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危機感はあるか?

脂をたんまりと含んだ肉厚な食感。濃厚で甘じょっぱいタレと、夏の暑さを吹き飛ぶす、さわやかな山椒(さんしょう)の香りの組み合わせ…。白米と一緒にかきこむと、夏の到来に気づかされる。きょう30日は「土用の丑の日」だ。町なかの至る所にウナギが並んでいることだろう。

なぜ、夏にウナギを食べるのか。土用の丑の日の由来には諸説あるが、江戸時代、暑さで売り上げが下がる夏の時期に何とかウナギを売りたいと、店側が「本日土用丑の日」の看板を掲げ、ウナギの消費を促す取り組みを始めたのが始まりだそう。夏の売り上げ低迷で困ったウナギ屋の店主らが知恵を搾り、夏でもウナギが売れる仕組みを作ったのだ。

似たような文脈で誕生したのが、いわき市発祥の「サンマみりん干し」だ。戦後、歴史的なイワシの不漁に見舞われ、みりん干しを製造していた加工業者は売り上げが低迷した。そこで、当時、大漁を続けていたサンマに着目した。サンマは脂肪を多く含んでいるため、みりん干しには不適とされていたが、加工法を数年にわたって研究するなど努力を重ね、ついに製品化に成功した。

その後、市内では加工業者が増えてサンマみりん干しの生産量が日本一になるほどに発展した。紛れもなく、いわき市を代表する名産品の一つとなった。新しい何かが生まれる背景には「危機」があった。

本県の水産業は、長らく苦境に置かれている。「長らく」というのは、東日本大震災発生以後のことということではない。2000年代に入る頃には、既に水産資源の減少や将来的な担い手減少や高齢化、漁村の活力低下などが問題視されていた。それにも関わらず、水産業界は変化に対応できず、20年前に提唱されたシナリオの通りになってしまったのではないだろうか。土用の丑の日やサンマのみりん干し誕生を参考に、本県の水産業は今こそ危機感の下に行動を起こし、新しい何かを生むチャンスに変える時ではないかと思う。

水産業の渦中にいる私も、数々の挑戦をしてきた。娘が生まれたのをきっかけに、妻とともに新たにお魚離乳食「魚は土台パクパク離乳食」を商品開発し、今年3月から販売している。赤ちゃんに魚の栄養素を取らせてあげたいけれども、手間がかかる上に調理法が分からない。その上、仕事で忙しく、離乳食を作るのが負担になっているというパパ、ママを応援したいとの思いで商品化に動いた。現在、「おのざき」の店舗やEC(電子商取引)で販売しているが、ありがたいことに購入されたお客さまからは大好評をいただいている。

私の腹の底には「福島の水産業はこのままではいけないし、このままにさせない」という強い危機感が常にある。水産業界は過去であり、顧客は未来である。過去のやり方や業界の慣習にとらわれることなく、常に変化する顧客のニーズと向き合いながら、あらゆる角度から魚を提供していきたいと思っている。不安はない。危機感だけがそこにある

(いわき市平、海産物専門「おのざき」4代目)

※この記事は、福島民報「民報サロン」(2023年7月30日)に寄稿したものです。

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