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弁護士のリーガルチェックを活用するコツ

リーガルチェックに対する認知度の高まり

これまで、契約書や利用規約・プライバシーポリシーなど、様々な類型の法律書面のリーガルチェックに関するご相談をうかがう機会がありました。

最近は、大企業のみならず、中小企業やスタートアップ企業、さらには、フリーランスの業界でも、「リーガルチェック」という言葉の認知度が高まっている印象があります。

特に、ベンチャー起業家の方は、将来的なM&AやIPOを見据えて、スタートアップ段階から「リーガルチェック」の必要性を感じていらっしゃる方が多い印象があります。

リーガルチェックって何?

リーガルチェックは、言葉のとおり、「法律的な(リーガル)」「チェック」を行う仕事です。ただ、法律的なチェックとはそもそも何なのか、法律家以外の方にとってはイメージしづらいと思います。

あくまでも私の理解ですが、(契約書の)リーガルチェックで弁護士が一般に指摘するポイントを挙げてみます。

以下のポイントのとおり、リーガルチェックは、契約紛争を防ぐとともに、取引先との信頼関係を維持するために有益なものです。また、将来的にM&Aなどを目指したいベンチャー企業にとっては、デュー・デリジェンスを乗り越えて貴重なビジネスチャンスを逃さないために重要な意味があります。

1.自社に不利な条項の指摘

契約書では、もし取引相手と紛争になったときに、自社に不利な交渉材料に使われる条項が含まれているかどうかが重要です。リーガルチェックにおける最大の目的は、契約書に含まれるこのような条項を洗い出すことです。

2.欠落している条項の指摘

それぞれの契約類型には、「この条項を入れておかなければ自社に不利になってしまう」ものがあります。例えば、秘密保持条項や、知的財産権の譲渡に関する条項、無催告解除条項、反社条項などが挙げられます。そのような条項の欠落を指摘することも、リーガルチェックにおける重要な目的です。

3.解釈が曖昧になりうる文言や条項の指摘

契約書の中に有利にも不利にも読める文言や条項が含まれると、(特に、当事者の関係が悪くなったときに)それぞれが自分に有利な解釈を主張し、争いが生まれるリスクが高くなります。そのような文言や条項をなくして、後々に紛争が起きないようにすることも、リーガルチェックにおける重要な目的です。

4.効力を否定されるおそれのある条項の指摘

「契約書は自社に有利な内容でありさえすればよい」と考える方も少なくないですが、あまりに自社に有利すぎる条項は、消費者契約法や独禁法などを根拠に(厳密にいえば、独禁法については公序良俗違反を理由に)効力を否定されるケースがあります。

どんなに自社に有利な条項であったとしても、法的にその効力を否定されれば、何の意味もない条項(ときには、法令違反を問われるおそれのある有害な条項)になってしまいます。

そのような条項を指摘することも、リーガルチェックにおける重要な目的です。

5.形式的な誤りの指摘

リーガルチェックにおいては、形式的な誤りも指摘の対象になります。具体的には、誤記や、表記ゆれ、条文番号のズレなどです。

このような誤りは、必ずしも契約書の効力を左右するものではありません。ただ、形式的な誤りが多い契約書は、取引相手から心証が悪いものです。

(弁護士によってやり方は異なりますが)形式を整えるためのアドバイスも、リーガルチェックの対象とすることが一般的であるように思います。

リーガルチェックは契約書作成を依頼するよりもローコスト?

契約書作成ではなく、自社で作成した契約書のリーガルチェックを依頼されるケースは多くありますが、その理由としてよくうかがうのが、「リーガルチェックのほうがコストを抑えられるから」です。

たしかに、(私もそうですが)契約書作成よりもリーガルチェックの費用を抑えめに設定している弁護士は多いです。

ただし、リーガルチェックには、契約書作成とは異なり、「弁護士からの指摘を踏まえて自社で契約書を完成させなければならない」デメリットがあります。

自社で完成させるということは、そこに人的コストが発生することを意味します。リーガルチェックの結果を踏まえて契約書を完成させるのに多大な工数を要してしまえば、そこに大きなコストが生まれます。

そのうえ、リーガルチェックを依頼する前には、いったん契約書を自社で作り上げなければなりません。そこにも大きなコストが発生します。

契約書作成を依頼するか、あるいは、リーガルチェックを依頼するかの選択は、単に弁護士費用が高いか安いかではなく、全体的なコストを考えてどちらが費用対効果に見合うかを考えて判断しなければなりません。

