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毎日超短話556「歩道橋」

歩道橋の上でふと彼は立ち止まる。流れる車のあいだをトビウオが飛び跳ねていて、夕陽と溶け合うそれが美しい。彼はそう思って、しばらくそこにいる。写真を撮らせてください、と声をかけられたのはそのときで、彼女はカメラを手にしていた。ぼくよりトビウオを撮ったほうが絵になりますよ、と彼は答える。彼女は彼の視線のほうに目をやるが、彼女にトビウオは見えない。そうですかと言いながら、彼女は流れる車にカメラを向けてシャッターを切った。視線を戻すと彼はもういない。カメラの中には、トビウオがキラキラと飛び跳ねている写真が収まっている。



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