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行ってきました:世界と日本のコンパクトシティを比較して

はじめまして。都内の大学を今年卒業したゆいきです。
私は、日本・アメリカ・ヨーロッパのコンパクトシティをテーマに卒業研究を行いました。

・コンパクトシティで住民はどのような生活をしているのか
・コンパクトシティにおいて、住民のクオリティ・オブ・ライフは高まるのか
・自動車利用が少ないコンパクトシティと、多いコンパクトシティの違いは何か

などの疑問に対して、住民の意見を聞くために、米国ポートランド、ドイツのフライブルク、デンマークのコペンハーゲン、富山市、高松市、前橋市で合計約320名にアンケート調査を行いました。このnoteではその結果について報告させていただきたいと思います.

1. コンパクトシティとは


コンパクトシティにはいろいろな定義がありますが、ここではOECDの定義を紹介したいと思います。

コンパクトシティの特徴
・一般的に高密度で近接した開発形態
・公共交通機関でつながった市街地
・地域のサービスや職場までの移動の容易さ
という特徴を有した都市構造のこと
(出典:OECD(2013年), 「OECDグリーン成長スタディ コンパクトシティ政策 世界5都市のケーススタディと国別比較」, pp.59 , OECD)

このような構造にすることで、様々なメリットがあると言われています。

環境面でのメリット:
・1人あたりエネルギー消費量の削減
例:輸送によって失われるエネルギーの削減
・自動車利用が減ることによる二酸化炭素排出量の削減
・非開発地域の自然保護
など

経済面でのメリット:
・インフラ開発/維持コストの削減
・中心市街地活性化による税収増
など

社会面でのメリット:
・車を利用できない層のモビリティ/生活利便性の向上
・徒歩/自転車利用による健康改善
など

そのため、「持続可能な開発」に対する関心が高まる中で、世界的にコンパクトシティ化が注目されてきました。

日本では、拡大を前提として郊外が開発された一方、中心市街地は「シャッター通り」化しました。その結果、自動車を利用できない住民の生活利便性低下、都市経営コストの増大、交通渋滞の発生、自動車移動の増加による環境負荷の増大などの問題が浮き彫りになりました。人口減少・超高齢社会によってより深刻化するであろうこの問題の解決策として、1990年代後半ごろから、コンパクトシティが注目されるようになりました。コンパクトシティを実現するための「立地適正化計画」に対して、477の自治体が具体的な取組を行っています(2019年7月時点)。

参考:
国土交通省, 「まちづくり三法」とは何か, http://www.mlit.go.jp/crd/index/handbook/1sankou.pdf , 2020年1月
交通省(2019), 立地適正化計画作成の取組状況, https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/toshi_city_plan_fr_000051.html, 2019年7月

2. 研究の概要

コンパクトシティにおける「クオリティ・オブ・ライフ」と「自動車利用」という2つのテーマでアンケート調査を行いました。

まず1つ目。具体的にはこのようなことを調査しました。

コンパクトシティと住民のクオリティ・オブ・ライフについて
・コンパクトシティでは個人が生活しやすくなるか
・コンパクトシティ化によって、街における活動や体験の頻度は増えるかどうか(人が集まるほど多様な機会が増える&移動が容易になると行きやすくなるのでは?)
・コンパクト化によって住民の幸福度や街に対する愛着は増すか

きっかけですが、もともと、今後の日本の都市の在り方として、コンパクトシティに興味があり、いろいろ調べていました。

その中で知ったのが、海外との大きな違いです。

海外:

画像1

日本:

遠いコンパクトシティ

(出典:鷺森弘・浅沼直樹・山崎純, 遠いコンパクトシティ 止まらぬ居住地膨脹 大阪府ひとつ分に, https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/compact-city/ ,2019年12月)

これがすべてではないと思いますが、あまりにも差があるので、海外と日本で何が違うのか、実情を把握したいと思うようになりました。


いくら持続可能な街でも、そこに住んでくれる人が少なければ、その分インパクトも小さくなってしまいます。だからこそ、「コンパクトシティ」×「住民にとっての魅力」をテーマとした研究をしたいと思いました。