リーガルチェックは依頼する側にも法律知識が必要

全く法律知識がなくても、リーガルチェックさえ受ければ完璧な契約書を仕上げられるかといえば、そうではありません。

リーガルチェックは、あくまでも、法律的な観点から「この条項にはこういう問題があります」と指摘するものです。自社において、その指摘を踏まえた検討が必要になります。

つまり、リーガルチェックを活かすためには、指摘の意味を正確に理解し、それを修正案に的確に反映するための法律知識が必要になるのです。

そのような対応が自社で難しい場合は、リーガルチェックではなく、契約書作成案件として依頼するほうが望ましいです。

リーガルチェックをおすすめしないケース

先ほどご説明したように、リーガルチェックは、問題点を指摘することに主目的があります。

そのため、例えば、「書籍やインターネットでそれらしいひな形をいくつか探してつなぎ合わせてみたが、これでよいかよく分からない」といった状態でリーガルチェックを受けても、結局、「指摘を受けたことをどう活かせばよいかが分からない!」ということになりかねません。これでは、コストをかけてリーガルチェックを受けたにもかかわらず、無駄な出費になってしまいます。

このようなケースであれば、契約書作成案件として依頼するか、あるいは、ある程度自社で作成したものをベースに修正案作成を依頼するほうが、ローコストかつ効率的に、水準の高い契約書を作成できるように思います。

(弁護士の立場から見れば、)十分に作りこまれていない契約書をリーガルチェックすると、指摘しなければならない項目が多数となり、その分の工数が発生してしまいます。工数の多さは、費用に反映されます。つまり、自社において契約書を十分に作りこむことが難しい場合には、リーガルチェックではなく、弁護士にはじめから契約書作成の形で依頼するほうが、結果的にローコストにつながるのです。
※タイムチャージ制でなかったとしても、見積り費用が通常よりも高くなってしまいます。
※顧問契約を結んでいれば(固定額の)顧問料の範囲でリーガルチェックを受けられるケースもあります。ただ、弁護士が(固定額の)顧問料の範囲で1通のリーガルチェックにかけられる工数は限られますので、このようなケースでは、費用が上がらない代わりに、リーガルチェックの品質が低下してしまいます。

リーガルチェックが真価を発揮するケース

リーガルチェックが真価を発揮するのは、次のようなケースです。逆に、次のケースのいずれにも該当しない場合には、リーガルチェックではなく、契約書作成案件としての依頼を検討することをおすすめします。

おおむね問題のない契約書ひな形がすでに存在している

例えば、秘密保持契約(NDA)や、日常的にフリーランスとの間で使用している業務委託契約など、すでに自社のひな形が整備されているケースが想定されます。

このようなケースにおいて、取引相手のイレギュラーな要望に応えるために条項をアレンジしたり、社内の方針変更に伴って条項を若干修正した後に、その修正内容に問題がないかを検証したい場合は、リーガルチェックが真価を発揮します。

このようなひな形が存在しない契約類型であれば、まずは、弁護士に1から契約書作成を依頼して、ひな形を整備することをおすすめします。そのうえで、次回以降は、そのひな形をそのまま使えない場合に限ってリーガルチェックを利用することで、コスト面でのバランスを図ることができます。

取引相手から提示されたドラフトが自社に不利なものでないかを知りたい

リーガルチェックの最大の目的は、契約書案に含まれる自社に不利な条項を洗い出すことです。

取引相手と契約交渉をする際に、取引相手から提示された契約書ドラフトを検証して、取引相手がどの程度自社に不利な条件を提示しているかを把握する目的で、リーガルチェックを利用することは、大変有益です。

リーガルチェックを受けた結果、自社に大きく不利な契約書であることが明らかになった場合は、取引相手に修正を求めたり、あるいは、契約交渉自体を打ち切ったりすることができます。

社内に法務に詳しい人材が所属している

社内に法務部があったり、法務に詳しい人材が契約書を整備する体制が整っていたりすれば、リーガルチェックを様々な場面で有効に活用することができます。

このような場合は、自社内でほぼ完成形の契約書を整えたうえで、リーガルチェックを依頼し、「あと一歩」契約書の品質を高めるためのアドバイスを受けることができます。

おわりに

弁護士にリーガルチェックを依頼する際には、ぜひこのnoteを思い出していただければ幸いです。リーガルチェックと書面作成の依頼をうまく使い分けて、最善の費用対効果を発揮する形で弁護士のサービスを活用してください。

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