トイレにこもった女の子とノックで会話した話

お母さんのほけんしつは
子どもの不登校に悩む
お母さんお父さん向けの
無料LINE相談窓口。

今200名近くの方の登録があり
その半数の方とやり取りしています。

実際に家庭に訪問しないことには
わからないこともあり
子どもの様子についても
又聞きより実際に会ってみたほうがいい。

最近は週に1~2件のペースで
初めましてのご家庭に訪問します。

この間、不登校になって半年の
中3の女の子の家庭に
女性スタッフと一緒に訪問。

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家に到着する直前に
お母さんからLINEが入る。

「実は娘がトイレに入ってからしばらく出てこなくなってしまったんです」

こちらとしてはよくあることだった。
不登校の状態にある子どもの中には
「大人が来る」ことに
抵抗感を持つ子も多い。

また「家に」というのも大きい。
家が唯一の安心できる場所だから。
そこに来られるということはつまり
「私の安全を脅かされる可能性がある」
ということ。

「会うのは怖い」というのが
むしろ正常なくらいだと思う。

返信した。

「わかりました!とりあえず会えなくてもその時はその時なので、とりあえず訪問させてください^^」

会えなくてもいい。
でも1%でも可能性があるのであれば
そのチャンスはしっかり掴みたい。

もし会えなかったら
また来るか、もしまた会えなかったら
別の方法を考えればいい。

訪問すると、お母さんが小声で迎えてくれた。

「やっぱりまだトイレから出てこなくて…すみません、本当に。」

謝る必要はない。
お母さんは何も悪くない。
本人ももちろん悪くない。

いいのだ、これで。
自分はただ確かめに来た。
今日が何か変化のキッカケになるのか。
今日がそのタイミングなのかどうか。

2階に連れられ「ここです」と
カギ穴が赤くなった個室を案内された。

「〇〇ちゃん、こんにちは。土橋と言いますー」

もう一人のスタッフも言う。

「○○ちゃん、こんにちは~。▢▢って言います。よろしくね~」

全く反応はない。
ただほんの少しだけ
もぞもぞ動く音は聞こえた気がした。

お母さんは「あ、よければお部屋どうぞ」と
本人の部屋を案内してくれた。

「あ、ありがとうございます。でも今はここで大丈夫です」

と、扉越しに本人にも聞こえる声で言う。

もしかしたら勝手に自室に入られることがイヤかもしれない。

お母さんは部屋の扉を開けてくれた。
ちらっとマンガが見えた。

「あ、鬼滅の刃じゃん!」
「え、すげー、いっぱいマンガある。」
「○○ちゃん、マンガ好きなの?」

まだ返事は一切返ってこない。
ふと思いついた。

「ねえねえ、声でお返事しなくてもいいからさ、ノックでお返事することってできる?」
「YESだったらノック2回、NOだったらノック1回してみて?」

……コンコン

ノックが来た。答えは「YES」だった。
彼女とのコミュニケーションがスタートした。

「ありがとうね。鬼滅の刃、好きなの?YESだったらノック2回、NOだったらノック1回して」

…コンコン

「おおおおおおお、いいねえ。自分もね、鬼滅の刃見てるんだ。アニメだけなんだけどね。あ、でも▢▢さんも、好きだっけ?マンガ持ってたよね?」
「そうなんです。めっちゃ好きで、マンガそろえてます!最新刊が付録がついてて、めっちゃ良かったんですよ~。○○ちゃんも最新刊買った?」

…コンコン

「おお、え、▢▢さんはなんのキャラクターが好きなの?」
「えーと、宇随天元さんですね!!!めっちゃかっこいい!」
「なるほど(笑)今日一の笑顔だね(笑) え、ちなみに○○ちゃんわかる?天玄さんかっこいい?」

コンコン

なるべく、YESになるように質問をしていく。
人はYESのやり取りが続いたほうが心地がいい。言われるほうもだが、言うほうも。特に相手が初対面である場合、NOと言うことは思ったより心に負担がかかる。この子の今の心理状態を考えてもそうだった。

