「直感」文学 *魔法の言葉*
それはほんの一瞬の出来事だった。
右手に持ったハサミは、その口を閉じて、私の指の腹を浅く切りつけた。
薄皮がパックリと開き、じんわりと熱を感じてから痛みを覚えた。
赤い血がゆっくりと流れ出し、それはひたすらに指を濡らす。
「あーもう何やってるの」
私の傍で、シンジはそう言った。いや、私だって別にわざとそうしようとした訳じゃないよ、ただ、たまたまハサミの先が私の指に揺れてしまっただけ。
「あー全然血止まらないじゃん。ほら、とにかく拭いて」
そう言って、ティッシュを差し出されたから、私はそれを切れた指に押し当てた。
真っ白だったティッシュはすぐに赤く染まって、その色は、なんだか私が生きていることを改めて実感させたりもした。
「本当ドジだよな。まったく」
シンジはそう言いながらも、私に絆創膏を差し出した。
私はそれを指に巻くけれど、その表面は私から溢れ出る血ですぐに赤く染まってしまったのだった。
「大丈夫か?」
シンジのその優しい言葉は、指先のその痛みを随分と和らげてくれる、魔法の言葉だ。
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