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映画「関心領域」無関心と麻痺

良い映画でした。面白いと言うのかどうかはわからない。視覚的聴覚的には面白かったかもしれないです。さすがジョナサン・グレーザー。
監督のジョナサン・グレーザーは好きなMVのディレクターだったのでずっと公開を心待ちにしていました。
JamiroquaiのVirtual Insanityが有名。

内容も興味深くて、オスカーも取っちゃって、めちゃくちゃ公開を楽しみにしておりやっと観に行くことができました。もうちょっと待てば良かったのに映画の日に時間があって観に行ってしまったのでめちゃくちゃ人が入っていいて、普段両隣に他人が座るということがほとんどなかったので両隣それぞれクセありの男性が座っていて戸惑いました。
映画の主題に対してその言い方をするのは憚られるのですが、お洒落な映像の映画だった。流石ですね。オスカー取ったからいっぱい上映してるのかわかんないけど、どちらかというとミニシアター系というか、とても長い映像のアート作品だと思いました。見せ方と音響がとても興味深かったのでパンフレットも買った。

この映画もアウシュビッツの所長とその家族という実在した人間ベースの話なので、「ネタバレ」的な内容があるかはわからないんだけど、異常な環境下にずっといる人間がどんどん感覚が麻痺して、(すでに)異常を異常と感じなくなっている状態から始まっていて、それが意識的なのか、そうなってしまったのかはわからないけど、とにかくアウシュビッツの隣であることは音声と背景からしか察することができなくて、それ以外は普通の風景。ちょっと昔の家庭の話みたいな感じに見えた。
私たちはアウシュビッツの隣に建ってる家の話ですよ、そしてアウシュビッツは強制労働や大量殺戮が行われていたところですよ、ということを共通認識として持っているので、背景の不穏な煙とか銃の音とか叫び声とかが、何を意味するのかを知っているが、それを全く知らない人が観るとどう感じるのだろうとも思いました。私たちは観客として、それを客観的に観ているので、多分この人たちは麻痺している、やっぱり何かがおかしいと思うけど、その家族たちにの耳にはもう外の音が聞こえないのか、無視しているのか、とにかく塀の外の出来事に対しては関わらない。感情的にもならない。
劇中で主人公の妻が遊びに来た自分の母に自分の家や庭を自慢しながら「来年もまた来たら」みたいなことを言うシーンがあって、この状況(アウシュビッツという恐ろしい施設が稼働している)という状況が来年もあると思っていることがすごいな、でもそう思ってたんだろうな、とか、アイヒマンとかも、感情的に憎いからユダヤ人を殺すというよりも、業務として請け負ってそれをいかに効率的に達成するかという意識だったみたいなのをなんかで見聞きしたし、まあ、麻痺しないとそんなことはできないですよね。

でも人間ってなんか慣れてくるから。私が異常な環境下にいた時のことはいつか書こうと思ってるけど今はまだ書かないでおくけど、本当に、普通の神経の人がおかしいと思ったり疑うようなことも、毎日続くと本当になんとも思わなくなってくるというのは実体験としてあるので、耳がどのくらい馬鹿になるかはわからないけど、とにかく人間は麻痺していく、鈍感になれる生き物だということはわかる。

「関心領域」(The Zone of Interest / interessengebiet)はナチス親衛隊が実際にアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉だそうです。関心領域。関心のある領域のことなのか、だけどこの映画をみているとそこから外では一切関心を持たない領域とも言える気がしました。関心領域以外は関心領域に無関心領域。
終盤に突如現代のアウシュビッツの風景が出てくるんだけど、そこが一番リアルに(昔の)アウシュビッツの惨状を感じられる、唯一のシーンだった。でも戦争自体は今も世界中で起こっていて、ガザとか、ウクライナとか、計画的大量殺戮ではないが、戦争が起こっていて人が亡くなっていることを私たちは知っていますが、その距離が、どのくらい近く慣れば「関心領域」と言えるのだろうみたいなことも考えさせられた。
募金とかたまにするけど、不買運動。。。不買運動が効果的なのかな。。。もうちょっと勉強しよと思いました。

その対比が合ってる気はしないけど、同時代につくられた同時代の戦争映画としては「オッペンハイマー」と「関心領域」は真逆の映画だった。どっちもみれてよかったです。映画館で見てください。


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