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第6話~八百屋の時代~
人生に2020年の春は二度とやって来ない。最高の春だったね、ただそう言いたくて旬の筍を高崎屋に買いに行った。
いわき駅近くにある老舗の八百屋だ。店頭には巨大な筍がずらりと並んでいる。皮の巻きがゆるくて、先端が伸びていなくて、ずんぐりしているもの。これは、美味しい筍の見分け方。まるで秘密の暗号を教えるように、高崎屋の店主が目を輝かせて語ってくれた。
「個人商店の商機」というタイトルで、これから個人商店の時代が到来すると僕は大学の卒業論文で主張した。スーパーのレベル向上によって、安くて安心安全で美味しいものが気軽に買える時代になった。そこで次に求められるのが信念や人情だ。店主がどんな想いで店を開けるのか、どれくらい客を大切に想っているか、商品にどんなこだわりがあるのか。それらに共感する人が店に通うのだ。いちいち売る商品のウンチクを語っていては、非効率だ。しかし、その積み重ねが店主のファンを増やし、長期的な関係構築に繋がるのだ。
非合理性の集積が合理性を帯びるマジックを呼ぶ。―最高の春だったね、妻が僕を見てほほ笑んだ。(いわき民報掲載)
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