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お金は奪い合うことしかできないが未来は共有できる

今月から来月にかけて、日本各地で開催する「結い 2101」運用報告会に合わせて拙著「社会をよくする投資入門」の出版講演をおこなっている。先日東京で開催した会では、平日の夜にもかかわらず100名近い人に参加いただいた。

その場の雰囲気から、「自分のお金をふやすこと」を考えること自体はとてもよいことだが、「ただ自分のお金をふやすことだけ」を目的にした投資に漠然とした違和感を持つ人、そこから一歩踏み出して、投資が持つ多様な視点や自分らしい投資について思考を広げようとする人が多いことを感じる。

田内学さんが書いたベストセラー本「きみのお金は誰のため」(東洋経済新報社)からも投資を含めたお金への向き合い方について学ぶことは多い。特に「お金は奪い合うことしかできないが、未来を共有することで社会や経済は発展する」というメッセージは、投資の仕事に日々取り組む僕にとっても大切な視座を与えてくれた。

今回のnoteは、前回に続いて田内さんの著書を読んで感じたことを共有したい。

【目次】
①       お金にまつわる3つの謎とは
②       お金にはみんなを結び付ける力がある
③       お金の向こうに人がいる
④       一人ひとりが社会を形作っている
⑤       お金は奪い合うことしかできないが未来は共有できる
⑥       贈与が経済を発展させる

①~➂については前回のnoteをご覧下さい。

今回のnoteは、本に書かれている④~⑥について、ボスが七海と優斗に教えたことについて、僕なりの解釈を交えながら要約したいと思います。

④ 僕ら一人ひとりが社会を形作っている

今の経済は、GDP(数字)を増やすことばかりを考えています。果たして、その先に、いい社会、いい未来はあるのでしょうか。数字に惑わされるのではなく、基本に立ち返って本来の経済の目的を考えなくてはなりません。

経済は、無駄な仕事を減らしてきたから発展してきました。無駄な仕事を減らすとは、言葉を変えると、世の中の役に立つ仕事や、人や社会の困りごとを解決する仕事を増やして、その仕事を多くの人で分担する分かち合いの経済です。それが経済の語源といわれる「経世済民」の根本精神ではないでしょうか。

お金は、人と人とのつながりを隠します。しかし、自分がお金を使うとき、必ずその商品を作る人、サービスを提供してくれる人がお金の向こう側にはいます。そして、流れるお金の量が多いほど、多くの人が働いていることを意味しています。

投資や消費のお金をどこに流すかによって、社会の中でどんな仕事が必要なのか、どんな人財が必要なのか、という配分が決まります。そして、その未来を選んでいるのは、まぎれもない僕たち一人ひとりです。

投資も消費も未来への提案です。こういう製品やサービスがあったら未来はよくなる、とみんなに提案しているようなものです。どんな未来を選ぶかは、投資をする、消費をするみんなの価値観に委ねられています。

一人ひとりの行動は小さくても積み重なると大きな流れになります。問題なのは、社会が悪いと思うことです。社会という悪の組織のせいにして、自分がその社会をつくっていることを忘れていることが、一番タチが悪いのです。問題が存在していても悪者はいません。未来はみんなで決めているのです。

⑤お金は奪い合うことしかできないが未来は共有できる

お金はすべて、人の財布から人の財布への移動にすぎず、社会全体から見ればお金がふえているわけではありません。自分の財布の中のお金をふやすことだけを考えたら、単なるお金の奪い合いでしかなくなります。

例えば、年金の問題を解決するには、ただお金を貯めてもしょうがないでしょう。少子化を食い止めたり、一人当たりの生産力をふやしたりしないと根本的な解決にはなりません。お金自体にそれを解決する力はないのです。一人ひとりが、お金をふやすことよりも、少ない人数でいかに効率よく仕事を回せるようにしたり、子供を育てやすい社会にすることを考えたりすることが大切です。

未来に向けて蓄えるのはお金ではなく、共有する未来を一緒に考えながらつくる社会基盤、生産設備や技術、制度や仕組みなどの価値ではないでしょうか。


⑥ 贈与が経済を発展させる

借金した国が破綻するわけではありません。自国のために、さらにいえば他国のために働かなくなった国が破綻するのです。経済が発展したのは、贈与のおかげです。僕らは、お金と商品を交換したり、お金と労働を交換したりしていると思っていますが、実際は全部が贈与です。言葉を変えると、助け合いといってもいいでしょう。

世界は贈与でできています。お金を稼ぐ時は、誰かのために働いています。自分から他人、他人から自分への贈与であり、過去から現在、現在から未来へと続く贈与です。その結果、僕らは支え合って生きていけるし、よりよい未来を作れるのです。それを補っているのが「お金」です。

貨幣経済が発達して、支え合う社会が世界中に広がりました。しかし、その逆に、支え合っていると実感できる「僕たち」の範囲は狭くなったように感じます。「僕たち」の視点が狭くなると、お金の奪い合いが始まります。お金がよりよく循環する経済によって人々の間に調和と平和が促進されます。そこには、誰のために働くか、誰のためにお金を使うか、という気持ちの中に愛がなくてはならないのです。

物語がクライマックスを迎える後段の第4章~最終章では、ボスは七海と優斗にこうしたことを伝えてこの世を去り、七海と優斗は、ボスの教えを心に刻んで力強く人生を歩み始めるシーンで物語は終わります。

田内さんは、経済、金融の専門家であり実務家として長くその第一線で活躍してきた方です。その田内さんが、経済やお金は何のためにあるかを突き詰め、たどり着いた答えが、「お金をふやすための経済」ではなく、「人を幸せにするための経済」だったのではないでしょうか。

田内さんは、その本来の目的のためには、「僕たちの範囲を広げ、感謝と愛を持ったお金で人と人とがつながる社会をつくり、未来への価値につなげること」の大切さをこの本の中で伝えようとしていると感じます。経済の中心に「人の幸福」を据える視点は、田内氏ならではで、とても共感しました。

本著に込められた重要なメッセージのもう一つは、「私たち一人ひとりがつくるお金の流れ、投資や消費、さらには政治における投票が未来をつくる」という点でしょう。ここから、社会における様々な問題を他人事にするのではなく、私たち一人ひとりが社会をつくる当事者であることを伝えようとする著者の強い意志を感じました。

一般に、経済やお金に関する本といえば、難しい専門用語や経済情勢などを分析したグラフなどがしばしば登場しますが、本著にはそうしたものは一切ありません。頭で知識を得るための本ではなく、ある物語を通して「お金の本質」と「経済と社会の仕組み」を心で実感することができる本です。

物語のストーリーにどんどん惹きこまれ、しかも、分かりやすい平易な言葉で書かれているため、子供から大人まで幅広い世代の人たちが楽しみながら読むことができます。読者がこの本を読み終わった時には、お金に対する見方や感じ方、経済や社会に対する眼差しが優しくなり、仕事や人生に前向きな力を与えてくれることでしょう。

ぜひ多くの人に読んで欲しい一冊です。

田内さんとの対談記事はこちら ↓↓

「きみのお金は誰のため」(著者 田内学、東洋経済新報社)


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