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星芒鬼譚《完全版》

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「どうにかして探してほしいんです、九尾の狐を」 源探偵事務所に舞い込んだその依頼は、世間を騒がす連続神隠し事件とも関係があるようで…? 調査に乗り出した探偵事務所一行が出会ったの…
1章ずつのお買い上げよりお得で、順番どおりに並べられているので続けて読みやすくなってます。
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#安倍晴明

星芒鬼譚2「…そうか。やはりお前は俺を越えていくか」

星芒鬼譚2「…そうか。やはりお前は俺を越えていくか」

ぱちり。静かな屋敷の中に将棋を指す音が響いた。
他に聞こえているのは、そばを流れる川の音だけだ。
広い屋敷だが、その存在を知る者はいない。
敷地には強力な結界が張られ人の目には見えないどころか、現代にはなきものとしてひっそりとそこにある。
居間では将棋盤を挟んで、二人の男が座っていた。

「そう来るか」

一人は結界を張った張本人である、安倍晴明。
言わずと知れた陰陽師である。

「どうです?少し

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星芒鬼譚8「あの、光太郎さん。俺だって戦えますよ。…たぶん」

星芒鬼譚8「あの、光太郎さん。俺だって戦えますよ。…たぶん」

「ねー、もう帰らない?」

光太郎があくび混じりに言った。
すっかり夜も更けてきた京都の街を、武仁と光太郎は歩いていた。

「いや!まだ帰りませんよ!たしかに反応が出てたんですから!」

腰に護身用の短刀を携え、妖怪探知機をあちこちかざしながら武仁は言った。

「九尾の狐を探してほしい」という奇妙な依頼が持ち込まれた翌日。
通常業務を終えた三人は、事務所で調査方針を話し合っていた。
そんな中、デス

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星芒鬼譚11「待って不死身の人多すぎない?」

星芒鬼譚11「待って不死身の人多すぎない?」

「ここまで来れば大丈夫かと…って大丈夫ですか?」

賀茂が振り返ると、京極はぜぇはぁと息を荒げていた。
なんなら、げほげほと噎せている。

「だ、大丈夫じゃないけど…とりあえず、大丈夫…」

京極はベンチに倒れ込むように座った。
賀茂も、少し間を開けて腰を下ろす。
夜の公園には誰もいない。外灯がジジッと音を立てて点滅した。
しばらく続いた沈黙を、賀茂が破る。

「…京極さん。昨日のことですけど」

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星芒鬼譚12「この街の平和は僕たちが守るのです!」

星芒鬼譚12「この街の平和は僕たちが守るのです!」

源探偵事務所の社用車は、鞍馬山へと向かっていた。
わずかに開けた窓から入ってくる風に、ひよりの頭の上の耳がぴこぴこと動く。

「いや~、狸に化かされたのは初めてでしたよ」

助手席の光太郎がバックミラー越しに見ながら言った。
ひよりは邪魔にならないように前に抱えた大きなしっぽを、きゅっと抱き締めた。

「隠していてごめんなさい。でも、探偵さんなんにも聞かないんですもの」
「普段から人間の姿で生活し

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星芒鬼譚16「取引成立だ。よろしくな、相棒」

星芒鬼譚16「取引成立だ。よろしくな、相棒」

鞍馬の屋敷からそっと抜け出した武仁は、石段に座っていた。
灯籠の明かりも消え、あたりは真っ暗だ。
夜風が頬を撫でるのが気持ちいい。
眼下には、中心地の夜景がちらちらと光っているのが見える。
もう何度目だろうか、手元のスマートフォンを確認すると、武仁はため息をついた。
わかってはいたが、やはり夏美からも光太郎からも連絡は入っていない。

「ここにいたんですね」

振り向くと、ひよりが立っていた。

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星芒鬼譚18「さあ、総力を挙げてもてなしてやるが良い。存分にな」

星芒鬼譚18「さあ、総力を挙げてもてなしてやるが良い。存分にな」

真っ暗な廊下をヴァンヘルシングとカーミラは歩いていた。
城内はひっそりと静まり返っている。
二人ともあたりの様子に集中し黙っていたが、カーミラが口を開いた。

「ねぇ、なんだか変よ…静かすぎるわ」

カーミラは耳が良い。
本人が言うには、人間にはわからない超音波を感じとることができて、物との距離感までわかるんだそうだ。
彼らの眷属であるコウモリと同じ特性を持っているのだ。

「ああ、罠かもしれない

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