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<ラグビー>ルーマニア対アルゼンチン,観戦レポート

ルーマニア対アルゼンチン

ルーマニアに来て,おそらく最初で最後になるラグビーの生観戦。しかも,COVID19が完全に収束していない中での不規則な開催のため,自分でも興味深く面白いと思ったので,長くなりますが,チケット入手事情から記述します。

1.前哨戦(観戦チケット入手まで)

 当初,このアルゼンチン戦は,TVのライブ中継で見る予定だった。その理由は,サッカーのユーロ2020に出場しているウクライナが,なぜかブカレストのラグビー協会のラグビー場を練習場所にしているため,本来ここで開催すべきなのを,別のサッカー場で開催することにしたからだった。最初に設定していたラグビー協会のラグビー場なら,夜21時の遅いキックオフながら,我が家から近いのでライブ観戦に行くつもりだったが,遠くなったのでTV観戦に切り換えていた。しかし,こんなところにもサッカーの弊害が及ぶとは,と一時は憤っていた。

 ところが,急遽スウェーデンに勝利したウクライナが,次の試合会場であるローマへ直行することとなった。そのため,当初の予定通り新築の「ブカレスト凱旋門」ラグビー場で試合が開催されることが決まった。これはウクライナの試合翌日である6月30日の午前中までは開催が決まっていなかったが,午後になって急遽決まったそうだ。そして,翌7月1日からチケット販売がインターネットで始まった。私は,VIP席(1人約9,500円)を購入することも考えたが,ネットに接続したときには,既に売り切れだった。座席の間を1人分空席にする関係で,観客数を半減したからだった。それで,更に2段階下の1人約2,750円の席を取った。

 なお,このテストマッチはスルーして10日のルーマニア対スコットランドのみを観戦するつもりだったが,7月2日に,スコットランド代表にCOVID19の感染者が出たため,十分に練習できないことを理由に中止となったので,ルーマニアでのテストマッチはこの試合だけとなってしまった。なお,3日に予定されていた,イングランドA対スコットランドAのゲームも中止となっている。ルーマニア対アルゼンチンは,現地観戦できるほぼ唯一のチャンスなので(11月13日にルーマニア対オランダが予定されているが,中止または試合会場の変更等があるかも知れない),結果的にチケットを取って良かった。

 観戦に際しては,ワクチン接種,72時間前までの陰性証明が必要だったが,当日ラグビー場で出張による抗原検査が約750円でできるというので,21時からの試合開始に備えて,19時45分には家を出ることにし,20時にはラグビー場に到着する予定を立てた。また,観戦の際には,ナイフ等の持ち込みは当然禁止なのだが,これに加えてコイン,キーホルダー,鍵束,傘の持ち込みまで禁止されていた。また,普通ラグビーにビールはつきものだが,アルコールも全て禁止されていた。つまりは,サッカー仕様になっていたのだ。これはとても残念であり,英国由来のラグビーの古き良き伝統が,ルーマニアでは根付いていないと痛感した。

2.試合前(スタジアム到着後)


 というわけで,COVID19検査の時間も考慮して,21時キックオフとなっているが,19時40分に家を出た。試合会場のルーマニア・ラグビー協会に隣接した,去年秋に完成したラグビー専用スタジアムには,我が家から徒歩10分ほどで到着する。私も家内も日本で買ったカンタベリーのラグビータイプのポロシャツを着て,臨戦態勢十分だ。日中雨があったので,折りたたみ傘を持参したかったが,注意書きに従ってカッパに替えた他,財布のコインもとりわけておき,キーホルダーを除いた家の鍵を持った。さらに,水500mlペットボトルを入れて万全だ。

 幸いにサマータイムのため,21時までは明るい。まだ夕方の気配すらない歩道をスタジアムに向かっていくと,普段より明らかに人の姿が多い。そして,スタジアム周辺には救急車が数台待機し,ジェンダーマリー(一般的に憲兵隊と訳しているが,通常のポリティア=ポリス(警察官)よりは強い権限がある。日本で言えば機動隊または皇宮警察のような存在)の車と制服警官が多数いる。
 もちろん,私たちと同じに早く到着した観客も沢山いて,その中にルーマニア代表カラーのジャージ,ポロシャツ,Tシャツを着た人の姿を多く見る。また,体格の良い人も多く,これらの人たちは現役ラガーマンまたは元ラガーマンだろう。

