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リストラでは「有害なポジティブさ」が現れる。経営者の言葉、望んでいない助言や励まし…

米国のIT大手企業が大規模人員削減を続けています。アマゾンもその1社です。

アマゾンの職場環境の過酷さは10年くらい前から日本・アメリカほか世界各国で告発されています。最近では労働組合が闘っています。

アマゾンのリストラの実態に迫った、上記の2月17日のビジネスジャーナルの記事には、ニューズピックスで多くピックされているのを見ましたが、意識高そうなビジネスパーソンから「だって、外資系企業ってこういうもの」「マスコミは一面的に不安を煽ってばかりで、偏っている」、従業員の被害の状況には「無関心」「なんで自分に合った職場に行かないんですかあ」というようなスタンスのコメントが目立ちました。

この機会に知ってほしいことがあります。

人員整理については、個々の感じ方や影響は様々です。いつリストラになっても次々とオファーを得て高額パッケージを手に転職していける人が注目される一方で、そうすることのできない人、1年以上、場合によっては何年も再就職にたどり着けず大変な思いをしている人がいるということ。

後者の人はなかなか可視化されません。とりわけ大変な思いをしているのが、産休・育休中の人、障害者、シングルマザー、高齢の人、ハラスメント被害者、メンタル不調者。リンク先の記事を読んで、アマゾンで働いている人にもそんな人がいるのかと思うと心配になります。

筆者は、リストラ局面では様々な形で「有害なポジティブさ」(toxic positivity)が現れるのを、気がかりに思っています。

有害なポジティブさ(Toxic Positivity)とは、どんなに悲惨で困難な状況でも、人々はポジティブな考えを維持すべきだという信念を表す。ネガティブな感情を切り捨て、“good vibes only”、すなわち、前向きな願いや思考、姿勢だけを受け入れる姿勢を示す。

https://ideasforgood.jp/glossary/toxic-positivity/

いま、レイオフの嵐が吹き荒れるアメリカで、そうした問題意識が高まっています。"layoff, toxic positivity"でグーグル検索すると、レイオフのなかで様々な形で有害なポジティブさが現れるのに危険を感じる、と問題提起されているのを見かけました。例えば、経営者の言葉、対象となりショックを受けている従業員への望んでいないアドバイスや励ましの言葉など。

2023年1月に音楽ストリーミングプラットフォームのSpotifyがアメリカでレイオフした時、CEOが発表した文章が「有害なポジティブさ」が現れていると批判を浴びました。「レイオフは良い変化をもたらす」とする文章が、「対象となる従業員に対して無神経である」と批判されました。

日本でも、例えば、自分が職を失うことへの当然の不安や会社のやり方への不満を表す人に対して、「外資系ではそういうことに備えて準備しておくのが作法だろう」というような意見が出されるのを見かけることがあります。「会社に寄りかかるのではなく、しっかりと自分の足で立つのが大事だ」ということを言いたいのでしょうが、聞く側からすれば緊張しますし、言いようのない疎外感を持ってしまう言葉だと思いました。

筆者自身、苦しかった経験をしてきた発達障害の雇用やキャリアの問題の当事者です。外資系通信社に発達障害をオープンに障害者雇用枠で入社するまで、なかなか再就職にたどり着けず1年近くの間に100社程度応募し、やっとそれが叶った。にも関わらず、数か月でまた転職活動をやり直さなければならなくなったことがありました。それこそダイバーシティ&インクルージョンやフィランソロピーにトップがコミットメントしたグローバル企業で、発達障害の診断書や合理的配慮事項を提出してジョブコーチの定着支援を受けていたにも関わらず、数か月で「仕事を覚えるのに時間がかかる」とロックアウトに遭うという経験をしました。そこで「前向きに、より自分に合った職場を見つけるチャンスだと捉えましょう」と言われても、全くポジティブな気持ちにはなれませんでした。なんとか自分を奮い立たせようとしたこともありましたが…。筆者はそれからは、35歳を過ぎての再就職でとても苦労し、役所や社会福祉協議会に通って生活資金を援助してもらったり、高齢の両親にも多くの負担をかけてしまいました。

日本では、そのような企業でも、2.3%(2024年4月からは2.5%)の障害者を雇用する義務になっています。ですが会社のこうしたやり方は、障害者など転職に困難を抱えがちな人には恐怖を与えませんか。ましてや「毎年下位数パーセントを淘汰する人事評価」のところで、障害者や社会的マイノリティの採用定着が進むでしょうか。こうした企業がダイバーシティインクルージョンをPRして採用活動をしているのが心配です。

手続きの問題や、転職に困難を抱えやすい人の境遇、有害なポジティブさ、これらは人員整理に潜んだ雇用やキャリアの社会課題と考えています。

そんなことを思いながら、発信を続けて、いまでは、筆者の存在がきっかけとなって、救われたという人、今後の身の振り方を考えることになった人、誰かに聞いてもらえただけでも心が軽くなったという人、表立って言えないけど応援しているという人も。

今年はその輪をさらに広げていきたい、と思います。

※「有害なポジティブさ」とその対処方法について、詳しくはこちらのサイトに掲載されています。

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