毎日超短話207「星の梯子」
彼がなぜここで別れを切り出したのかわからないが、とにかく彼は去ってしまった。町を見下ろせる小高い丘のベンチから、わたしは動けずに、号泣している。
カタカタと音が聞こえるので、そちらに目をやると、作業員ふうの男性が、星に梯子をかけていた。
男性が星に手をやると、星は太陽のようにまたたいた。町が昼間のように明るくなったあと、すぐにまたもとに戻った。
気が付くと、となりに去ったはずの彼が座っていて、星の梯子は消えていた。
彼がまた別れ話を切り出して、「大丈夫?」と聞いた。
大丈夫。
無理のない微笑みが浮かぶ。それを見届けて、彼はまた、去っていった。
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