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徒然ゆうじ 「中国拳法のこと」

某月某日

テイなにがしという達人の演武を見にいく。
中国拳法は華麗な動きが魅力で、
なかでも「長拳」は圧巻らしい。

余裕を見て1時間前に出発。
どう考えても遅刻する時間に到着。

案内板を頼りにふらふら歩いていると、
「拳」というTシャツをまとった
一目見てそれと分かる青年がすりよってくる。

「どうぞ」

なかば引きずられように入場。

中を見ると、みんな壁に張り付いている。
死角は無意識に守るらしい。

しばらくすると青白い婦人がそろそろと前に。
司会のようだ。

「え~…先生は怪我をされて、今日は長拳を披露できません」

帰りかけると、青年が泣きそうな顔でうなずいてくる。

ほえ面をかく私をよそに、会は淡々と進行。

第一幕。
先生が勢いよく飛び出し、
剣を適当に振り回して逃げるように帰る。

「次は、皆さんで太極拳をします」

今まで観客とばかり思っていた人たちがぞろぞろと前に出る。
それっぽい音楽にのってふらふらと動きだし、雨乞いのような光景だ。

「おもどりください。次に八極拳の演武です」

興味深い演武が始まるも、あっという間に終わる。
奥義は門外不出らしい。

「それでは先生が休憩されてる間、”詩吟”のアトラクションを行います」

………

「くにぃ~やぶれてぇ~さんがぁ~ありぃ~…」





目が覚めた頃に先生が登場。
当たれば折れそうな剣を、ひとしきりピュンピュンと振り回す。

「では、休憩の間みなさんで…」

雨乞いだ。

年配が多いせいか、あちこちでパキッとひざが鳴る。
見てるだけで健康になりそうだ。

みんなの関節がほぐれたところで最終演武。
先生が太極拳の形を披露し、格の違いを見せつける。


力強い演武に、いったい先生はどこを怪我していたんだろうと思いつつ家路についた。

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