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毎日超短話383「月めくり」 #シロクマ文芸部

月めくります。

占いストリートと呼ばれる通りで、椅子に座った彼の前には、そんな文字が立てかけてある。そこを通りかかった彼女が立ち止まり、彼に声をかける。

「占いですか?」

彼は「いいえ、占いではありません」と答える。

「えっと、じゃあ……?」

「月をめくるだけです。めくりましょうか?」という彼は夜空に浮かぶ満月を指さした。

「めくったらどうなるんですか?」

「ちょっと薄くなります、時間がたてばまた濃くなりますが」

彼女は薄くなった月を想像する。ナチュラルメイクみたいな透明感があるのだろうか。でもあれは、もともと美しいから似合うだけ。月ってもともと美しいんだろうか。月の裏側は見えない。裏の顔は、どす黒かったりして。遠くにあるから美しいのだとしたら、近づいたら幻滅するんじゃないだろうか。推しのアイドルと出会って近づいてしまったら、いつか嫌いになってしまうんじゃないだろうか。

そんなことを満月を見上げながら考えて、ふと視線を戻すと、いたはずの彼がいなくなっていた。

月めくります。

その文字だけを残して。




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