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<書評>「日本のアニメはなぜ世界を魅了し続けるのか―アニメ聖地と地方インバウンド論―」

20210424日本のアニメは世界を

「日本のアニメはなぜ世界を魅了し続けるのか―アニメ聖地と地方インバウンド論―」
酒井 亨著 ワニブックスPLUS新書 2020年

かつて麻生太郎大臣は,短い総理の間に,日本が世界に誇る,そして唯一最大の文化交流の武器であるアニメを推進するため,「アニメの殿堂」を作ろうとした。しかし,マスコミの言葉尻を捉えた揚げ足取りキャンペーンによるネガティブイメージと,人格を否定するような扱いのアニメ好きも利用され,当時の野党によって潰されてしまった。

もし「殿堂(博物館)」が出来ていれば,今頃は,アメリカがハリウッド映画により,世界中の人々がコーラを飲んでハンバーガーを食べているように,緑茶を急須でつぎながら,柏餅の葉は,桜餅と同じに食べてよいものかと悩んでいたことだろう。

それぐらい,日本のアニメの力は強いものだが,「アニメの殿堂」を作るのが潰された理由が,麻生大臣のキャラクター攻撃だけではなかったことが,本書を読んでわかった。

それは,台湾,香港において,日本のアニメが自由の象徴として支持され,人気があることが理由だった。彼らは,圧政の大陸中国に対抗する自由と民主主義の日本のイメージを,アニメに見ていたのだ。だから,現在日本の多くのアニメは,大陸中国で放送禁止や禁書の扱いを受けている。これらを見たり,読んだりした大衆が,自由と民主主義に目覚めて,日本のような国にしようと政治活動をすることを防止するためには,単純かつ暴力的に禁止するだろう。もし,日本が「アニメの殿堂」を作って,自由と民主主義をアニメの強い力を借りて発信されたら,大陸中国の大衆は一挙に目覚めてしまい,東欧諸国のように圧政は覆されてしまうからだ。

しかし,本書を読み進めていくうちに,日本のアニメの力もピークを過ぎているように見える。理由の一部は日本のアニメ産業の衰退傾向にあると思われるが,ハリウッドのように恒常的に生産していく構造が整備されていない部分も関係していると思う。

それでも,アニメは日本の持つ素晴らしい文化交流の武器である。最近は,これに日本食を加えてもよいと思う。特にラーメンは,今や世界中で最も影響力のある日本食となっている。これからは,京都とパリに「アニメとラーメンの殿堂」を作って,日本と日本人の持つ自由と民主主義をアピールしていってはどうだろうか。

とここまで,日本のアニメの力を絶賛してきたが,著者によれば,日本のアニメ力には限界があるとしている。そして,日本政府のクールジャパン戦略は,台湾で成功したアニメをそのまま適用したことが失敗の原因になったと指摘する。

その著者がむしろ日本が誇るべきソフトとして強調するのは,「日本語」,「歴史」,「書籍」にあると述べている。日本語は日本でしか使われていないのにも関わらず,海外では人口では圧倒的に多い中国語よりも人気があることは,強みになると言う。さらに,書籍=歴史的文献では,712年の古事記以来,世界有数の歴史的に高い識字率のおかげで,文献数は中国に匹敵していることを挙げる。そして,こうした教養の集積が,アニメ復活のための集合知となり,さらにアニメの聖地を含む観光大国にもつながると述べている。

そして,皇室に代表される日本の長く続く歴史がある。創業200年以上の企業のみが参加できるパリに本部を置くエノキアン協会というのがあり,フランスとイタリアの企業が多いのだが,日本からは,世界最古の578年創業の金剛組(法隆寺を建立した建築会社のひとつ)を筆頭に,1,000年以上の歴史を持つ8社が加盟しているほか,統計では200年以上の歴史を持つ企業は3000社ある。中国9社,インド3社,韓国0,ドイツ800社,オランダ200社と比べて,日本企業の歴史の古さが実感される。

この日本が誇るべき歴史を担う頂点は,多くの国が「革命」と称して国王とその一族を虐殺し,歴史の継続を抹殺してきた中で,神話時代を含めて3,000年も続く皇室である。またその周辺には,日本の神道・神社があり,単純に観光資源化することには種々問題があるとも思うが,伊勢神宮,出雲大社を筆頭に,アーリントン墓地以上の聖地である靖国神社などは,他の国からは羨ましがれるほどの歴史と由緒を持った偉大な宗教施設だ。

また,靖国の桜がなぜ美しいかといえば,現在の平和で自由と民主主義が守られている日本のために,自らの命を犠牲にしてくれた英霊たちがひとつひとつの花びらに昇華しているからだが,こうして祖先から連綿と日本人が育て継承してきた美質としての歴史は,後からあわてて作り出すことが不可能なものであり,いくら嘘を重ねても,木の年輪のごとく,模倣することすらできない貴重な財産なのだ。

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