 人が沢山並んでいるところがあって,たぶんここが試合前にワクチン証明や陰性証明がない人のための,出張検査施設だと思って行った。そして最後尾のラグビーっぽい服を着たおじさんに,プリントした紙の検査施設を案内した英語を見せながら,「ここはこの検査で並んでいるのですか?」と英語で聞いたら,おじさんは「ダー(Yes)」と言ってくれた。それで,最後尾で並んだ後10分程して列の前に進んだところ,氏名,ID(パスポート番号),電話番号を記入する申し込み用紙があったので,家内が用意されているペンと紙挟みとともに持ってきた。時間が無いと思って急いで記入したが,最前列になったときチェックのおじさんから,裏面のサインがないとの指摘があった。慌ててサインした。さらに,キャッシュでなくカードで家内と二人分(約1,500円)を払うことで,また少し時間がかかってしまった。

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 続いて,検査の人が名前などをタイプするのだが,家内の文字はすんなりと読めたようだが,私は乱筆かつ不慣れな日本人名だから,係のおねえさんから読めないとの指摘があった。そこで,すかさず家内が自分の氏を伝えてタイプしてもらう。ちなみに名前は4文字なので理解しやすかったようだが,氏は10文字で長いから,彼らには読みづらく発音しにくいようだ。
そして,次のおねえさんから紙製の小さな漏斗と試験管を渡される。ここに唾液を入れろということらしい。日本の空港では,簡単な仕切りをした部屋があって,目の前に梅干しやレモンの絵があったりするが,ここにはそんなものはなにもない。誰も他人の目を気にすることもなく,適当にその場から離れて唾液を入れて,おねえさんに渡す。おねえさんは手元にある市販されているような簡単な検査キットに検体を入れて,確認する。3分もしないうちに,おねえさんからプリントした紙を渡される。そこには名前の他,NEGATIV(陰性)と記載されていて,これで検査は終わり。予想外に時間がかからず,また簡単だったことに少し驚く。また,ワクチン接種率が高いと思っていたが,そうでない人がかなりいることを実感した。

 続いて,とりあえずメインスタンド側のゲートに向かったが,係の人から言われて私たちのチケットはバックスタンド側だったので,引き返してバックスタンドに向かう。さらに,ブロック毎にゲートが別れているようで,スタジアムの奥の方まで行くことになった。そのとき,外から見えなかったのだが,スタジアムのバックスタンド裏には,こんな天然芝のラグビーグランドと,人工芝の同じ大きさのグランドがあって,練習や試合前のアップに使えるようになっていた。これはとても良い施設だ。想定していた難関(COVID19検査)をスムーズに終えたこともあり,気分が軽い。また,久々のラグビー観戦+イベント参加とあって,気持ちが高揚している。

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 3分ほどふかふかした芝を気持ちよく歩いた後,私たちのゲートに着く。既に10人ほど並んでいるが,すぐに自分の番が来た。若い男女のセキュリティーがチェックしていたので,私は持っている小さなバックのチャックを開けて中を見せる。すると,自分の息子のようにしか見えない青年が,「英語ができるか」と英語で聞くので,「イエス」と答える。すると「ライターを持っているか」というので,「ノー」と答えたら,それで終わりだった。そして,チケットにあるバーコードを専用の機械で読み取り,緑の矢印が出たら,回転ドアが動くので自分で押しながらスタジアム内に入った。

 スタジアムは,この日は観客制限で4,000人だったそうだが,席の半分が埋まっていたので,最大1万人収容レベルの小規模なスタジアムと思う。街の中心にあるサッカー専用スタジアムは55,000人収容だから,その規模には雲泥の差がある。その小さな規模ながら,バックスタンド下には,数ヶ所の売店があり,アルコール不可とある中で,おそらくノンアルコールなのかも知れないが,ルーマニアのウルススというビールが販売されていた。そのほか,ソーダ類,水,ポテトチップスなどがあった。トイレは,代表ジャージカラーの黄色がペイントされていて,明るい雰囲気だが,掃除が行き届いていないのは,日本とは違うから仕方ないだろう。

