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<ラグビー>ニック・エヴァンズが,ダニエル・カーターを歴代最高SOと認める。

(本稿は,以下の「オールブラックス.コム」の記事を引用しています。)
https://www.allblacks.com/news/is-former-all-blacks-first-five-eighths-dan-carter-the-greatest-of-all-time/

雑誌「ラグビーワールド」からの「歴代最高のSOは誰か」という質問に対し,2004~7年までオールブラックスでダニエル・カーターとともにプレーしたニック・エヴァンズが,カーターを推薦する理由を述べている。

「自分がオールブラックス入りした当時,カーターは10番ではなく,12番をプレーしていた。彼が12番をプレーしている画像はいつでも見られるし,なぜそうだったかもわかると思うが,彼はそうした才能―持って生まれたもの,気づき,読み―を持っていた。」

「プレッシャーには,外からのものと内からのものとがある。テストマッチのような重要な試合の場合,プレーの瞬間に何が起きているかを理解する課程が重要だ。(カーターはこうした能力を持っていたが,そこが良い選手と偉大な選手との分かれ目だと思う。)」

「SOというものは,物事がうまく行かない,想定と異なっている場合,チームからは責任者とみられる立場にある。それは,重責であるとともに挑戦でもある。カーターはこうしたことを全てこなしていた。」

「スキルが高かった。パスゲームが上手く,キッキングゲームも良かった。さらにゴールキックも彼の良さに加えられる。彼は本当に良いゴールキッカーだった。また,(元イングランド代表の)ジョニー・ウィルキンソンのように,勇敢なディフェンスもした。普通は,私を含めて10番がこうした勇敢なディフェンスをすることはないが,10番が良いタックルをした,または相手を上手く止めた場合,チームからは大きな信頼を得るだろう。」

2005年のオールブラックスの対ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ第2戦は,誰もがカーターのベストゲームと認めているが,エヴァンズは,2007年の(自分が所属していた)ハイランダーズ対(カーターがいた)クルセイダーズとのゲームが,一番思い出にあると言う。

この試合は,強風下(当時は今の屋根付きのフォーサイスバースタジアムではなく,低温かつ強風で有名なカリスブルック)で行われ,カーターはキッキングゲームでハイランダーズに常時プレッシャーを与えていた。その一方でゲームの流れを変え,ディフェンスをリードしていた。エヴァンズが脱帽したのは,カーターのバナナキックだった。強風下のコンディションで見たそのキックを,エヴァンズは「あり得ない」と驚嘆している。

そして,テストマッチの先発SO争いでは,カーターがやったようなレベルのプレーに自らを引き上げる必要性を実感させられた。
「自分のプレーをさらに進化させること。それは,自分の考えていたレベルよりも更に上にあった。」
「もちろん,先発の10番のジャージを着たかった。しかし,一度チームのメンバーとして(リザーブに)選ばれた以上,自分のカーターの控えという役割にベストを尽くし,チームを勝利に導くことが期待されていた。そのため,リザーブからプレーした際には,チームの調子が落ちないように(気をつけるように)した。」

カーターが,GOAT(Greatest of all time,歴代最高選手)に選ばれることについて,エヴァンズは,こうした称号はチームスポーツには合わないと述べる。

「例えば,ゴルフなどの個人スポーツの場合,ジャック・ニクラスやタイガー・ウッズに対して,(最高選手として)選ぶ人と選ばない人が半々だと思う。しかし,チームスポーツの場合は,いろんな異なるタイプ(基準)がある。」
「例えば,自分が決めた分野で考えてみると,得点,称号(タイトル),安定したプレーなどを他の世界の10番と比較すれば,カーターは間違いなく歴代最高選手だと思う。」

「しかし,ラグビーと世界中へのインパクトの強さを見た場合,例えばジョナ・ロムーと比較すれば,ロムーが,プロフェッショナルのゲームを一新したこと(と比較するの)は,別の議論になる。」
「もしロムーの存在がなかったら,どれほど多くの人がラグビーをプレーしなかったかを想像して欲しい。ロムーがプレーする時は,誰もがTVの前に釘付けになっていた。」
「誤解しないで欲しい。カーターもラグビー界に与えた影響は大きかったが,ロムーがプレーしたときは,世界中の人たちが立ち止まっていた。」

【個人的見解】
2007年RWCの準々決勝オールブラックス対フランスは,当時若手の未熟なレフェリーであったイングランド人ウェイン・バーンズが,現在ではTMOであっさりと判定される明確なフランスのスローフォワードを見逃し,これが八百長のようなフランス勝利につながるトライになったのですが,この試合を最後にニック・エヴァンズはオールブラックスから引退し,英国のクラブチームに移籍しました。

また,この試合では,フランスが当初からカーターを狙っていたため,カーターは早々に怪我で退場し,交代出場したエヴァンズも怪我してSO不在となり,本来12番CTBであるルーク・マカリスターがSOをプレーすることになった酷いゲームでした。

この記事にもあるように,オールブラックスのSOはカーター全盛であり,エヴァンズは常にカーターの控えであったことが,彼をオールブラックスから早々に引退させ,高額の収入を得られる英国クラブチームへの移籍を促したのですが,その後エヴァンズは,ジョニー・ウィルキンソンがゴールキックのみで活躍したように,優れたゴールキックを持って長年活躍できました。NZに止まっているよりは,彼にとっては良かった選択と思います。

そのエヴァンズが,カーターを歴代最高のSOと称賛するのは当然でしょう。また,記事に言及されていますが,カーターのディフェンス(タックル)は実に優れたものがありました。ウィルキンソンがSOとして勇敢なタックルをしたと言いますが,彼はその勇敢であっても下手なタックルのせいで,数々の大怪我をして選手寿命を短くしたのでした。

一方,カーターのタックルは,昔の日本代表がやっていた,外国人からすれば「チョップタックル」と呼ばれて,サッカーのハッキング(脛蹴り)同様の違法ではないかと時々指摘される足首及び脛へのタックルではなく,相手の膝下めがけて,まるで合気道の達人のような腕を巧妙に使って簡単に倒す技が非常に優れていました。もし,カーターがウィルキンソンのような身体(肩)を正面から当てるようなタックルをしていたら,もっと多くの怪我をして世界記録も達成できなかったでしょうし,オールブラックスとしての寿命も短かったと思います。カーターが,長年素晴らしい選手として活躍できた第一の理由は,その巧妙なタックルだと思います。もし,カーターからコーチとして教えてもらえる貴会があれば,誰もが注目するアタックではなく,このタックルこそ教わるべきものだと思います。

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