見出し画像

<書評>「クラシック千夜一曲-音楽という真実」

20211109クラシック千夜一夜

「クラシック千夜一曲-音楽という真実」 宮城谷昌光著 1999年 集英社新書

 中国古典を題材にした小説で著名な作者による,偏執的な音楽評論。10夜(曲)として選んだ曲目も,また推奨するCDも,さらに指揮者や演奏家に対する評価も,かなり個性的かつ一方的に思える。

 結局,これだけの感想しかなかった。別にこの本が良くないということではなくて,私が読んで,どこまで刺激を受けたかという観点では,これ以外に書きようがない。とはいえ、これでは紹介にならないので、著者が選ぶ10曲と推薦するCDを列記しておく。

1.メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
 ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン) シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1959年2月録音

2.ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」
 ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1958年1月録音

3.チャイコフスキー ピアノ協奏曲第2番
 ヴィクトリア・ボストニコワ(ピアノ) ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 ウィーン交響楽団 1982年10月録音

4.ビゼー 「アルルの女」
 アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1964年1月録音

5.グリーグ 「ペール・ギュント」
 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 サンフランシスコ交響楽団 1988年6月録音
 (全曲版であれば)ネーメ・ヤルヴィ指揮 エーテボリ交響楽団 1987年6月録音

6.プロコフィエフ 「三つのオレンジへの恋」
 ネヴィル・マリナー指揮 ロンドン交響楽団 1980年4月録音

7.ムソルグスキー 「展覧会の絵」
 ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 1963年10月録音

8.フォーレ 「エレジー」
 ポール・トルトゥリエ(チェロと指揮) イギリス室内管弦楽団 1987年3月、9月録音

9.ブラームス 交響曲第3番
 クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮 クリーヴランド管弦楽団 1987年5月録音

10.ミヨー 「プロヴァンス組曲」
 シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1960年11月録音

 そこで,私も自分好みのベスト10を選んでみた。1~10の順番には意味はない。思いついた順かつ同じ作曲家の作品が並ぶようにしただけだ。なお、推薦するようなCDはない。そこまでいろんな人の演奏を聞き比べていないし、聞き比べるられる能力もないから。

1.ピョートル・チャイコフスキー バレエ組曲「くるみ割り人形」
 好きな順では,「序曲」,「花のワルツ」,「グランパドュドュ」,「行進曲」,「中国の踊り」
全てが楽しく,夢の国のイメージがわき上がる暖かい音楽だと思う。

2.ピョートル・チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番(特に第2楽章)
 有名なのはホルンで始まる冒頭の部分だが,私としてはケン・ラッセルの映画で使われた第2楽章のアダージョが良い。フルートとピアノが,まるで恋人同士のように戯れている。

3.クロード・ドビュッシー 「牧神の午後への前奏曲」
 「くるみ割り人形」以上に,バレエとの関係を深く感じる。特にボスラフ・ニジンスキーとこの曲とは一心同体のようだ。ドビュッシーとニジンスキーという,類い希な天才二人が,この曲とバレエに昇華している。

4.クロード・ドビュッシー ピアノ曲「前奏曲集第1巻」(特に「沈める寺」)
 全ての曲が好きで,一番有名な「亜麻色の髪の乙女」も大好きだ。しかし,「沈める寺」の持つ物語性に一番感性を刺激される。そのまま短編小説に言語化できる曲だ。

5.モーリス・ラヴェル 管弦楽「亡き王女のためのパヴァーヌ」
 「亜麻色の髪の乙女」をオーケストラとして拡大させたら,この曲になるようなイメージを持っている。そして,モデルとなったディエゴ・ヴェラスケス描くところのマリガリータ王女の姿が,ずっと目の前に浮かんでくる。

6.グスタフ・マーラー 交響曲第4番(特に第1楽章)
 冒頭の馬車の鈴が鳴るようなところが一番好きだ。まるで,青春の戸惑いと夢想がそのまま音になっている。第4楽章のアダージョも美しいが,最後の歌はいつ聴いても青春の終わりを思い出させてくれる。

7.フェリックス・メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲第1番(特に第1楽章)
 有名な出だしの,ランボーが描いた「街にしとしと雨が降る」ようなオーケストラの演奏と,それに続く冷たい雨のようなヴァイオリンの独奏に,一瞬で心を奪われてしまった思い出がある。

8.リヒャルト・ワーグナー 楽劇「タンホイザー」序曲
 ロマンとはこの曲のためにある言葉ではないか。冒頭のホルンの中世騎士道の世界に誘い込む音,そして弦楽器による歴史の大きな波に揺られるような演奏。神々の世界を訪れるのに相応しい。

9.アントニオ・ヴィヴァルディ 「和声と創意への試み」第1~第4組曲,通称「四季」
 弦楽器はこんなにも美しい音を響かせてくれるかのと,いつも感服してしまう。音楽は「音を楽しむ」と書くが,その言葉通りの曲だと思う。

10.ヨハン・シュトラウス ワルツ「美しき青きドナウ」
 スタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」でも有名になったが,たんなる舞踏会用のワルツでは収まりきれない大きなスケール感がある。それは,大河ドナウの持つ豊穣さにつながっているからだ。

番外 アルバート・ケテルビー 「ペルシャの市場にて」
 クラシックよりはポピュラー音楽としての小品だが,実際のペルシャ=イランの風景とは全く異なる,ヨーロッパ人が憧れたペルシャのエキゾチックさを,まるで絵画のように表現しているところが好きだ。いうなれば,架空世界であるディズニーランドの音楽版だろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?