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お金自体には価値はない

現代を生きる僕たちにとって、お金は必要不可欠な道具だ。お金はきわめて便利な道具だが、時としてさまざまな問題を引き起こす。お金を道具として使いこなせずに、鎖のように縛られて、人生の選択がお金中心になってしまうこともしばしばある。生活を支えるのはお金だと勘違いをして、いつしかお金の奴隷に成り下がる。

読者が選ぶビジネス書グランプリ2024 総合グランプリ第1位で20万部を超えるベストセラー書籍「きみのお金は誰のため」(田内学 著、東洋経済新報社)は、このようなプロローグで始まる。この本は、謎の資産家ボスが、投資銀行で働く七海(ななみ)と中学生の優斗(ゆうと)に、お金にまつわる3つの謎を解き明かしながらお金の本質に迫る物語だ。とても分かりやすく、ストーリーとしても楽しみながらお金について学ぶことができる一冊である。

大変光栄なことに、5月下旬に上梓した拙著「社会をよくする投資入門」を、この本の著者である田内学さんが推薦くださったことがきっかけで、先日、対談が実現した。今回のnoteは、田内さんの著書「きみのお金は誰のため」を読んで、自著に通じるところも多く、自分なりに感じたことを共有したい。

【目次】
①  お金にまつわる3つの謎とは
②  お金にはみんなを結び付ける力がある
③  お金の向こうに人がいる
④  一人ひとりが社会を形作っている
⑤  お金は奪い合うことしかできないが未来は共有できる
⑥  贈与が経済を発展させる

① 謎の資産家ボスが問いかけた「お金にまつわる3つの謎」


この本の物語は、謎の資産家ボスが、七海と優斗に
― お金自体には価値がない。
― お金で解決できる問題はない。
― みんなでお金を貯めても意味がない。
と謎めいた3つのお題をつきつけ、自分の頭で考えさせることから始まります。

もし、あなたが、誰かから同じことを言われたらどのように感じるでしょうか。多くの人は全く反対のこと、例えば、「お金には価値がある」「お金があればすべての問題が解決できる」「お金を貯めることは将来にわたって安心して生活するために大切だ」と、思うのではないでしょうか。特に、こうした言葉を売り文句に商売する業界の人こそ、強くそのことを自分に言い聞かせているかもしれません。

確かに、自分を主体として見たときには、このような捉え方をすることは自然かもしれません。しかし、社会全体を主体としてお金とは何かを考えた時には、その見え方が変わります。「お金」と「投資」という切り口の違いはあるものの、「いかにお金を増やすか」に縛られた投資の世界に問を投げた自著「社会をよくする投資入門」に通じるものがあると思いながら読み進めました。

②お金にはみんなを結び付ける力がある


本著で説くお金の1つめの謎が「お金自体には価値はない」です。

手元にある1万円札をよく見ると「日本銀行券」と書かれています。なんだ、大事だと思っていたお金って実は単なる「券」なのか、と少しがっかりする自分がいます。実際に、金や銀などでつくられる貨幣は、実物としての価値がありますが、日本銀行券は紙切れにすぎず、実体としての価値はありません。

では、この日本銀行券は、なぜ価値があると思われているのでしょうか。突き詰めると、法律で通貨の額面価格の単位を「円」としたこと、納税を「円」で行うことを定めたこと(もっと遡れば明治6年(1873年)に公布された地租改正法で、お金で税金を納めることが原則となったこと)で、国民が日本で暮らす以上は、円を持つことが無意識の内に共通した生活動機になっているから、ではないでしょうか。

そして、社会の中で一人ひとりの役割分担(分業化)が進むと、自分の生活で必要なものは国民が共有して保有する通貨(日本の場合は「円」)を介して交換する仕組みが広がりを見せることになります。これが貨幣を介した人同士の営み、つまり貨幣経済の基本形です。

関西弁で話すボスは、このことを「お金自体に価値があるわけやない。税を導入することで、個人目線で価値が生まれて、お金が回り始めるんや。」と二人に話します。「みんながお互いのために働く社会に変わったんや」「円という同じお金を使っているから、日本の中で支え合って生きていけるんや」と話すボスの言葉を受けて、優斗は「お金には、みんなを結び付ける力がある」ことを感じ始めます。

このくだりは、お金が持つ社会に向けた眼差しの優しさを感じるシーンです。

③ お金の向こうに人がいる


本著で説くお金の2つめの謎が「お金で解決できる問題はない」です。

例えば、あなたはお腹がすくとコンビニでお弁当を買う、あるいは、仕事で使うためにパソコンを購入したとしましょう。これは、一見するとお金があなたの欲求や困りごとを解決したように見えますが、実際には、それを作ったり、運んだり、販売したりする人が問題を解決しているのです。

ボスは、そのことをこのように二人に話します。

「お金を使うとき、受け取ってくれる人がいる。その人が働いてくれるから問題が解決するんや。お金を使う、ということを深く考える必要があるんや。人の存在にきづかんとあかん。払ったお金の向こう側にはたくさんの人がいる。お金を払うというのは、自分で解決できない問題を他人にパスしているだけなんや。お金に力があることは間違いない。しかし、それはただ選ぶ力でしかないんや。逆に言うとな。選べないとお金は力を失うんや。」
 
自著でも書いた一節、「投資のリターンは、投資先に関わるすべての人によってもたらされている。そしてこの循環が続いていくためには、ただお金を増やすことだけを目的にする投資ではなく、投資するお金がいかに社会を作っているかという視点が必要となる。」に通じます。

「お金の向こうに人がいる」「お金の使い方が社会を形づくる」

田内さんは、この本を通じて一番読者に届けたかったメッセージがここにあるのではないか、と感じています

今回は、ここまで。次回、④~⑥について書きたいと思います。

(参考)
田内さんとの対談記事はこちらをご覧ください。

「きみのお金は誰のため」(著者 田内学、東洋経済新報社)


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