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 私たちの席は,バックスタンドの22mラインのところで,座席は最上段だった。隣に係のおじさんが立っていて少し邪魔だったが,最上段といっても12段なので,非常に見やすいと感じた。また,大型スクリーンが2ヶ所にあるので,グランドの反対側のプレーもそこでクローズアップしてくれるからわかりやすい。何よりも,新しいから芝が綺麗だし,全体のこぢんまりとした作りが良い。

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 そして,道路に面したゴールポスト裏には,ルーマニア正教のカシン教会の尖塔が見えて,これが絵になっている。設計した人は日本庭園の借景という概念は知らなかったと思うが,これこそ借景の成功例だと感じた。

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 私たちの座った席の左には,ブリティッシュアンドアイリッシュ・ライオンズのジャージを着たおじさんがいて,(ノンアルコール)ビールを飲んでいた。たぶん英国系の人なのだろう。また,右側にはアルゼンチンのファン数人が固まっていて,試合前に流れていたフレディー・マーキュリーの「ボヘミアンラプソディー」で盛り上がっていた。

3.試合観戦(さあ,本番です)

<注:7月6日、WRの正式記録から、得点経過などを修正しました。>

 フルネームではないが,メンバーを紹介したい。
アルゼンチン:
ジジェナ,モントージャ(キャプテン),ピエレット,クレメール,ラヴァニーニ,マテーラ,ゴリッセン,ブルーニ,クベーリ,サンチェス,インホフ,デラフエンテ,モローニ,コルデーロ,ボッフェリ
(リザーブ)
ボッシュ,シャパーロ,メデラーノ,イサ,ゴンザレス,ベルトラノウ,ミオッティ,デルガイ

ルーマニア:
サヴィン,カパタナ,タルス,ロス,モトク,チリカ,ボボク,ゴリン(キャプテン),ルパル,プライ,オヌツ,ブクル,ゴンティネアク,ドゥミトル,メリンテ
(リザーブ)
バルダス,バディウ,バラン,アントエスク,マコヴェイ,ネクラウ,スルジン,ネアグ

 ぱっとみてすぐにわかる通り,アルゼンチンは昨年オールブラックスに初勝利したメンバーを多数含む,ほぼベストメンバーだ。ザラグビーチャンピオンシップで毎年ハイレベルの試合経験を積んでいる,いわば相撲で言えば三役クラスのチームだ。一方のルーマニアは,今年になってからテストマッチを数試合行って調整は万全であっても,相撲で言えば幕内中位レベルなので,順当ならアルゼンチンが圧勝して当然と思っていた。

 試合開始前。アルゼンチンの国歌が流れる。音楽だけが流れて最後に歌になるやつだ。右側のアルゼンチンのファンが大声で唱和していた。そして,ルーマニアの国歌。いかにも共産主義時代を彷彿とさせる軍隊基調のメロディーなのだが,マイクなしでも通る声であるソプラノがマイクを通して歌うので,スタジアム中に反響していた。

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 私たちは,前半はアルゼンチンサイドだったので,ルーマニアが攻め込まない限りは,プレーの大半が遠くになると思っていた。しかし,開始まもなくアルゼンチンが自陣のブレイクダウンで反則を取られて,ルーマニアFBメリンテが4分にPGを決めて先制する。

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 スタンドが盛り上がる。続いて,アルゼンチンが反撃に移り,ボールを展開しつつ確実にゲインラインを切る。左ゴール前に迫って,数度ラインアウトからトライを狙うが,ルーマニアのディフェンスを破れない。逆に切り替えされて,自陣で反則。再びメリンテが11分にPGを狙うが,これは外れた。
 これで流れはアルゼンチンに戻る。確実にゲインを重ねて,ゴール右前でスクラム。そこから後ろに下がって移動しながら何度もアタックして,NO.8ブルーニが13分にスキルの高いスワーブランでディフェンスを抜けて,右スミにトライ。サンチェスのコンバージョンは外れて,3-5と逆転する。

 続いて,再びルーマニアがFWの無骨な突進で前進し,最初のPGと反対側の位置ながら,距離と角度は変わらないところから,21分にメリンテがPGを入れて6-5。なんとか食らいついている印象だ。

