見出し画像

人類の地球消費率175%、過剰摂取が生物多様性の損失に

気候変動への対策に加えて、生物多様性が企業の経営課題となっています。人類は現在、1.75個分の地球の自然資本を使用しており、過剰摂取に伴い種の多様性や水資源が損なわれています。企業や金融機関に対してそれらのリスクに関する情報の開示を求める動きが加速しています。

生物多様性とは

生物多様性とは生き物たちの豊かな個性のつながりを指します。地球上には3000万種ともいわれる多様な生物が存在し、これらは直接的または間接的に支え合って生きています。具体的には生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があります。

自然のサービス

科学者たちはミツバチの受粉など「自然の恵み」を「生態系サービス」と名づけ、4つに区分しています。まず一つは「供給サービス」です。これは森林の木材や海の海産物などを人間に供給してくれる生態系の働きを指します。最も身近でわかりやすいサービスとも言えるでしょう。

2つ目は「調整サービス」で、水やエネルギーの流れを管理する生態系の働きのことで、ハゲワシによる廃棄物処理が該当します。

3つ目の「基盤サービス」は植物の光合成など様々な生態系を作り、維持するために基盤となる最も重要なサービスです。

最後の4つ目は伝統や文化的な活動、精神的な活動に関連する「文化的サービス」で、例として森林浴などのレクリエーションがあります。

自然資源の過剰摂取

このように地球は森林、草原、海洋などを通して人類にとって不可欠なサービスを提供しています。ただ人類は、これらの自然資源が不可欠にもかかわらず、過剰に摂取しています。

世界自然保護基金(WWF)が2022年に発表した「生きている地球レポート」によると人類は現在、地球1.75個分の自然資源を過剰に消費しています。これは地球全体のエコロジカル・フットプリント(人間の地球資源に対する需要)がバイオキャパシティ(生態系による地球資源の生産能力)を大幅に上回っていることを意味します。


WWFのレポートから作成

エコロジカル・フットプリントの内訳を見ると、土地利用別では化石燃料の燃焼やセメント生産で排出された炭素量が一番多く、活動別では食料生産が一番多くなっています。地球の生産能力を上回る消費は中長期的に持続可能ではないため、WWFは「過剰な摂取によって地球の健全性が損なわれ、人間の未来も脅かされている」と警告します。

増える負債への対応策

現在、生態系の破壊は進み生物多様性の損失に歯止めがかかっていません。重要なのは政策決定者や消費者にいかに長期的な視野を持たせられるかです。長期的な利益の保護は将来世代の利益につながる一方、短期的な利益に基づく生態系の搾取は次世代の利益を現代の人々が奪うことになります。

これまで生態系サービスの価値が把握しにくいために破壊が進んできた反省もあり、現在は生物多様性が生み出す価値の見える化が盛んになっています。企業や金融機関などの市場参加者が自然資本に与えるリスクや影響、また機会を評価・管理するために情報開示を求める「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」などの動きも一例です。

参考文献

  • 岩波書店,2010年,生物多様性とは何か,井田哲治著

  • WWF,2022年,生きている地球レポート 2022


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?