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『職場がうまくいかないときの心理学100』座談会②

本記事は、2024年に開催した著者による座談会の文字起こしです。
前回:座談会①



本書の「使い方」

――本書冒頭のワークシートも目を引きますね。

芦高 経緯としては、100項目が出揃ってから、このワークシートを思いつきました。たくさんの素晴らしい内容が揃っていたので、もう読めば読むほど、頭からところてんのように抜けていくような感じで、このまま読んでいたら多分何も残らないのだろう、読み終わってもどうしたらいいんだっていうふうにまた止まってしまうのだろうと感じられたので。読者が目的意識を持って、ワークシートに記録を残しながら読み進めてほしいというところがあります。
 「ペルソナ」によって、ゴールのイメージは明確に持てたんですけれども、「じゃあそれに至るプロセスはどうやればいいんだろう」となると思ったので、そういうところまでサポートできるようなツールがあればいいと思い、このワークシートを思いつきました。心理学的なことを言うと、メタ認知的なものをサポートしたいということを付け加えておきます。

――このシートは有斐閣のサイトからも無料で公開されていますので、積極的に活用したいですね。


有斐閣の書籍紹介ページで公開中!

「イシュー・ドリブン」の構成

――「話が通じないのはなぜ?」(項目56番)など、組織にいると「あるある!」と膝を打ちたくなるようなトピックも盛り沢山ですね。
 本には載ってない内容でちょっと発展的なのですが、逆に、新人や部下に話が通じないといった場合にはどうすればいいのでしょうか。

渡辺 最近、若者と、言葉からイメージする世界が違うという話が一般的にもよく言われていますね。
 すごく簡単な例で言うと、「カレーライスを食べたんだ」って聞いたときに、「ふーん、カレーライスね」だけで終わっちゃうと思うんです。誰でも知っているだけに、分かっているつもりになるので,詳しい話,たとえば辛口なのか甘口なのか、本格的なネパールのカレーなのかレトルトカレーなのか、などはあえて聞かない。それぞれ勝手に「カレーライス」のイメージを持っているだけみたいな感じです。ですから「(すごくスパイシーな本格カレーを食べちゃったとして)カレーライス食べたから今日ちょっと胃が痛くて休みます」という話があったときに、「なんでカレーライスぐらいで胃が痛くなるんだ?」となる。そのように自分たちでわかっているつもりでいて、お互い同じようなイメージ(これを少し専門的に言うとメンタルモデルといいます)を持っていると勝手に思っているけれども、全然違っているということがよくあるんだと思うんですね。
 本書に書いた話は、自分が関与する作業空間が、作業する人と上司が思っている作業空間とが食い違っているという話なんですけれども、もっと身近なことでも、お互い共通だと思っていることでもずれていることがあって、そこから発展してどんどん違う話になっていってしまうという,通じなさがよくあると思うんですね。そういうときの対処っていうのは、やはり分かったつもりではなくて、相手が何に対してどんなイメージを持っているのかに興味を持って聞くっていうことだと思います。
 「聞く」ということは一番オーソドックスなアナログな感じなんですけれども、その人が考えていることについてお互いに分かり合えるようなコミュニケーションを取っていくということが、デジタルの時代になってもすごく大事なところなのかなと思います。

安藤 「あるあるネタ」でいうと、テレワークの話も身近な話題として入れました(項目60番)。
 コロナ禍のテレワークが真っ盛りの頃は、対面が無理なのでどうしてもテレワークが第一となったわけですが、最近のように以前の状態にほぼ戻ってくると、テレワークだったからこれができなかった、あれができなかった、その点、やっぱり対面だと素晴らしいよねとか、どちらか一方に極端に触れがちになります。でも実際にはそれぞれのメディアの良さがあるのですよね。そのため、本来的にはメディアの使い方は、仕事の種類や状況によって組み合わせるのが一番なわけです。
 だから、こういうふうに組み合わせることができるんだよとか、それぞれこういうメリットとデメリットがあるという、いわば当たり前のことですが置き去りにされていたのではと感じたことを書籍では取り上げてみました。やはり、与えられたもので思考停止になってしまうのではなく、今自分たちの状況では何ができて何が必要なのかということを、そのたびごとに自分たちの頭でしっかりと考えながら選択していただく必要があると感じています。
たとえば今回の座談会もオンラインを通じて行われており、これはこれで大変便利であることに変わりはないですよね。一方で言うまでもなく、対面のよさももちろんあって、どれか一つを固定的に選択する必要はない、もっと柔軟に自由に必要に応じて考えていくのがこれからの時代を上手に生き抜く戦略といえるのではないかと思います。

100項目のクラスタリング

――本書では100個のトピックが9つの章に分かれていますね(下図)。

各章のタイトルを検討していた当初の資料

伊東 執筆を終えた後に全員でカテゴリー分け(章分け)と章のネーミングの作業がありました。章分けに関しては、通常の教科書的書籍であれば、編者の先生が大枠の内容構成を考えた上で、各執筆担当の先生にお任せするので、執筆後に章分けを皆で行うことはありません。今回は想定読者の困り事中心に各執筆者が項目を持ち寄るので、章分けに悩むことが想定されました。でも、実際はスムーズでした。理由は2つあります。1つ目は、執筆者4人で最初から、「組織の中のどういう現場のどういう役割の人がどういう困り事や問題を抱えているか」という軸を共有してきたことです。
2つ目は、執筆が進む過程で月1回の進捗会議を開いて、月平均3個のペースでトピックを共有しながら進めたことです。どんな困り事が出てきて、どういう学問的知見が出てきているかを毎月共有しながら進めたので、章分けはスムーズにいきました。
 章のネーミングに関しては、ちょっと迷いましたね。一つの章に入るもろもろの困り事から例えば「エラーやミスを防ぎ、いつもの作業をうまく回すには」にすると、具体的ですが章のネーミングとしてはあまりに狭いですよね。ですから、抽象度を上げて、しかも現場の方にも親近性ある用語にしました。例えば、商品の魅力に関しては「マーケティング」とか、働く気になることに関しては「モチベーション」といった抽象度にしました。
 このように9つの章のネーミングは、読者の方々に馴染みやすい用語にすることでまとまったと思います。心理学用語ではなくてですね。ただ、「パフォーマンス」の章に関しては、どのレベルのパフォーマンスにするかを議論したと思います。最終的には読者の方々の役割を考えて、「チームのパフォーマンス」にまとまりました。


に続く)


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