一人ひとりが組織を変える|【要約】心理的安全性のつくりかた/石井遼介
今回は、石井遼介さんが書いた『心理的安全性のつくりかた』を私の意見も交えながら要約していきたいと思います。
組織開発・風土改善を学び、微力ながらも取り組んでいる身としてずっと触れたかった「心理的安全性」。周囲でもよく聞くようになりました。
1.心理的安全性とは?
(1)定義
= メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場
①心理的「非」安全性な状態
定義で「対人関係におけるリスク」に触れましたが、これはつまり「チームの成果のためや、チームへの貢献を意図して行動したとしても、罰を受けるかもしれない」という不安を感じている状況を意味します。
この罰には、大きく4つのカテゴリが存在します。
はい、私はすべて経験したことがあります笑
きっと私だけではなく、皆さんも感じられたことがあると思います。
そんな「非」安全な職場では次の2つの問題によって、チームの学習を妨げてしまうのです。
・挑戦することがリスクとなるため、実践し、模索し、行動することから学ぶということができなくなる
・個々のメンバーが気付いていたり知っていたりすることを、上手くチームの財産へと変えることができない
後者は「トランザクティブ・メモリー」という奴ですね。
②心理的安全な状態
逆に心理的安全を感じられるときは、何が満たされているのでしょうか?
著者は4つの因子を挙げています。
■話しやすさ…「何を言っても大丈夫」
・他の3つの因子の土台部分
・多様な視点からの状況判断、率直な意見とアイデア募集に重要
■助け合い…「困ったときはお互い様」
・トラブルへの迅速・確実な対処・対応、高いアウトプットの達成に重要
■挑戦…「とりあえずやってみよう」
・チームによる模索・試行錯誤
・組織・チームに活気を与え、時代の変化に合わせて新しいことを模索し、変えるべきことを変えるために重要
■新奇歓迎…「異能、どんとこい」
・「挑戦」因子よりも、個人に焦点を当てた因子
・メンバー一人ひとりがボトムアップに才能を輝かせ、多様な視点から社会・業界の変化を捉えて対応する際に重要
「新奇歓迎」は「DEI」にもつながりますね。
これら4因子が満たされている状態を目指すことが大切です。
(2)心理的安全性の効能
心理的安全性の高いチームでは、「チームの学習」が促進され、パフォーマンスという成果を生み出すことができます。
単なる仲良しチームではないのでご注意を。
4つの因子が満たされ、対人関係におけるリスクを感じないため、「健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をする」ことに力を注げられます。
「健全に意見を戦わせる」ことで起きる衝突を「健全な対立(ヘルシー・コンフリクト)といいます。
2.心理的柔軟性を向上させよう
(1)心理的安全性をもたらすリーダーはあなた
自組織に心理的安全性をもたらすためには、役職・地位に関わらず、一人ひとりがリーダーシップを発揮することが求められます。
職場に心理的「非」安全性を感じるのであれば、職場を構成する一人ひとりが問題の一部であるという自覚・自責を持つことが大切です。
なぜならば、一人ひとりのメンバーや集団としての組織は、相互に作用し合ってるためです。
自分自身の普段の行動やそれがもたらす周囲への影響を内省すると同時に、行動を新たに起こしたり、改善したりする必要があります。
そういった望ましい行動をとるためには、「心理的柔軟性」を向上させることが重要だと、著書は言います。
心理的柔軟性とは、その時々に応じて、本質的に役に立つ行動をとるための心のしなやかさを意味します。
(2)心理的柔軟性を構成する3要素
①変えられないものを受け入れる
たとえ困難な思考や感情が現れてきたとしても、それらにオープンであるということです。
想像するに容易いと思いますが、そういった困難な状況ほど、脳や心の雑音に囚われて、前向きな検討や工夫を阻害されてしまいがちです。
困難な状況でも「やれることを、やる」ための心のしなやかさが大切です。
行動を起こす際の心理的抵抗を減らしてくれます。
コントロールできないことは受け入れて(手放して)、前に進みましょう。