次に2つ目。

コンパクトシティにおいて、どうすれば自動車利用が減るか
・普段どれくらいの頻度で自動車を利用しているか
・なぜ自動車以外の交通手段を使わないのか

コンパクトシティのメリットとしてよく「自動車利用が減ること」が挙げられるが、日本の先進・成功事例として有名な富山県ではいまだに自動車がよく利用されています。富山市立地適性化計画によると、公共交通が便利な地域に住む住人の割合は、2005年時点で28%であったのが、2018年時点で38.7%に増加しました。しかしながら、富山県の 1 世帯当りの乗用車保有台数は、2017年時点で1.70 台という全国第2位の水準です。コンパクトシティにおいて、住民はどのような理由から、車を使う/使わないという意思決定をしているのか聞くことにしました。

3. 調査結果(クオリティ・オブ・ライフ)

調査地は以下の通りです。

調査場所

※1:ポスティングは住民のポストにアンケートと回答依頼文を同封し、受取人払い(回答者の負担なし)を利用して返送してもらう形にしました。
※2:調査地への移動手段はすべて公共交通機関と徒歩です。

また、この研究では、まだコンパクトシティとしての取組が浅い前橋市を「コンパクトシティではないまち」と定義し、比較対象としました。

質問内容:

アンケートでは、主に3つの分野について回答してもらいました。

図1

1つ1つ紹介しているとあまりにも長くなるので、絞って紹介したいと思います。

まず、様々な機会や体験の頻度については、海外の都市>日本の都市という傾向が見られたため、コンパクトシティというよりもむしろ文化的な影響が大きそうです(海外のコンパクトシティとそうでない都市を比較してみたら、また違う結果になっていたかもしれません)。

生活のしやすさについて、特に興味深かったのは、家計のやりくりです。上でコンパクト化により行政費用が削減できると述べましたが、市民のお財布事情はどうなっているのでしょうか。

家計のやりくりの難易度について、6段階で評価してもらい、分散分析でP値0.05で分析したところ、以下のようになりました。

家計

フライブルクとコペンハーゲンは富山市と前橋市よりも有意で高い差があることを表しています。経済状況は因子が多すぎてこのデータだけで判断することはできませんが、中心市街地活性化で有名な香川市が、富山市よりも高い値であるというのが面白い結果だと思いました。

次は幸福度です。

幸福度

ポートランドとフライブルクは、幸福度の高い国として有名なデンマークの首都であるコペンハーゲン以上の評価を獲得しています。これは結構すごいことではないでしょうか?
アメリカとドイツの他の都市とぜひ比較してみたいところです。
日本はすべて7点台でした。

次はまちの好きなところです。
コンパクトシティの施策とまちの「好きなところ」に関連性はあるのでしょうか。この質問では、自由に記述してもらい、回答結果をKH Coderでテキストマイニング処理をしました。テキストマイニングでは、5回以上使用された名詞のみを抽出し、「city」など名詞単体では意味が不明なものに関しては、一緒に使われる形容詞や形容動詞も確認しました。

街の好きなところ:

好き

比較対象の前橋市を除いて、「activity」、「shop/shopping」、「good size」、「様々な施設がそろっている」、「街が明るい、活気がある」など、コンパクトシティによってもたらされる要素が、街の好きな点として認識されていることが明らかになりました。

街の好きでないところ:

嫌い

好きでないところを聞いた質問では、特に海外のコンパクトシティにおいて、家賃の上昇とそれに付随するホームレスなどの問題が起きており、住民もマイナスの感情を抱いていることが明らかになりました。

富山市、高松市、前橋市を比較した際に、中心市街地の活気のなさを挙げているのは前橋市の住民のみでした。一方で富山市と高松市において、公共交通機関に対して不満や不安を持っている住民が多く、モビリティの面で改善の余地があることがわかりました。

4. 調査結果(自動車利用)

