ウェディングドレスの魔法にかけられて。
繊細なチュールレースのベール、丁寧にまとめられたヘアにプリンセスの象徴ともいえるシルバーのティアラ。華奢なデザインなのに、どうしてあんなに存在感があるのだろう。ティアラがキラキラと輝きを魅せる。
ボディラインにそってキュッと締まったウエストライン。裾に向かって、大きくふわりと膨らんだスカート。これが純白のウェディングドレス。
古くからの付き合いでとっくに顔なじみの友人だというのに彼女の横顔は今までとはまったく違って見えて、この世界で一番美しいと本気で思った。彼女はまさに、わたしが小さい頃憧れたプリンセスそのものだった。
新婦である彼女はスカートの裾を30センチほど滑らせながら、ゆっくりゆっくり歩き始める。会社の同僚、先輩、古くからの友人を見つけては控えめに微笑みながら。
女の子はウェディングドレスに身を包んだその瞬間、世界一かわいくなれるのだ。
隣を歩く新婦の父が涙ぐむ。先に待つ新郎が新婦の手を受け取り、彼女は照れ臭そうに微笑んだ。
これから正式に夫婦となるふたりが、おそろいのTiffanyの指輪を左手の薬指に通し、愛を誓う。チャペルの窓ガラスから差し込む光がTiffanyの指輪をいっそう輝かせた。
たくさんの拍手に包まれながら、ずっしりと重い焦げ茶の扉が大きく開き、ふたりはチャペルを後にした。
外から差し込む光の中へ向かっていく彼女の背中は儚くて、本当にこのまま光の中に消えていってしまいそうだった。
純白のウェディングドレスが似合わないおんなのこなんてきっといない。わたしにもいつかこんな日がきたら、世界でたったひとりのプリセスになれるだろうか。チャペルで王子様に手をとられたとき、とびっきりのかわいい笑顔で世界一の幸せものになれるだろうか。わたしが彼女の横顔に憧れのプリンセスを重ね合わせたように、わたしのウェディングドレス姿もだれかに夢を魅せられるだろうか。
純白のウェディングドレスはきっとわたしのことも世界でいちばんの花嫁にしてくれる。まるでわたしのためのドレスかのようにスッと体になじんで、やさしく包み込んでくれる。
すべてのおんなのこを、“おんなのこに生まれてよかった”と思わせる魔法のドレスなのだから。