見出し画像

きみの口グセ

「じゃあ、また」
「うん、また」

そう言って君は回れ右をして、電車のホームへ向かう。

どこにでもある、なんとも普通な会話。
なんだけれど、君に恋心を抱いてしまった私にとって君の口グセ、「また」は十二分にもやもやさせる一言だったりする。

ねぇ、「また」っていつ?
何年、何月、何日、何曜日?
小学生みたいなことばが頭に出てくる。
君はいつも、そう。
「ばいばい」の代わりに「また」と、いう。

実は、わざと「また」を使ってたりして。
いやいや、どうせ特になにも考えてないんでしょ。
こうやって言葉1つひとつの意味を必死に巡らせ、考えてみても大概、「いや、待って。これはなんにも考えてない。クセだな、性格だな…」という答えになる。
ある意味、小悪魔。


▽▽
「また」という言葉自体に罪はないことはわかっている。

例えば、すでに後日、約束があるときの「また」。
これはいい。
次も会うことを確かめあってる感じが、なんか嬉しい。
でも、次の会う約束(ふたりでも大勢でも)がないときの「また」。
これはだめ。
ヘンに期待してしまうから。
もう「また」=「ばいばい」ってことくらいわかってるのに。


君の「また」に対して、「んじゃいつにする?」って聞こうと何度も思い、何度もチャレンジもしたし、何度も会う前日から、別れ際の「また」を具体的にする会話のシミュレーションもした。
けど、別れ際の、電車を気にしながら少しばたばたする空気にいつも負けている。
私も流れにおされ「うん、また…」って言っちゃうオチだ。

あー、また言えなかった。次会う予定ってなかったよね? ねぇ?


▽▽
そういえば、君が私に言う「また」は君にとって大事な人にも、同じように使っているのだろうか。

実は、好きな子にはちょっと積極的に具体的な日を聞いたりしてるんじゃないんだろうか……

ふと出てきてしまった、なんとも後ろ向きな疑問。
恋する女の子は好きな人のことになると不安が止まらない。
えーと、こういう時はどうしてたっけな……
いや、大丈夫。
君はそんな積極的にいけるタイプじゃない、はず……
あ、でも好きな子には…?
どうするんだろう?

待て待て、落ち着こう、私…… 



「さっき言ってたバンドのCDやけど、渡すのいつがいい?」
ふいにスマホのポップアップ画面に出た文字。君からだ。

このタイミングでこのLINEがくるなんて。
やっぱり君は小悪魔。…いや、策士なのか。

さっきまでざわざわしていた不安がすぅーっとほぐれていく。
とりあえず、今は考えるのをやめた。

うん、CDの貸し借りっていいなぁ。
借りるとき、返すとき、2度も会えるしなぁ…とまだ先の予定にわくわくする。

次の「じゃあ、また」が、予定未定のそれになりませんように。
どうにか君が私に振り向いてくれますように。
祈りのような想いと一緒に君への返信を打った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?