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電気通信普及財団賞(テレコム人文学・社会科学賞)受賞記念:『「政治の話」とデモクラシー――規範的効果の実証分析』著者インタビュー

人々の間で日々行われる「政治の話」は、人々の政治態度や政治行動にどのような影響を与え、またそれは民主主義を機能させるうえでいかなる効果を持つのか。これらの問いを、世論調査データを用いた統計分析や、サーベイ実験によって明らかにした『「政治の話」とデモクラシー――規範的効果の実証分析』が、第39回電気通信普及財団賞(テレコム人文学・社会科学賞)を受賞しました。主権者教育や民主主義のあり方に関して1つの方向性を示すものとして評価されました。受賞を記念して、著者の横山智哉先生にインタビューを行いましたので、その模様をお届けします。いまのお気持ちや、執筆の動機、今後の研究などについてうかがいました。

――このたびはあらためて電気通信普及財団賞(テレコム人文学・社会科学賞)のご受賞おめでとうございます。まずは受賞後の率直な感想についておうかがいできますか。

横山:ありがとうございます。まず本書を審査員の先生方に読んでいただき、さらに本書の内容を評価して貰えたのがすごく嬉しいです。コロナ禍を経て、自治体DXの推進化が進むなかで、Decidimなどのプラットフォームを用いてオンライン上で人々が議論し、地域の問題を解決しようとする動きが活性化しています。おそらくそのような試みに、本書の実証的な知見が応用できると評価してもらえたのかなと思っております。

――本書の内容についておうかがいできますか。どういった問題意識で執筆を始められたのでしょうか。

「政治の話」を実証的に定義づける必要性

横山:私も含めて多くの人が「政治の話」に対して漠然としたイメージを持っていると思うのですが、だからこそ、人々がどういう動機で喋ってるのかとか、どういう特徴を持ってるのかとか、あるいはどういう効果を持ってるのかという点が実は明らかになっていないのでは感じていました。一方で、特に「政治の話」をすることでどういう効果が生じるのかが十分に明らかになっていないにもかかわらず、例えば主権者教育で「政治の話」をしてみようとか、あるいは討論型世論調査で「政治の話」の効果を促してみようといったことが行われています。そのためには、曖昧な「政治の話」をしっかり実証的に定義づけて検証する必要があるのではないかというのが、もともとの問題意識でした。
 だから本書では、「政治の話」を親しい人と喋る「政治的会話」と、見知らぬ人と喋る「政治的議論」に分けてその2つの効果や特徴あるいは構造をわかりやすく、リサーチクエスチョンとして提示したうえで分析しています。

――では次に本書の執筆にあたってとくにこだわった点などがあれば教えてください。

わかりやすく書くことの難しさ

横山:善教先生の『維新支持の分析』を参考にして、研究者以外の方々にもたくさん読んでもらえるように、問いをシンプルに提示して、その問いに必ず答えを提示することを心がけました。また、実証分析のとっつきにくさを少しでもやわらげるために、問いと分析結果を関連させることで、結局何が言えたのかをできるだけわかりやすく書くことで、読み物として読みやすくしました。

――回帰分析の結果をビジュアル化していただくなど、分析結果の見せ方はもとの博論と比べて大幅に修正いただきましたよね。もちろん文章も読みやすくしていただきました。

横山:文章を難しく書くのは結構簡単だと思うのですが、読者を意識してわかりやすく書くのは本当に難しいと思うので、とにかく読みやすさはかなり意識しました。本書のベースにある私の博論を岡山さんは読んでいるのでわかると思いますが、博論の構成から文章までほぼ全て書き直しました。でも書き直したおかげで、一冊の本になったと思います。論文と比べて本の場合は、大きな油絵を書くように、提示した問いと得られた結果から最終的に何が言えるのかという大きなストーリーを描かないといけないんだなと思いました。

――博論と比べて分量も相当増えましたよね。

横山
:ほぼ2倍でしたね。

――そのようにわかりやすく書こうとしていただいたおかげで、別分野の方含めたいろんな方に読んでいただけたのかもしれません。分析内容についてのアピールポイントを1つあげていただくとしたらどういった点になりますか。

横山:私たちが日常生活で何気なくやっている行動(「政治の話」)が、実は政治的なダイナミクスをもたらす可能性があるという、目につきにくい行動が実は大きなインパクトをもたらす可能性があるということを提示できたことがよかったです。政治学では、国家とか政党とか政治家などのアクター同士のコミュニケーションが注目されやすいと思うんですけど、実は私たちの日常生活での「政治の話」が、政治参加を通じて政治的なダイナミックスを生み出す可能性があるよという、これまで注目してこなかった些細な日常のコミュニケーションが、実は世論とか政治を変えうるといったマイクロとマクロの関係性、そういったコミュニケーションのダイナミズムみたいなものを1つ明らかできたと思っています。

――刊行後の読者からの反応などはいかがでしたか。

読者からの反応

横山:私の研究者としてのアイデンティティはおそらく社会心理学なのですが、これまで一貫して興味があるテーマは政治学に関連しているので、政治学の先生方にもたくさん読んでもらえたのは嬉しいです。(※編集部注:『週刊読書人』(2023年12月22日号)の「動向収穫」で、2023年政治学分野の一冊として吉田徹先生(同志社大学)に、『図書新聞』第3601号(2023年7月29日号)の「2023年上半期 読書アンケート」で竹中佳彦先生(筑波大学)に紹介された。) 

