝えしておりました。予定を変更して、お尋ね致したく存じます。

さーたり先生、あなたはなぜ描くのですか。なぜ表現するのですか。

令和二年五月 中山祐次郎

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