②大切なものへ向かっていく
同時に、自分が変えられるもの、コントロールできるものに集中していくことも大切です。
この際に役に立つのが、行動の推進力となる「大切なもの」です。
・自分自身のめざし合い方向性や大切にしたい価値観
・チーム・組織のビジョン・ミッション
自分自身及びチームの「大切なもの」がしっかりと紐付いていれば、困難な状況においてもその仕事に意味づけをして、前に進み続けるための活力が湧いてきます。
③変えられるものと変えられないものを見極める
①②に不可欠な要素です。
今この瞬間への気づきと集中を続け、現実ではない思考から離れて目の前の事実・現実に意識を向けることで、変えられるもの・変えられないものを冷静に見極めることができます。
3.行動分析を活かして心理的安全性を創る
行動分析学という心理学の分野があります。
これは、「人間を含めた動物全般を対象として、行動の原理が実際にどう働くかを研究する学問」です。
この行動分析における「きっかけ→行動→みかえり」フレームワークを活用して、心理的安全性をもたらすために役に立つ「行動」を組織に促していくことを狙います。
望ましい行動をとってもらうための「きっかけ」づくりと、その行動を次回もとってもらえる確率を増やすための「みかえり」づくりを意識的に行うことが大切です。
(1)ハッピーなみかえりを狙う
①みかえりには4タイプある
実はみかえりには2種類あります。「好子」と「嫌子」です。
・好子:次回、同じ行動をとる確率が「増える」ハッピーなみかえり
・嫌子:次回、同じ行動をとる確率が「減る」アンハッピーなみかえり
そして、これらのみかえりが行動の直後に、「出現:好子or嫌子が現れた・うまれる時」と「消失:好子or嫌子が消えた・なくなった」ときの2パターンがあります。
つまり、みかえりには2種類×2パターン=4タイプがあります
ハッピーなみかえりがうまれるorアンハッピーなみかえりがなくなれば、次回も同じ行動をとる確率が増えます。
こちらは、相手にとってほしい、望ましい行動がターゲットです。
一方で、ハッピーなみかえりがなくなるorアンハッピーなみかえりがなくなれば、次回も同じ行動をとる確率は減ります。
こちらは、相手にとってほしくない、問題行動がターゲットです。
②目指すは「好子×望ましい行動⤴」タイプ
さきほどの4タイプのみかえりをオススメ順にランク付けします。
第1位:①好子をうむことで、望ましい行動を増やす
第2位:③好子をなくすことで、問題行動を減らす
第3位:②嫌子をなくすことで、望ましい行動を増やす
④嫌子をうむことで、問題行動を減らす
【ポイントⅠ:嫌子 < 好子】
総合的には嫌子より好子がベターであり、「嫌子を使うパターン」は基本的に避けた方がいいです。
以下の3つの理由からして、嫌子による効果は疑わしいと言われています。
例として、「ミスが発覚して報告に行く」という行動の結果、「詰められる」というきっかけを想定すると分かりやすいかと思います。
・嫌子出現による行動の強化は、一時的なものになりがちだから
例)怒られた直後はミスが減っても、しばらく時間が経ったり、
怒った人がいないときは緊張感が減ってまたミスを繰り返す
・嫌子はアンハッピーなみかえりであるため、用いた相手にネガティブな感情が生まれ、別種の望ましくない問題行動が増える可能性があるから
例)怒られたことで不安や恐怖が生まれ、普段の報連相もなくなる
・嫌子の刺激に相手が慣れていくため、強度を上げていかないと効果がなくなっていくから
例)怒られることに慣れてしまう
【ポイントⅡ:問題行動⤵ < 望ましい行動⤴】
問題行動の代わりとなる望ましい行動への「好子」出現が使えないか、検討してみましょう。
なぜなら、「③好子をなくすことで、問題行動を減らす」は、罰のように感じられることがあるからです。
例えば、「カンニングする」という行動の結果、「成績が取り消される」というみかえりをイメージすると理解できるかと思います。
罰のように感じるという点では、「④嫌子をうむことで、問題行動を減らす」も同じです。
以上の2つのポイントから、
「①好子をうむことで、望ましい行動を増やす」、つまりハッピーなみかえりを狙うことで望ましい行動を増やすことを優先しましょう。
(2)ハッピーなみかえりを促すチームを創るには?