――研究者の方に読んでもらっただけでなく、『朝日新聞』の耕論(※リンク先記事は有料記事)で取り上げられるなどメディアからの反応もありましたね。

横山:そうですね。「政治の話」はステレオタイプを持たれやすい存在だと思うんです。そのステレオタイプを解体して、客観的に「政治の話」を捉えてみるというのも一つ試みだったので、それを記者の方に面白いなと思ってもらえたのはとても嬉しかったです。

――「政治の話」ってよく考えたら家族、本書でいう親密圏では結構する人も多いですよね。

横山:そうです。多分、自分が今まさに「政治の話」をしていると意識することなく会話をしていると思うのですが、実はその会話を通じて、自分や自分の生活と政治が関連していると気づいたり、政治を身近に感じるきっかけになるよ、というのが本書の主なメッセージの1つです。

意外に明らかになっていない対面のコミュニケーションの効果

――最初にもちょっとお話しいただいたんですが、そもそもなぜ「政治の話」を博論のテーマにしようとされたのですか。

横山:これは本書には書いてないんですけど、最初はいわゆる王道のメディア効果論の研究をしようと思ってて、特にツイッター(現X)をはじめとしたオンライン上での人々の政治的なやり取りの効果に興味がありました。それで大学院ではメディア効果論を専門とした指導教員の研究室に入ったんですが、ある日のゼミで私の同期が、オンライン上の政治的なやり取りに興味あるみたいだけど、そもそも対面で人々がどんなやり取りしてるか知らないのに、オンライン上の行動だけ分析して何がわかるのって言われたんです。その同期の友人は今新聞記者をしているのですが、その質問で私自身が確かにそうだなとすごく納得してしまったんです。それがきっかけでオフライン上の会話に研究対象を変更しました。彼の何気ない一言がなければ、私は「政治の話」を研究する奥深さに気づけていなかったと思います。

――面白いですね。結果的に先生のご本がメディアの方にも関心持ってもらえて回り回ってというか。

横山:SNSの時代といえども、やはり私たちは圧倒的にリアルな場でコミュニケーションをしていますし、これからもし続けていくと思いますしね。

――ありがとうございます。それでは今後この研究をどうさらに発展させるか、あるいは全く別の研究でもこんなことに取り組んでるとかがあればぜひお聞かせいただけますか。

オンライン上でいかに熟議が可能か

横山:まず1つは、本書では主に親密な他者との会話に着目しているのですが、親密な他者以外の人たちも含む一般的な会話状況を対象として、どのような話題に抵抗感があるのか、どういう人物が会話相手として選ばれるのかという問いを検討したいと思います。この問いに関しては既に実験を行っていて、つい最近1本目の論文を書き終えました。
 またもう1つは、この本にも書いたのですがDecidimという参加型合意形成プラットフォームがあって、そのDesidimを使って人々が地域の問題について議論し、その中でどのような意思決定をするのかという問いを検討したいと思います。
 少しだけ具体的にお話しすると、本書ではオフライン上での会話だけを分析したので、今後はやはりDecidimなどのプラットフォームを利用してどういうふうにしたらオンライン上で熟議ができるか、あるいは人々がどのようにして他者の意見を踏まえながら合意形成するのか、合意形成するためにはどういう設計が必要で、どういうことを言ったら他人の意見を受け入れるようになるのか、とかそういった制度設計に今後は本書の研究内容を反映させていきたいなと思っています。

――楽しみです。大文字の民主主義考えるのも当然だけど、やっぱり日常のいろんなコミュニティ、会社とかいろんな学校のサークルとかそういうのに存分に生きるような研究になりそうですね。

横山コロナ禍を経て、やっぱり人と話すのが改めて大事だとみんな気づいたと思います。一方で、オンラインで人々とやり取りする経験が増えたからこそ、オンライン上で人々が集まってコミュニティや会社の問題を解決してみる試みも増えると思います。そういうときに、どうしたら問題解決がうまくいくのか、どのような制度設計であればより良い意思決定ができるのかという、人々がさまざまな場面で他者と話すことの重要性が社会的にも増しているように思います。どっちかというと、私はその大文字の民主主義じゃなくてコミュニティとかのほうに興味があるんでしょうね。

――最後に研究者に向けてというか、今後「政治の話」に関心を持っているあるいは関心を持ち始めている研究者に対してなにか伝えたいメッセージがあれば。

「政治の話」研究は面白い!

横山:そうですね。「政治の話」に関する研究と聞くと、なんだか新しく、かつ他の研究領域とはあまり関連性がないテーマを扱っていると思われるかもしれません。ただ、個人的には「政治の話」に関する研究は、メディア効果論の一種に含まれうるものだと思っています。私が最も好きな研究者であるラザースフェルドらが『ピープルズ・チョイス』コミュニケーションの二段階の流れ仮説を提唱したように。なので「政治の話」を扱う実証研究は、メディア効果論や政治コミュニケーション研究の知見を踏まえながら、大いに発展する可能性があると思っています。「政治の話」に関する実証研究を面白いと思いませんか。面白いと思ってくれたら嬉しいです。

――ありがとうございました。横山智哉/著『「政治の話」とデモクラシー――規範的効果の実証分析』は絶賛発売中です(電子書籍もあり)。『書斎の窓』2024年3月号に、田村哲樹先生(名古屋大学)に書評をお寄せいただいていますので、こちらもあわせてご覧ください!


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