 しかし,アルゼンチンのアタックは,パスミスが多く不安定ながら,個々の力は強く、アンストラクチャーの展開から、右タッチライン際を抜けた14番WTBコルデーロが,スピードで振り切って24分に右スミにトライ。サンチェスのコンバージョンは外れて、6-10と再び逆転した。

 その後左中間50mラインで,アルゼンチンが反則。ルーマニアはタッチからラインアウト,そして得意のモールでトライを狙うかと期待したが,なんとメリンテがPGを選択。入らないと思ったが,見事に決めて31分に9-10と迫る。

 前半残り少なくなってきた時間帯,ルーマニアのディフェンスに疲れが見られる。そして,36分には,ゴール前のディフェンスでチームが反則を繰り返して、ペナルティートライとなり、9-17。37分には、6番FLチリカがシンビンになってしまう。後半に向けて、残念な終わり方になってしまった。

 後半は,ルーマニアのディフェンスも疲れて,アルゼンチンがトライを重ねるかと予想したが,ホームの大声援に押されて,なんとゴール前左スミのラックからHOカパタナが47分にトライ。これは盛り上がった。しかし,メリンテのコンバージョンは外れて,14-17。3点差なら逆転可能な点差だ。

 その後一進一退が続き,ルーマニアには攻め手がないものの,アルゼンチンのハンドリンクエラーと反則に助けられる。60分にアルゼンチンはゴール前5mのラインアウトのチャンスを数回得るが,その度にモールやスクラムで反則をしてしまう。さらに,取っていればトライというパスをノッコンする始末。
 そして,アルゼンチンのミスはこれだけではなかった。右中間ゴール前で余ったBKへトライに直結するロングパスを放ったところ,なんとこれを読んでいた好調のルーマニア11番WTBオヌツがインターセプト。そのまま相手陣22m付近まで持ち込んだが,さすがにバッキングアップしたアルゼンチンのディフェンスに捕まる。

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 ここでラックとなり,しばらく肉弾戦が続いた後,なんとアルゼンチンが反則。左斜め70度,距離25mの絶好のPGチャンスをメリンテが64分に決めて,17-17の同点となってしまった。残り16分となり、ルーマニアに金星のチャンスが訪れた。

 しかし,さすがは三役クラスのアルゼンチン。着実に自陣からアタックを仕掛け,さらにアンストラクチャーの状態になったところで,左タッチ沿いをラインブレイク。さらに相手陣中央に入ってからは,乱れたルーマニアディフェンスの隙を突いて,ゴール前に突進。ゴール中央2mで数人のタックルを受けるが,回転しながら20番FLゴンザレスが77分にトライ。交代SO22番ミオッティのコンバージョンも決まって,17-24とリードした。

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 これでアルゼンチンの勝利は確定と思ったが,ルーマニアが猛攻を繰り返し,アルゼンチンがスイッチを切ってしまったのか,80分には自陣ゴール前で交代SH21番ベルトラノウがシンビン。あわやルーマニアに同点のチャンスかと期待したが,アルゼンチンの堅いディフェンスで,最後はルーマニアが反則し,アルゼンチンがタッチに蹴り出してノーサイドになった。

 この試合は,後からルーマニア協会の試合レポートで知ったのだが,ラテンカップという大会の最終戦となっていて,アルゼンチンの優勝が決まったそうだ。ネットで調べたら,アルゼンチン,フランス,イタリア,ルーマニアが参加して,1995年から開始し,1997年に2回目を開始したが,その後開催されずに来て,今年が3回目となったようだ。1回と2回はフランスが連勝したが,今回初めてアルゼンチンが優勝した。

 優勝したアルゼンチンだが,ハンドリンクエラーと反則が多く,豪華なメンバーながらチームは未調整と映った。不調のアルゼンチンに対して,ルーマニアはホームで勝てる絶好のチャンスだったが,切れ味あるBKやゲームメークに長けたHB団がいないのでは,トライを取る方法も少なく,勝つのは難しかった。いつも思うのだが,FWは強いので,優れたSOとWTBが一人ずついたら,ティア1に勝てるチームになれると思う。

 しかし,今日はルーマニアのラグビー専用競技場で,アルゼンチンという強豪を迎えたテストマッチを見られて,非常に良かったと思う。やはり,日頃からラグビー好きを公言していると,こういう僥倖も得られるのかも知れない。「神は自ら助ける者を助ける」ようだ。

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