では、実際に行動分析を用いて、心理的安全性を満たす4つの因子に関連する行動を増やすためにはどんな「きっかけ」や「みかえり」を用いることができるのか、自分がこれはいいなと思ったものを紹介していきます。
心理的安全なチームとは「ハッピーなみかえりを用いて望ましい行動を増やせるチーム」であるため、「アンハッピーなみかえり」は用いません。
①話しやすさ
▼「行動の品質」と「歓迎したい行動自体」を切り分ける
せっかく相手が「歓迎したい行動」をとってくれたにも関わらず、その「行動の品質」を評価してダメだししてしまえば、相手は今後その行動そのものをとってくれなくなってしまうためです。
▼問いかけを工夫して「話しやすさ」のきっかけをつくる
相手が発言しやすくなうように、問いかけを工夫しましょう。
特に、反対意見・異なる見解、改善点のフィードバックといった「言い出しづらいけれども、言ってもらったほうがよい」タイプの発言に有効です。
②助け合い
▼相手が助けを求めるきっかけとなりうる質問をする
「困ってることある?」「私のお願いで分かりづらいところなかった?」みたいな感じです。
▼カレー作ってこなくていいからニンジンとジャガイモの段階で持ってきて
カルビーの常務執行役員の方の「きっかけ」の与え方です。
「ニンジンとジャガイモでいい」と言ってあげることで、ハードルを下げて相談を促すことができます。
▼「なぜ」「どうして」の代わりに「なに」「どこ」を使う
「なぜ?どうして?」と理由を問われると、相手が萎縮して自己防衛に入ってしまいがちです。
文脈を「なに」や「どこ」で置き換えることを意識しましょう。
③挑戦
▼学びをシェアして試してみる雰囲気づくり
取り入れてみたい有益な情報をシェアして、試験的に取り入れてみて、本導入したり修正したりを繰り返すことで、雰囲気が醸成されます。
最近はTeamsなどのチャットツールでサクッと情報をシェアできますので、比較的取り入れやすいかと思います。
▼挑戦を促進するハッピーなみかえりを取り入れる
・チャレンジ自体を称える
・経過・プロセスを見守る
・リフレクション(結果をともに振り返り、ともに学ぶ姿勢)
・挑戦を事例として組織内に周知する
逆にこんなアンハッピーなみかえりは挑戦を阻害します。
・できない理由、難しい理由、考えられるリスクを並べる
・他社事例や成功事例を過剰に聞く
・「失敗しないか?」と尋ねる
・初期段階で、ROI(費用対効果)を追求する
・言ったもん負け(提案するor手を挙げると、自分一人にアサインされる)
▼大切なことを明確化する
2(2)②で触れましたが、
自分自身及びチームの「大切なもの」がしっかりと紐付いていれば、行動の推進力となり、挑戦が促されます。
・自分自身のめざし合い方向性や大切にしたい価値観
・チーム・組織のビジョン・ミッション
個人と組織どちらかの言語化だけでも効果はありますが、それぞれが紐付いていれば、より効果が期待できます。
④新奇歓迎
▼慣習を改める
こんなきっかけはやめましょう。
・上司の意見が絶対(トップダウンへの過剰な依存状態も注意です)
こんなアンハッピーなみかえりもやめましょう。
・目的や達成・実現よりも、細かい手段・プロセスに拘り指摘される
・工夫するより、言われたことをやるだけの方が評価される
・イエスマンや、太鼓持ちが評価される
・「常識」や「普通」という言葉で、異質を拒否する対応
▼「価値づけされた行動」を見抜いて最適配置する
本人にとってみかえりがなくてもやり続けたくなってしまう行動を「価値付けされた行動(Valued Behavior)」といいます。
「その領域では、困難や逆境があっても、夢中・没頭・熱中して、行動をとり続けられる」ような「やりたくてやっている」行動です。
この「価値付けされた行動」は一人ひとりによって異なり、その人の個性や強みともいえます。
一人ひとりの個性や強みを発揮できる最適な配置を行うことで、自ずとその領域における「新奇歓迎」が向上されます。
そうすると、自ずとチームとしての「挑戦」も促進されますし、お互いの「価値付けされた行動」がシェアされていれば「助け合い」にも繋がります。喜びをもって強みを発揮し、弱みをカバーし合いましょう。
(3)「感謝」こそシンプルで強力なみかえり
私たち一人ひとりが率先して心理的安全性をもたらすために行動することが大事だということはすでに述べました。
一番簡単に始められて、エンゲージメントにも効果が高いのが「感謝」を伝えることです。
ポイントは、次の3ステップで「理由をつけて感謝を伝える」ことです。
①「いつ・どんなときに、誰が何をしてくれたのか」出来事自体を思い出す
②何がありがたかったのか、自分がいかに助かったのかを掘り下げ、Iメッセージで感謝の伝え方を考える
③実際に伝える(チャット、メール、対面など)
感謝されることは、その人にとって強力なみかえりになりますが、
ピアボーナスを用いれば、感謝を伝える側にとっても「ポイント」というみかえりが生まれ、行動が促進される可能性が高いと考えられます。
**********************************
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?