【旅する日本語】掴めそうなくらい、大きく輝く星たちの空を見て
標高七百メートルの地に栄える、長崎の雲仙温泉街。
私はその中のある旅館で働いていた。
雲仙地獄に仁田峠など、お客様に観光スポットをよく案内していた。
けれど私は、この高い標高から見る星空が大好きであった。
「今日は星が綺麗よ。帰りに見てみなさい。いい気散じになるわ」
落ち込んでいた時に、客室係の先輩にそう話しかけられた。
「きさんじ、ですか?」
「気晴らしって事。観光に来るお客様は気づかないかもしれないけどね、綺麗よ。ここの星空」
冬のよく晴れた日の夜が、特にいいわ。
空気が冷たいけれど、澄んだ星空が近くに見える。
ここに住み込みで働く私たちの特権よ。
何年も雲仙で働く人の、優しい言葉だった。
それから私はよく夜空を見上げるようになった。
先輩の言葉通り、いい気散じになったのだ。
もう何年も経つが、星が宝石のように輝くあの夜空に、今でも会いたくなる時がある。
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