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<書評>「台湾を築いた明治の日本人」

2021台湾を築いた明治の日本人

「台湾を築いた明治の日本人」渡辺利夫著 産経新聞出版 2020年

日本の満州国経営及び朝鮮半島の近代化については,ゆがんだ政治的観点から歴史的に正しく評価されていないという悲しい現実がある。しかし,台湾については,東日本大震災への支援等数々の親日的行為からわかるように,日本が普通の帝国主義諸国とは異なり,植民地経営というよりも,近代化に取り残された地域と人々に対して行った献身的な事業の数々は,植民地=搾取という概念とは正反対の,自らの犠牲も顧みずに行った人類全体に対する文明化・進化への大きな貢献だった。

これまで,こうした大日本帝国が行った善行ともいうべき海外領土における偉業は,なぜか隠微され,学校の歴史の授業で日本が生んだ偉人の善行として学習することはなく,またメディアが取り上げることもなく,一般の人が知る機会は皆無となっている。反対に,事実無根の歴史をねつ造して,「戦前の日本人はこれほど悪逆な帝国主義者であったので,戦後の日本人は深く反省し,こうした政治を復活させてはならない」という日本と日本人を貶める教育及びプロバガンダが,学校教育及びメディアの両面で大きく成功しているのが実情だった。

戦前の日本人による末永く語り継ぐべき善行がある。1890年,和歌山県串本町沖で遭難したオスマントルコ帝国の軍艦エルトールル号の生き残った船員に対して,救出作業にあたった地元住民及び日本政府の献身的な奉仕は,トルコ及びトルコ国民に長年にわたって感謝の念とともに語り伝えられ,1985年,イランからの邦人救出支援となる戦乱の中のトルコ航空機派遣に結びついた事例がある。最近になって,これまでの悪しき洗脳教育やメディアの偏向報道が見直されるようになり,このトルコの事例とともに,台湾が親日となった理由である優れた先達たちの偉業を,私たちは漸く想起できるようになった。

本書で紹介されている,台湾のみならずアジア全体の飢餓を救った蓬莱米を開発した磯栄吉,その蓬莱米をインドに拡げた杉山龍丸,「人類ノ為メ,國ノ為メ」と記念碑に刻んだ烏山頭ダムを筆頭に,数々の台湾の膨大な水利灌漑施設を完成させた八田與一,そして,こうした大事業を実行する政治的基盤を築いた児玉源太郎,後藤新平については,台湾人や日本人のみならず,人類全体から称賛されてよい偉人たちと称すべきなのだ。

日清戦争で清国から割譲された当時の台湾は,清国も経営を放棄する程に,マラリアなどの伝染病が蔓延し,先住民のマレー・ポリネシア系と大陸中国の福建や広東から移住してきた後発住民との際限のない抗争が絶えない地域だった。さらに,熱帯の過酷な気候から,常時自然災害に悩まされ,その結果食料生産が安定していないという,いわば人畜不毛の地であったのだ。

この厳然とした事実に基づけば,現在の近代国家に発展した台湾が従来からあったと一方的に夢想して,日本が清国から戦争によって剥奪した地域と考えるのは,全くの誤解だと理解できるだろう。日清戦争講和条約を担当した伊藤博文に対して,清国代表の李鴻章が,わざわざ台湾を得ることのダメージの大きさを友人として教えてくれた事例がこれをさらに証明する。日本は,アジア最初の近代国家としての使命を持って,海外領土開発の責任を果たそうとしていたのだ。これらを,侵略とか略奪とか,欧米による帝国主義植民地経営と同様であると独断的に評し,また全面否定することは,まさに歴史認識に対する冒涜以外のなにものでもない。

ところで,本書に引用されている児玉源太郎や後藤新平の肖像写真は,いずれも威厳に満ちてその優れた人間性を彷彿させるオーラを発揮している。こうしたオーラは,この2人に限らず,明治に活躍した伊藤博文,大久保利通,西郷隆盛らに共通するし,大正・昭和に入ってからも,犬養毅,大隈重信,高橋是清らまで繋がっていた。しかし,戦中・戦後になるに従って,こうしたオーラが消えてしまい,欧米の帝国主義者たち以下のレベルになってしまったのは,なぜだろうか。日本人の劣化,教育レベルの低下と単純に言えないような気がしている。

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