受験生
帰りがけに店員さんから渡されたのは、手にすっぽりと収まる、カイロ。制服のポケットにいつも忍ばせていたことを思い出す。
センター試験、1日目だったようで。
他人事に感じてしまうくらいには時間が経った。
受験会場までの道のりとか、試験の内容とか、前日の緊張とか、翌日の採点とか。そういう主だったところの記憶はとってもおぼろげ。だけど、2日目の試験を終えて、駅に着いて、なんだかそのまま帰れなくて。友人と一緒に、子供向けの科学館でとびきりにはしゃいだことは鮮明に覚えてる。
その科学館は、子供の頃から馴染みのある遊び場。それはきっと私だけじゃなくて、友人も、さっきまで一緒にマークシートと向かい合っていたみんなも、そう。
駅に行くたびに、行きたいとせがんで、連れていってもらっていた。大きなシャボン玉をつくれたり、音波で砂に模様ができたり。とってもワクワクするその空間が大好きだった。
受験という大きな試練は、どうにも先が見えない。いまやっていることが正しいのかどうかも、ライバルにどれだけ差をつけられているのかも、春にどこにいるのかも。
ずっと不安と連れ添って、もがいて、苦しかった。
そんなときに、久しぶりの科学館。視界が急に鮮やかになった気がした。こんなワクワクがあったんだ。受験生って肩書きをすっかり忘れていられた。子どもに戻れた。楽しい帰り道だった。
ああ私は受験生という肩書きに、押しつぶされていたのかもしれないな。って今になると思う。だけど、あのときちょっとでも忘れられたから、なんとか乗り越えられた、かも。
こうやって思い出しはじめると、ぐちゃぐちゃになった気持ちが蘇ってくる。
勉強ばかりじゃなくて、息抜きも、とは言うけれど、正直勉強しないと受かれないし、もうどうしたらいいんだよ、勉強したって受かるかわかんないしな。ずっとぶつぶつ唱えていた。
だけど、もう、こればっかりは、自分を信じるしかない。ここでこういう勉強をしたから自分は大丈夫。ここで息抜きしてうまく切り替えたから大丈夫。寝坊しちゃったけど、その分短い時間で集中したから大丈夫。なんにせよ大丈夫。なんとかなる、と思えたら、悔いなくいけるはず。
拙いですが、応援に代えさせていただきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?