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「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記) 第51話:8年間の思い出を閉じ込めて

 ある一冊のノート。
 ここには彼の8年間の記録が残されている。
 最初のページを開くと、日付は2012.1.23。
 下記にそのまま記載する。

 悪夢。
 寝つきがわるくへやに何かが居る気がした。男の顔、角がり、30~40代。
 女の顔。
 電気をつけて寝ることにする。
 yu me.
 ↓
 家(多分実家である。しかも昔の借家。)
 悪夢にうなされ目が覚める。
 号泣、台所に向かうと居間のようにコタツがある。となりのヘヤにはさっさんがいた。泣き顔を見られ心配されるも、何でもないとこたえる。
 コタツにつくと××さん(字が汚すぎてよめない)もいた。みんあでゴハン。多分カニを食べる。今から何かを出前するみたいである。
 ↓
 owari
 たぶん泣きました

 当時の有原君は昔の彼女と同棲していた。
 どのような経緯かは忘れたが、このノートはその子にもらったものだった。
 そこで彼は夢日記をつけ始める。
 しかし、なぜか左手で書いていたので、現在でもなかなか読むのが難解なほど汚い。

 当時の彼は荒れていた。
 毎晩浴びるように酒を飲んで記憶を飛ばしていた。
 アルコール中毒にニコチン中毒、鬱に共依存、朝から晩までひたすら眠って廃人のような生活を送っていた。
 あの頃は本気で二十代で死ぬと思っていた。
 
 現在、その廃人は思い出の中で懐かしい微笑みの対象になっている。

 日記をめくると、三日坊主のせいか日付はめまぐるしく進む。

 当時の彼女が事故に遭い入院したこと。
 兄が亡くなったこと。
 時たま見る酒に酔った見るに堪えない落書きの数々。
 日々の不安。
 悪夢。

 ところどころ破かれているページは、きっと彼を洗脳して結婚詐欺に引っ掛けようとした元カノがなにか書いたページだろう。

 2018年12月。
 この日を境に彼は一行日記を開始する。
 一日の出来事を簡潔に。
 確かこれは小説のために。
 または南方熊楠の影響か。

 そしてなんとそれが現在まで続いている。

 その中で彼は酒をやめ、タバコを絶ち、病気を克服し、人生でもっとも大切な人を愛し、悪夢は吉夢に、不安は楽しみに、人生を謳歌し始める。

 最後の数ページ、彼は新しい五年日記を同じメーカーから取り寄せて、この長かったノートを閉じることにした。

 最後のページにはこう書いた。

 長い間、本当にありがとう。
 心から愛しているよ。
 まだ数ページ残っているけど、それはあとのお楽しみ。
 お疲れ様。
 ゆっくり休んでね。
 今までありがとう。
 愛をこめて。

 有原悠二

 このノートには、兄が亡くなった時の状況が詳細に書かれてある。
 彼がいつか小説にかくために、涙をためながらそのときに書いたものだ。
 だからきっと、彼はまたこのノートを開くときがくるだろう。

 そのときには、字ももっとうまくなって、たくさんの夢をかなえて、きっと今よりもさらに大きな笑顔で、きみに会いに来るから。

 初めての人生、本当になにが起こるのかわからない。
 死にたい人間が生き延びて、生きたい人間が死んでいく。
 思考はいつだって現実に反映して、ぼくたちの世界を悪夢にも天国にも変えられる。

 今日の風は少し暖かい。
 もうすぐ春だ。
 春。
 ますますきみのことが好きになる。

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