「天元さん、人気だな~。あ、ちなみに○○ちゃんは何のキャラクターが好きなの?」
「△△と、▽▽です」

か細い、今にも消え入りそうな声で
返事が返ってきた。

これが初めての声でのコミュニケーション。
間は省いたが、ここに至るまで
10分ほどノックでの会話があった。

「おおお、えーと、誰だっけ…あ、調べてみよっと。」

スマホでキャラクターを調べる。
その間、もう一人のスタッフが質問する。

「△△と▽▽もめっちゃいいよね!わかる~!え、前のさ、あのグッズは買った?」
「あ、あれは買ってないです」
「え~、そうなんだ~、私もまだ買ってないの~」

そんな会話をしている間に
スマホで調べ終わった自分は

「あ、この人か!!!たしかにかっこいい。てかめっちゃ強いね、この人。すげー。」

ここで話を少し変えていく。

「ねえねえ、お部屋ちらっとだけ見えちゃったんだけどさ、マンガめっちゃあるじゃん?おススメとかある??」

クローズクエスチョン(YES、NOで回答できる質問)から、オープンクエスチョン(語句や文章へ回答する質問)へ移行していく。

「んー、ハイキューが面白いですね。」
「あ、そうなんだ。ちょっと手に取って見てみてもいい?」
「はい」
「へ~、バレーのマンガなんだね。『(読みながら目についたセリフを読みました。なんだったかは全く記憶にありません(笑))』」
「あ、それ☆☆のセリフですよね。」
「ええええええ!すげー!!!あたってる。ちなみに何巻かわかったりする?」
「んーと、たしか◯巻です」
「えええええええええええ!正解!すげーーー!!!記憶力半端ない!何回か読んだのこれ?」
「そうです。3回くらいは全巻読み返してます。」
「めっちゃ好きじゃん。にしてもすげーな。え、じゃあこれは?『セリフ』」
「ん~、◯巻か◯巻ですか?」
「お、おしい!!◯巻だった。でもすごいな、だいたいあってる。ほんとに好きなんだね。ねえねえ、もしよかったらなんだけどさ、今日難しい話とかはしないから、○○ちゃんとマンガとかアニメの話とかしたいなと思って、トイレから出てきてお話しない?」
「…わかりました。」

ゴソゴソ…ガチャッ

「あ、こんにちは。初めまして、でいいのかな?(笑)土橋と言います。よろしくね。出てきてくれてありがとう」
「こんにちは~、▢▢です。鬼滅の刃の話できて良かった~。仲間を見つけた気分だよ♪」
「○○ちゃんのお部屋で話しても大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」

この時にはもう本人は笑顔だった。
ここに至るまで30分弱。
初めての顔を合わせてのコミュニケーション。

さっきまでノックでしか
やり取りできていなかったとは思えないくらい
彼女は自然に笑顔で、楽し気に話をしてくれた。

部屋に入ると、ワンピースのジグソーパズルを発見。
これ一緒にやってもいい?と聞き、スタート。

そうこうしているうちに
お母さんが部屋に入ってきて
おやつを出してくれた。

どれが食べたい?
甘いの好きなんだよね。
これめっちゃ美味しいんだけど!!!

そんな他愛もない会話をして
30分ほど過ごし
「じゃあまた今度来るからね」
と伝えた時の
彼女の表情は忘れられない。

ちゃんと心から笑っていた。

家族以外の人と会えた、話ができた、という実感。
同じ趣味を持った人と出会えた、という喜び。
久々に楽しい時間を過ごせた、という安心。

そんな気持ちが、表情に現れていたように思う。

2階の部屋で「またね~」と伝えると
そのまま玄関まで見送りに来てくれた。

「う~わんわん!」と吠える
愛犬を抱きかかえて
彼女は素敵な笑顔で送り出してくれた。

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以上が、不登校の中3の女の子との
初めましての時間でした。

コミュニケーションというのは
言葉だけではないんです。

表情や声がなくても
扉越しにやりとりはできます。

子ども達の今のその状態を受け入れ
そこから一歩踏み出すために
どういう手段があるのか
私たちは頭をひねってひねって
その場に合わせた方法で
子ども達とやり取りをします。

その後帰ってから
お母さんからLINEが入っていました。

「今日は遅い時間からわざわざありがとうございました。
トイレから出てこない時も根気よく話しかけて下さって、本当にありがたかったです。
あのまま、今日やめてしまっていたらやっぱりダメだったと、私は心の中で落ち込み、○○(お子さんの名前)はまた次の機会で緊張が膨らんでいたかもと思い感謝でいっぱいです。
○○は、あの後もご飯を少し食べに来て。
どうだった?との質問に笑顔で楽しかったと、パズルも出来たよと話していました。最初は、やはりびっくりしたようでしたが、会って良かったと話してます。
また、来てもらう?との質問にはうんと言っていました。今日は実は日中ご飯が全然たべられなかったと話していて朝、昼、たべておらず薬も飲んでいなかったので、本人も事前に話しておいた事でプレッシャーになっていたのかと。しかし、結果的に、とてもいい感じで本人も終われて良かったです。
旦那も、会えて良かったねと話しています。
また、今後とも宜しくお願い致します。」

「こちらこそありがとうございます」
という気持ちでした。

子ども達と出会うたびに
その可能性と笑顔に
希望を強く感じるんです。

みんな、ひとりひとりが
可能性の塊なんだって
信じる気持ちを強く持つきっかけを
みんながくれるんです。

自分は、こんな日々を通して
みんなから元気をもらっています。

本当にありがとう。

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