次に自動車利用について見ていきたいと思います。

車頻度

私の調査でも、富山の市民が車を使用する頻度は6都市の中で最も高く、毎日利用する人が67.2%という結果になった。

理由を聞いてみました。

車頻度理由

理由として、ライトレールなどの新しい公共交通機関を導入しつつも、それ以外の地域に住む住民がいまだに多いこと(公共交通が便利な地域に住む住民は2018年時点で37.8%)や、利便性が低いこと(ライトレールは間隔が15分であるが、例えば居住推進エリアのひとつである婦中エリアの速星駅⇔富山駅は、平日の日中の電車は30分に1本間隔である)が考えられます。

また「交通機関(ライトレールなど)はコンパクト化しているが、諸機関(スーパー、病院など)が追いついていない」や「店が近くにない」、「車の駐車料金がかからない・安い」という声もありました。

5. 海外と日本の違い


今回このような結果になった理由として、各地域の施策を比較してみると、日本と海外では以下のような違いがありました。

・公共交通のカバー率
・自転車交通
・商業と交通の連携
・取組開始時期

詳しく説明していきたいと思います。

公共交通のカバー率:
富山市の場合、公共交通が便利な地域に住む住民の割合は37.8%(2018年)でした。
一方でポートランドにはライトレールが全部で8路線あり、2016年時点でダウンタウンに通勤・通学する人の45%にあたる33万人が公共交通を利用しているといいます。
さらにフライブルクでは、バスと路面電車を合わせると、停留所から徒歩5分以内に住む住民はなんと98%になるそうです!

自転車交通の促進:
ポートランドも、フライブルクも、コペンハーゲンも、自転車利用の促進に力を入れていました。具体的には自転車専用道路の整備や、自転車ごと乗れる電車などです。特に自転車利用の多いコペンハーゲンの朝はこんな感じです。

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なんと時速20㎞/hで走ると信号に引っかからないとか。

商業と交通の連携:
日本だと、まだまだ郊外の大型ショッピングセンターに車で行くスタイルが一般的で、住民から「交通機関(ライトレールなど)はコンパクト化しているが、諸機関(スーパー、病院など)が追いついていない」という声が聞かれていました。
海外では、商業施設と交通がしっかり連動して考えられています。ポートランドでは、「徒歩20分圏コミュニティ」という、20分歩けば生活に必要なすべてのものがそろうコミュニティがいくつか存在し、それらが公共交通機関でつながれているそうです。またフライブルクでは、日常的に利用するもののほとんどが、住宅地内、中心市街地とその近隣のエリアでしか販売できないという決まりがあるそうです。

取組開始時期:
コペンハーゲンでフィンガープラン(コペンハーゲン市を手のひらに見立て、そこから5本の指の方向に都市を拡大し、指の間は開発せず残すというコンセプト)が初めて提案されたのが、1947年(2007年に改訂)。
フライブルクで交通マスタープランが発表されたのは1969年。
ポートランドで「都市成長境界線(Urban Growth Boundary)」が引かれたのが1979年。
日本においては、先進事例と言われる富山市でさえ、コンパクト化の具体的な取組が始まったのは2000年以降のことでした。
開始時期を考えると、日本のコンパクトシティはまだまだ発展途上にあると言えるかもしれません。

参考文献:
山崎満広(2016), 「ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる」, 学芸出版社
村上敦(2017), 「ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか」,  学芸出版社
斉田英子他,「世界のコンパクトシティ 都市を賢く縮退するしくみと効果」,学芸出版社

6. 終わりに

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
至らない点もあると思いますが、コンパクトシティの取組の現状を少しでも知っていただければ嬉しいです。
シェアなどしていただけると、めちゃくちゃ喜びます…

そして、約25,000字ある卒論を約5,000字ほどにまとめたので、もっと知りたいことがあればお知らせください!

特に、それぞれの都市の特徴などについては詳しく載せることができなかったので、興味のある方は個人的に聞いてもらえればと思います!

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京都出身。大学ではコンパクトシティの研究を行い、日本海外合わせて6都市320人にアンケートを取りました。 興味分野はコンパクトシティ、都市経営、Sustainabilityなど。現在は都内のITベンチャーの新社会人です。